初めての町
前回に引き続き説明回ですが、少し日常っぽいシーンもあります。
「ウェダラスティアには二つの大陸と五つの国があります」
そういいながらレティリアが手に持っていた紙を広げる。紙に書かれていたのはこの世界の地図。そこには西と東で海に隔てられた二つの大陸と、その中間にある一つの島が描かれていた。
「この二つの大陸はそれぞれただ単に西の大陸、東の大陸と呼ばれています。私たちのいるブリーゲル共和国は東の大陸にある国で、東の大陸の南半分くらいを治めています」
そういってレティリアが地図の右下のあたりを指差す。そこには読めないが恐らく国名が書いてあり、そのあたりが色分けされている。
ほかの場所にも目を向けるとそれぞれ違う色で色分けされており、この国が緑、上にある国がオレンジ、西大陸の上側が水色で下側が赤、真ん中にある島はピンクで塗られていた。そして海があるところは深めの蒼で表されていて、その真ん中にある島は黄色で塗られていた。おそらくこの五つが先ほど言われていた国のことだろうが、よくみると大陸の中に色が塗られていないところがちらほらある。
「この色分けされてるのがそれぞれ一つの国ってことでいいのかな?」
「そうですよ。それじゃあそれぞれの国について簡単に説明していきましょうか
まず、このブリーゲル共和国について説明しましょう。
この国は気候が穏やかで過ごし易い国だと言われています。政治も安定していて治安も良いいので移民が多いです。なので街中で人族以外の姿を見るのも珍しいことではありません。実際に獣人で騎士団の隊長を勤めた人もいますしね。
この国を治めているのはグリーセル・テスカトリ・フェリス様で、この国の国主様でありながらSランク冒険者の一人でもあります。
まぁしばらくはこの国で生活することになるので、詳しいことはそのうち話すことにしましょうか。
さて、次はハヤトさんが近々行くことになるプリゼン宗教王国についてです。
プリゼン宗教王国は昨日も少しだけ説明があったとおり、この真ん中のほうにある黄色く塗られている島のことです。
基本的に昨日言われたくらいのことを覚えてれば大丈夫だと思いますよ。ただ気候の変化がここよりも大きいのでいく時にはそれも注意しないといけませんね。
この国を治めているのはヴェクト・パロード様です。確か本当はもっと長かったはずなんですけど……あまりに長すぎてみんな覚えられないので正式な場で無い限り普段はこの名で呼ばれています。確かヴェクト・アーネスト・ウィル・ポリ…………あれ? んーと……すいません、私も忘れちゃったみたいです。多分ちゃんとしたガイドブックとかには載ってると思うので後で探しておきますね。
えっと、こほん。……プリゼン宗教王国では国主は即ちプリゼン教のトップでもあるので、国主ではなく教皇と呼ばれています。また今の教皇陛下はさらにカルトス魔法学院の学院長も兼任しています。これは珍しいことなのですが、そもそもカルトス魔法学院を創設したのも当時の教皇だったので過去に例が無いわけではありません。
ハヤトさんがカルトス魔法学院にいく以上必ずお世話になるので、そのときはちゃんと接してくださいね? ……まぁ気さくな人なのでそんなにかしこまらなくても大丈夫ですけど。それにあなたなら無礼を働いたりすることはないと思いますが。
さて、ここまでで何か質問とかはありますか?」
「うーん、今のところは特に無い、かな。わからないことがあったらそのときに聞けばいいし。とりあえず今の情報を詰め込むだけで精一杯かな」
と頭を抱えるそぶりを見せながら勇人が答える。どうやら物を覚えるのはあんまり得意では無い様で、顔をしかめて必死に反芻している。
「うーん。それじゃぁ本当はもう少し勉強させたかったんですけど今日はこれでお開きにしましょうか。まだ教えてないこともありますけど、それはまた明日ということで。
とりあえず残りの国については後で|プリゼン宗教王国のガイドブック《ヴェクト・パロードの本名》と一緒に適当な本を探しておきますね」
そういって諦めた様な表情を作りながら机の上にあった地図を丸めていく。
それを横目にみつつ、勇人は窓を見て現在時刻を推測する。
(うーんと、晩御飯までにはまだ時間があるかな)
「ねぇレティリア。これから晩御飯までって時間ある?」
「たぶん晩御飯までは3,4刻くらいはあると思いますよ? 本来はもう少しあなたに勉強させる予定だったのでその分の時間は暇になってしまいましたし」
「そうかー。それだったらさ、この後町に連れてってくれない? こっちにくるときはほとんど見てなかったしさ」
「別に構いませんよ。……あ、それならついでに通貨についても先に教えといたほうがいいですね。さすがに街中で通貨について教えてると怪しいので」
