きちんと体力をつけましょう
だいぶ間隔があいてしまってごめんなさい!
今回は初めてまともな戦闘が入ります。
そして、翌日。やはり起きて来ない勇人を起こしにレティリアが部屋まで来ていた。
「ハヤトさーん。起きてくださーい」
体を揺さぶるが、起きる気配は無い。
「……てい」
レティリアが勇人の頭にチョップをお見舞いする。可愛らしい仕草や声とは裏腹に鈍い音があたりに響き渡り、勇人の頭がベッドの上でバウンドする。
「~~~~っ!!!!」
勇人が頭を抑えて悶絶する。
「え!? 何!? 何が起こったの!?」
「ほら、何をしてるんですか。さっさと起きてください。また師匠を待たせることになりますよ」
不遜な口調でレティリアが言う。
「なんか頭が凄く痛いんだけ……いや、なんでもないです」
レティリアが顔に満面の笑みを浮かべる。ただし目は笑っていない。
「じゃぁ早く着替えて中庭に来てください。あまり毎日待たせないでくださいね?」
そういってレティリアが部屋から出て行く。
勇人は理不尽だ、と思いつつも起きなかったのはこちらのせいなので口に出せず、ただおとなしく着替えることしかできなかった。
「おはようございますアマニウスさん」
「おう、やっと起きたか。じゃぁ早速だが訓練を始めるぞ」
勇人がその声に従って木剣を手に取り、10mほどの距離を開けて対峙する。
「さて、昨日も分かったとおり、実力だけなら俺のほうがお前よりは上だ。が、生憎俺の剣は我流でな、きちんとした剣術を修めたやつに教えられるようなもんじゃない。……だから見て学べ。昨日フェイントをものにしたようにな。
仕合の中で俺の剣をお前の物として昇華させてみろ」
そういうと、アマニウスが木剣を構える。剣は昨日のものよりも二回りほど大きく、それを両手で持って構えている。恐らく本来は両手剣を使っているのだろう、昨日よりも気迫が強力なものとなって吹き付けてくる。
それを感じて、勇人は剣を構えた。構えは昨日と同じで防御が主体のもの。倒されないことに重点を置いた構えだ。
そして一段と気当りが強くなったかと思うと、次の瞬間にはアマニウスの体が勇人の目の前にまで移動してきていた。
(一瞬で10mとか早すぎんだろ!)
勇人は驚きつつも何とか攻撃を受ける。だが流石に受けきれないと判断した勇人はそのまま剣を受けつつ跳んで攻撃を受け流した。
「ふ、いい判断だ」
アマニウスが振り切った剣を再び構え、先ほどと同じように一瞬で加速して勇人に斬撃を放つ。
(剣筋は単純。あるのは速度と威力だけ。なら――!)
勇人が剣を巻き込むように回転して斬撃を避ける。そして剣を振り切ったアマニウスに対して切りかかる。それを高速で剣を手元に戻したアマニウスが弾く。そしてそれを期に互いに距離をとって再び対峙する。
「ふむ。やはり二度は通じんか」
アマニウスが剣を振り回しながら言う。
「まぁそうでなければいきなり実戦などしないがな。さて、次は足を止めて打ち合ってもらおう……かっ!」
言葉と同時にアマニウスがこちらに斬撃を放ってくる。またしても瞬間移動としか思えない速度だが、先ほどよりは遅い。だがその代わり斬撃は先ほどよりも鋭くなっている。勇人は辛うじてそれを弾くと、そのまま攻勢に転じる。
目にも留まらない程の剣舞。互いに斬撃を放ち、弾き、避け、いなす。互いにまるで円を描くかのように互いの位置を入れ替えながら、打ち合い続ける。
しかし時間がたつにつれ徐々に勇人の方が劣勢に傾いていき、そして数十、いや恐らく百合近く打ち合ったのち、どちらとも無く距離をとる。しかしその様相は両者で大きく変わっていた。
勇人が既に息が上がり今にも倒れそうなのに対し、アマニウスは流石に多少息が切れているものの、依然として余裕の表情で剣を構えていた。
「これ以上は続けてもどうしようもないな。よし。一旦休憩にするか」
そういってアマニウスが構えを解いて剣をしまう。それと同時に勇人が地面へ倒れこんだ。
(っはー。あんだけ打ち合って疲れも見えないとかバケモンか。……スタミナがあればもっと打ち合えるのに)
そうしてしばらくぼーっとしていると、不意に視界に影がさした。
「ほら、いつまでも倒れてないで行くぞ」
アマニウスに腕をつかまれ、無理やり起こされる。
そしてそのまま食堂で朝食をとり、再び中庭に戻ってきた。
「今日からお前には毎日走りこみをしてもらう」
中庭に着くなりアマニウスが言った。
「お前には技量はあるが持続力が足りてないからな。それをつけるためには走りこみが一番手っ取り早い。走りこみが必要ないくらい実戦をやるという方法もあるが、まぁ俺にもそれほど時間が無いからな。これからは朝一の打ち込みの後にこれを担いで走ってもらう」
そういって取り出したのは巨大な登山などに使われるようなバッグだ。地面に置くときに鈍い音がしたことから考えると、恐らく中に何か詰まっているのだろう。