(怪しいって程なのかなー。日本でたとえたらコンビニの中でお札や硬貨について説明しているようなものか。……うん、確かに怪しいな)
「おーけー。了解です。……では早速講義をお願いしますレティリア先生」
「茶化さないでください」
「はーい」
「……まぁいいです。とりあえずは手っ取り早く実物を見てもらったほうがいいでしょう」
そういってレティリアは机の上にあるポーチからいくつかのコインのような形をした物体を取り出し、それぞれ金、銀、銅、灰の色の順に並べていった。大きさは一番大きい金色のもので500円玉よりも少し大きいくらい、そこから順に小さくなり一番小さい灰色のものが10円玉を少し厚くしたようなものだった。
「この一番小さい、灰色のが1リル硬貨で石貨と呼ばれています。この石貨が10枚で銅貨1枚になります。これがさらに10枚で銀貨になります。そして銀貨が10枚で金貨になります」
そういって順番に硬貨を摘み上ながら説明していく。そして最後の金貨を摘み上げたまま顔の高さにまで持ち上げて説明を続ける。
「そしてこの金貨が10枚集まって白金貨に。そしてそれが100枚集まると水晶貨になります。この二つはさすがに持ち合わせが無いですね。水晶貨に関しては普通に生活していればまず見ることはありません。
そうですね。師匠なら持ち物を全部売れば水晶貨くらいは工面できるんじゃないでしょうか?」
「なるほど……
うーん。じゃぁ、食堂とかでご飯を食べたら一食いくらくらいかかる?」
「だいたい15リルくらいですね」
この時点で勇人の頭の中では吉○家の牛丼(並・Aセット味噌汁付)と15リルが=で結ばれていた。
「じゃぁ普通の人の月収は?」
「えーと……白金貨1枚行けばいいほうですかね。普通は金貨8枚くらいでしょうか」
「そうすると4人暮らしで月の手取りが金貨2枚くらいだから……42年!? はぁ、確かにそんなん見ることはなさそうだなぁ……」
勇人は自分が弾き出した答えに驚愕し、半ば呆れながら一人でうなずいていた。
しかし、レティリアは別の色の驚愕に顔を染めて勇人を見ていた。
「……あれだけの時間で今のを計算したんですか?」
「え? まぁ暗算は得意だったからね」
「……そういうことではないのですが。あんなの暗算できる人なんて早々いませんよ?」
(あー、確か中世とかだと教育を受けてる人自体少なかったから、ここもそんなもんなのか)
「んー、まぁ元の世界ではこれくらいの教育はみんな受けてたからね」
「そうなんですか……。ま、まぁいいです。じゃぁお金についても説明が終わったので町に行きましょうか。あ、その前にいくらかお金を渡しときますね」
そういってレティリアがポーチの中から石貨10枚、銅貨5枚を取り出してハヤトに渡す。
「あ、ありがとうレティリア」
そういいながら硬貨をしまう。ポーチなどは無いので少々不安だがポケットに入れるしかない。
「それとこれも渡しておきますね」
そういってレティリアから渡されたのは布製の手提げかばんのようなものだ。恐らく買ったものを入れるためなのだろう。
勇人はそれを受け取ると、先に部屋のドアまでたどり着いていたレティリアと一緒に町へと繰り出していった。
***
「うわー。最初に来たときはろくに見てなかったけど結構でかいんだな」
今勇人たちがいるのは屋敷から出てすぐのところにあるレクト村の中心街。夕飯前ということもあって通りはそれなりの賑わいを見せている。商店街、というよりは市場といったイメージのほうが強く、ちゃんとした店よりも露天のほうが多く見られる。
通りは活気に満ちていて、そこかしこで威勢のいい声が聞こえてくる。
「お、レティリアの嬢ちゃんじゃねぇか。今日は何だ? 男なんて連れて」
「あ、いえ、この方はアマニウス様の客人です。この地に付いたばかりなので私が案内をまかされました」
「ほーお、客人ねぇ……そういやセルキスのやろうがなんかいってたな」
ちなみにセルキスというのはこの村の門番で、勇人たちが村に入るときに通行章を手配してくれた人である。
露天商のおじさんは頷くと売り物の中からサポロの実を取り出し、それを勇人とレティリアに渡した。
「そんならこれはサービスだ。そっちのあんちゃんもまたよってくれよ」
それを受け取った勇人たちは、早速実を食べながら露天を後にした。
「いい人だね」
「まぁこの村は小さいですし、私も長いことここにいますからね」
「へぇ。……レティリアってここで育ったの?」
「……いえ。生まれたのはここよりもだいぶ北に行ったあたりです。ここに来るまでは冒険者として旅を続けてました。ここに居ついたのは何年か前ですね」
「ふーん……」
(……レティリアっていったいいくつなんだろう? 旅をして何年か前にここに来たってことは……?)
「…………なにか?」
「い、いや、なんでも。それよりさ、勉強用に紙とペンとか買いたいんだけどどこに売ってるかな」
「筆記用具でしたらそこの雑貨屋さんに売ってますよ」
「じゃ、買いに行こうか」
カラン、カラン。
ドアを開けると、それと同時にドアにくくりつけられた鈴が鳴り、涼やかな音色を奏でる。
「いらっしゃーい。……あら、レティリアちゃんじゃない。今日は羊皮紙の買い足し?」
声を掛けてきたのは全身がふさふさの獣人のお姉さんだった。
「んー、まぁそんなとこですかね。ついでにインクとペンもください」
「はいよー。ちょいと待ってな。……ん? そこのおにーさんは? もしかしてレティリアちゃんの彼氏? もしかしてデート? へへー、レティリアちゃんも隅に置けねーなー」
獣人の店主がマシンガンのように言葉を吐き出しながらニヤニヤとこちらを見る。
「べ、別に彼氏とかじゃないですよ」
「またまたー。そこのおにーさんはどうなんだい?」
いきなり話を振られたことに困惑しつつも勇人が言葉を返す。
「え、僕ですか。あー、いや、恋人とかじゃないですよ。レティリアには町を案内してもらっているだけd「ほほー、レティリアちゃんを呼び捨てとな。これはこれは大変ですなー」
それに対し、レティリアは慌てて大声で怒鳴り返す。
「だ、だから本当にそんなんじゃないんですってば!!」
「あららー、レティリアちゃんにおこられちゃったわー」
「だから……もういいです。ハヤトさんはアマニウス様の客人です。ちょうど暇だったので町の案内を頼まれて来ただけです。本当に恋人なんかじゃありませんから」
さすがに呆れたようで、言葉を引っ込めて嘆息するレティリア。それに対しうんうん頷きながら獣人の店主が勇人に話しかける。
「なるほどなるほど。ハヤトくんか。いやーごめんね。レティリアちゃんが男の人と一緒にいるのなんてアマニウス様しか見たこと無いからさー。…………ところでハヤトくん。本当のところはどうなん……げふう」
いきなり視界から彼女が消え、ついでぐわしゃーんと何かを倒したような音が店の奥から聞こえて来た。そして背後から感じる殺気に慌てて後ろを見ると、レティリアが何かを投擲したような姿勢のまま息を荒げていた。
そのまましばらく呆然としていると、奥のほうからさらに何かが崩れるような音が聞こえ、店の奥から彼女が戻ってくる。
「いたたー。なにもあんなもん投げなくても。それにしても意外だねー。まさかちょっとからかっただけであんなに反応するとわ……っと、あぶなー」
彼女が体を傾けると同時に、その横を細い棒状のものが通過していく。どうやら店で売っているペンのようだ。
「だからアマニウス様の客人だといっているでしょう」
「あやー。これ以上怒らせたらマジで命が危険そうだね。っと言う訳でレティリアちゃんいじりはここまでにして……ほいっ、ご注文の品だよ」
彼女が棚から20枚ほどの羊皮紙と古風なペン、そしてインクつぼをカウンターに置く。
「羊皮紙が20枚にインクとペンで……しめて45リルだけどおにーさんにはまけて40リルにしといたげるよっ」
と、彼女がニコニコと笑いながら勇人の方に商品を滑らせてくる。勇人はポケットの中から銅貨を4枚取り出して彼女に渡す。
勇人は商品をかばんの中にしまい、店を後にした。
店の外に出ると、既にだいぶ日が傾いてきていて、そろそろ屋敷に帰らなければならない時間になっていた。
「よし。じゃぁ買うものは買ったし屋敷に戻ろうか」
そういって勇人たちは屋敷に向かって歩き始める。もっとも勇人にはまだ屋敷の場所がわからないので、レティリアに先導してもらってだが。
「そういえば僕っていつからレティリア……さんを呼び捨てにしてたんだっけ?」
それに対してどこか顔を赤くしながらレティリアが言う。
「いまさら戻されても違和感があるので元のままでいいです。……呼び捨てになってたのは今日の朝からです。昨日まではさん付けだったのに、朝起きたら呼び捨てになってたんですよ」
「そっか。……やっぱり寝ぼけてたからなのかな」
「……やっぱり寝ぼけてたんですか」
そんな他愛の無い会話を繰り広げながら勇人はレティリアと共に屋敷へと帰っていった。
キャラが安定しない……。自分の文章力の無さに絶望する日々です。
更新が遅くなってすいません。大学入試の関係でこれからもペースは落ちていくと思います。
だったらこんなことやってんな、みたいな事を言われそうですが、少なくとも月1くらいのペースでは更新を続けていきたいと思います。
よろしければ評価や感想をいただけるとありがたいです。