「こいつの重さは大体40kgだな。こいつを背負って……そうだな、村の外で適当にコースでも見繕うか。レティリア、後で走りこみによさそうな場所を探してやってくれ」
レティリアが了承を返す。そしてそれを確認したアマニウスは勇人の方を向いて言った。
「と、言うわけでお前はこれを背負って走って来い。わかったな?」
それに対して勇人がはい、と答えるとアマニウスは「じゃぁ俺はこれから公務があるから」といって屋敷の中へ姿を消した。
「走りこみか……。まぁスタミナは付けたかったしね。それではレティリアさんよろしくお願いします」
「はい、お願いされました。じゃあとりあえずそれを背負ってついてきてくださいね」
「……はーい」
勇人が渋々といった動作でバッグを背負う。
「重……くはないかな、あんまり。近所の子供のほうが重いかなぁ」
「ん、大丈夫そうですね。じゃ、迷わずに必ずついてきてくださいね」
レティリアがニコリと笑いながら、いきなり走り出す。
「え? ちょ、待って!」
それを追いかけて勇人も走る。
普段とは違う道を通っているのか周りにはあまり建物が無く、畑が広がっている。人通りもほとんど無い。
(まぁいつもの大通りで走ってたらだいぶ迷惑だろうしね)
そして勇人たちがしばらく走っていると、前のほうに見覚えのある建物が見えてきた。
「おや、レティリアじゃないか。今日はどうしたんだい?」
「村の外で……んー、鍛錬ですかね? あ、あとこの前一緒に村に入って来たハヤトさんはとりあえずアマニウス様の客人ということになったので手形は無くていいです。まだカードは無いですけどね」
「はい。じゃあハヤト君、手形を返却してもらえるかな」
「あ、はい」
そういって勇人が懐から手形を取り出す。
「はいどうも。それではいってらっしゃい」
「いってきます」
「あ、いってきます」
勇人とレティリアが村の外に出る。あたりに広がっているのは一面の草原と丘陵。そして丘を越えた先には小さな山が見える。
「とりあえずあの山のあたりまで行きましょうか。あそこは交易路としても使われているので走るにはちょうどいいですよ。……まぁだいぶ遠いですが。じゃぁちゃんとついてきてくださいねー」
「はいはい」
レティリアが再び走り出し、勇人もそれを追いかけて走り出す。
普段から交易路として使われていることを示すかのように、ところどころ草がはげて地面が見えている。そのおかげで土が固められてだいぶ走りやすくなっている。
丘には大量の草花が咲き乱れ、その合間を縫うようにして虫や小動物が動いている。
そして道はその丘の中心を突っ切って向こうの山にまで続いていた。
山の標高はおよそ800mほど。山には丘と違って森、とはいかないまでも林と呼んでも差し支えないほどの密度で木々が生えている。そしてその林の中心を突っ切るようにして交易路が開拓されている。
「ここからは足場が悪くなるので気をつけてくださいね」
足を止めずにレティリアが言った。
「ん。分かった」
確かに先ほどの丘と違って所々に木の根が生えていたり、濡れていたりしている。
だがやはりある程度の行き来はあるのか、地面はしっかりと踏み固められ、目立った障害も見えない。道幅は馬車がすれ違うことを前提にしているのかだいぶ広く、思いっきり走っても特に問題はなさそうだ。
そして木々に囲まれた中を走っていく。
山、といってもそこまで急なものではなく、むしろ先ほどの丘のほうが角度がきついくらいだ。ただ山の形は上に上れば上るほど急勾配になっていたので、すぐにきつくなってくるだろうが。
「しばらく進んだら広場があるからそこまではがんばってね。ついたら休憩するから」
「……はい」
勇人が息を荒げながら返答する。
村からここまでの距離はおよそ5kmほど。それを全速力とまではいかないまでもそれなりのペースで走ってきたので、何も背負っていないレティリアはともかく、勇人の体力はだいぶ消耗されてきていた。
もっとも普通の人間には40kgもの荷物を背負ってこれだけの距離を平然と走り続けることなどそう簡単にはできないのだが、勇人は気づいていない。
と、しばらく走っていると前のほうに広場が見えてきた。
恐らくキャラバン単位での野営を想定しているのだろう。かなりの広範囲にわたって木が切り倒され、巨大な広場を形作っていた。
「さて、休憩しましょうか」
そういってレティリアが広場の中ほどで止まる。
そして勇人がその場に倒れこみ、荷物に押しつぶされそうになって慌てて荷物をはずす。
「あー。疲れた……」
「しばらく休んだらもう一回走りますからねー。さっき通ってきた道のはずれに私の家があるので、そこまで辿り着いたら昼食にします」
(……荷物背負ってると下り坂もきついんだよなー。特にこれだいぶ重いし)
そうしてしばらく息を整えていると、不意に遠くから、がたんごとんと馬車の音が聞こえてきた。
「……馬車? 村に交易のキャラバンが来るのはもっと先だったはずですが」
と、レティリアが首をかしげる。しかし不思議に思う間もなく、風に乗って馬車の音に加えて戦闘音と血の匂いが漂ってきた。
「まさか襲撃されている? なら急がないと……!」
襲撃された上でなお馬車が動いているということは、襲撃から逃げているということだ。つまりそれは殲滅が不可能であったということに他ならない。そうしている間にも、馬車は徐々にこちらに近づいてくる。
「私は手助けにいってきます。ハヤトさんはここで待機していて下さい」
そういってレティリアが駆け出す。だがレティリアの言葉に逆らって、ハヤトもそれを追って走る。
「魔法も使えないのに素手でどうするんですか!」
「だからって黙ってみてられるか! それにどの道すぐにここまで来るんだろ。だったら関係ない」
「……しょうがないですね。だけど危ないと思ったらすぐに逃げてください」
やはりレティリアが言っていたことは正しいようで、馬車が何匹もの巨大な鳥に襲われながら走っている。既に何人か負傷しているようで、護衛の数も少なく、残った護衛もどこか動きがぎこちない。
「火よ、数多の矢となり敵を射て!<炎の矢・多段>」
レティリアの周囲におよそ30ほどの炎が出現し、それらが矢となって今まさに護衛の一人に襲いかかろうとしていた巨鳥に襲い掛かる。
不意を打った形で放たれた炎の矢が巨鳥に着弾し、耳障りな悲鳴を上げながら燃え崩れる。
「冒険者か! 助かった!」
護衛の一人が安堵の声を上げる。しかし、それをかき消すかのように残りの巨鳥がいっせいにこちらに狙いを定めて襲い掛かってきた。
「風よ、彼の者達に守護の手を。<風の防壁>」
こちらに向かってきていた巨鳥の群れが不意に何かに激突したかのようにのけぞる。
「火よ、風よ、火は猛く燃え、風は渦巻き、逆巻く焔となれ!<|渦巻く業火《フレイム
・ストーム》>!」
レティリアの手から竜巻上に炎が発生し巨鳥の群れを焼き尽くしていく。
しかしそれを運良く避けた一体が、術を放って硬直しているレティリアに向かって襲い掛かってくる。
(まずい、避けられない!)
「おおおおおお!」
レティリアをかばうように勇人が巨鳥の前に立ち、迎撃しようとする。
(素手で抑えるにはどうすればいい?? ――とりあえず首を抑えるしかないか?)
一瞬の逡巡の後勇人は巨鳥の攻撃を回避し、すれ違いざまに回転しながら巨鳥を地面に叩きつける。
「グエァァッ!」
頭を激しく打った巨鳥がその場でもがき始める。そして勇人はそれに巻き込まれて弾き飛ばされてしまった。
「ハヤトさん! ……火よ、炎よ、紅蓮の業火となりて全てを焼き尽くせ!<燃え盛る炎弾>」
レティリアの手から野球ボールほどの大きさの炎弾が生まれ、それが巨鳥に命中すると同時に爆発し、跡形もなく吹き飛ばす。
「ハヤトさん! 大丈夫ですか!」
「まあ、なんとか……っつぅ……」
茂みを書き分けて掻き分けて勇人が森から姿を現した。
どうやら吹き飛ばされたときに怪我を負ったようで、脇腹が紅く染まっている。
「っ! 生命を満たす力よ、その力を持って彼の者を癒せ!<身体強化・治癒>!」
すぐさまレティリアが勇人に駆け寄り、呪文を唱えた。すると勇人の全身が淡く光り、それと同時に勇人は自らの傷が癒えていくのを感じた。
「……! ありがとう、レティリア」
「いえ、当然のことをしたまでです。……本来ならあなたは私が守らなければならなかったのに、私のことを庇って怪我をしてしまったのですから」
(そんなに気にしなくても……)
そう思った勇人であったが、口にしたら余計話がこじれそうなので口には出さないでおいた。
と、馬車のほうから商人風の男がこちらに歩いてきた。
「冒険者の方ですかな? ご協力感謝します。あなた方のおかげでたいした損害も出さずに魔物を撃退することができました。あなた達はこれからどこに?」
「私達はたまたま村から出てきていただけなので、これからレクト村に戻る予定です。よろしければそこまで護衛しましょうか?」
「おお、それはありがたい。では謝礼などは村についてからお支払いしましょう」
どうやら向こうもレクト村にいこうとしていたようで、そこまで一緒についていくことになった。
「(……レティリア、こういうのってよくあることなの?)」
「(行きずりの冒険者に護衛を頼むのはよくではありませんが、ままあることです。私も冒険者時代にはよくしていました)」
「(分かった、ありがとう)」
ほんとうにすいません(;´Д`)
スランプ+時間不足(受験)でなかなか執筆に取り掛かれませんでした。
できれば今月中に次話を投稿したいと思っています。
面白いと思ってくだされば評価を。感想がもらえると狂喜乱舞します。