練習試合と初めて見る魔法
「……と……。……て……ださ……」
どこからか声が聞こえる。
(うるさいなぁ……もう少し寝かせてよ)
「……やと……ん。……きて……ださ……」
(んんー、今何時だよ? 時計は確か……)
無意識に手を伸ばすが、手にしたのは時計ではなく、何か柔らかい物。
(あれー? 時計ってどこにしまったっけ……)
どかっ!!
不意に衝撃が体を襲い、勇人の意識は一気に覚醒した。
「…………!? あれ、ここは……?」
(……ああ、そういえば昨日から異世界に飛ばされたんだっけ)
勇人があたりを見渡すとレティリアと目が合ったのでとりあえず挨拶をしておく。
「おはよう、レティリア」
「……おはようございます」
それだけ言うとそそくさと離れていった。よく見ると微妙に顔が赤い。しかし勇人はそれに気づかず、寝ぼけたままの思考で現状を整理する。
(あー、そういえば今日は朝から修行だったな……。それでレティリアが起こしにきてくれたのか。……ってか今何時だ? 時計ってあるのかなぁ)
「あー、レティリア。今って大体何時くらい?」
「……日が昇ってから2刻くらいです」
そこか声色が不機嫌そうだが、原因がわからないのでとりあえずはそのまま放って置くことにする。
「……ごめん。1刻ってどれくらい?」
「……たしか、大体1日が48刻だったとおもいます」
(となると大体日の出から1時間くらいか)
「ありがと。で、僕はどうすればいい?」
「師匠が朝食の前に軽く手合わせをしたいといっていたので、服を着替えて中庭に来てください」
そういってレティリアが着替えを指差す。
「部屋の前で待っているので、着替え終わったら言ってください。中庭まで案内します」
やはりどこか事務的な口調になっている。
そこまで言い終えるとレティリアは踵を返して部屋の外へ出て行った。
***
――アマニウス亭・中庭
勇人がレティリアに連れられて中庭に出ると、すでにアマニウスとクラオリが準備を終えて待ち構えていた。
「やっときたな」
「おはようございます。アマニウスさん。それとクラオリさんも」
「おうおう、きちんと挨拶ができる若者ってのはいいね。最近の冒険者には礼儀正しいやつが少ないからなぁ」
「そうなんですか?」
もといた世界ではこれが普通だったため今いちピンと来ない。
「まぁ冒険者には荒くれものが多いですから。礼儀正しい人がいないわけではないですけどね」
そう補足したのはレティリアだ。それを聞いて勇人はRPGでも旅人って大体そうだよな、と思い納得していた。
「さぁて。早速だが手合わせと行こうか。武器は木剣で審判はクラオリということでいいな」
「……そのまえに少し練習させてくれませんか? さすがにいきなり試合はきついので」
「おう、そうか。時間は……まぁ大丈夫か。じゃぁ半刻ほどしたら試合をはじめようか」
「それでよろしくお願いします」
そういって勇人は木剣が並べられた剣立てをあさって、一番合いそうなものを選ぶ。いくつかためし振りをして、一番しっくりきたもの――長さが日本刀に近いものを選ぶ。
(うーん、大きい分木刀より振りにくいなぁ……まぁ軽いし大丈夫かな?)
木剣をもって一通り型をなぞる。本来は日本刀での動きを前提にしているものだが、木剣でも十分使えそうだ。
(よし、これなら大丈夫か。なんだかいつもより体が軽いし)
そして一通り型を反復し終えたところで時間が来たので、試合を始めることにした。
「ほっほっほ。それではお二方とも準備はできましたかの?」
「俺はさっきから準備万端なんだがな」
「僕も大丈夫です」
クラオリの声にアマニウスと勇人が同時に答える。クラオリの手が挙がり、いつでも開始の合図を切れる体勢になる。それをみて、空気が少しずつ緊張したものになる。
「始め!!」
合図と同時に勇人が駆け出し、袈裟に剣を振る。アマニウスは余裕を持ってそれをはじくと、逆に勇人に対して攻撃を仕掛けてくる。勇人は弾かれた勢いのまま剣を回転させ、それを打ち落とす。
(……やっぱり、なんだかいつもより動きが軽い? これなら何とかなるかもしれない)
アマニウスが次々と放ってくる剣戟を捌きつつ、隙を見て攻撃を放つ。しかし、アマニウスから放たれる強力な攻撃に正面から打ち合うのは分が悪いと判断し、剣を強めに弾いてその勢いで間合いを取って離れる。
「……ほう。思ったよりやるじゃないか」
アマニウスがにやりと笑う。それと同時に駆け出し、横薙ぎに剣を振るってくる。勇人は後ろに下がってそれを回避するが、瞬時に間合いを詰められ、次々と打ち込まれる剣に防戦一方となる。
(ぐっ……わかってたことだけどやっぱり強い! だけどまだこれくらいなら防げる! 今のうちに何か対策を練らないと……)
「ふむ、試合中に考え事はよくないぞ?」
そういいながらアマニウスが剣戟の合間を縫って足払いを仕掛けてきた。
(っ!)
あわてて回避するも、そのせいで大きく体勢が崩れてしまう。その隙をアマニウスが見逃すはずもなく、今までよりも速く、強力な斬撃が勇人をめがけて襲ってきた。
反射的に木剣を掲げてそれを防ぐも、その衝撃で木剣を取り落としてしまう。
「どうする? ここで試合終了にするか?」
そうアマニウスが聞いてくる。
「いえ、いいですよ。もともと僕は格闘戦が主体なので」
勇人がにやり、と笑いながらそれに答える。実際、勇人が修めていた古武術は武器より素手での戦闘に重きを置いたものだった。しかし、だからといってそう簡単に剣と素手、という差が埋まるわけではない。
「ほう、そういえば昨日もそんなことを言ってたな……。いいだろう。ただし言ったからには多少の怪我は覚悟しておけよ!」
そういって、体勢を立て直した勇人に再びアマニウスが襲い掛かってくる。勇人は回避に専念し、先ほどよりも余裕を持って攻撃を回避する。しかし、時折どうしても避けることのできなかった剣戟が体を掠め、勇人の体に徐々にダメージを蓄積させていく。
(くっ……やはり分が悪いか。だがまだだ。今はまだ手を出せない……!)
「ふはは! さっきの威勢はどうした!」
アマニウスが次々と攻撃を放ってくる。しかし、いつまでも避け続けるだけの勇人に業を煮やしたのか、今までより大振りに剣を放ってきた。
(……! 今だ!)
勇人が剣を狙って拳を放つ。拳は剣の腹に当たり、軌道を大幅にずらす。それにつられて体勢を崩したアマニウスに勇人は渾身の一撃を放つ。
アマニウスが驚いた顔でこちらを見る、それを見た勇人は勝利を確信して拳を放った。しかし、次の瞬間アマニウスの姿がぶれ、目の前から忽然と姿を消したかと思うと、驚く間もなく勇人は脇に衝撃を感じて大きく吹き飛んだ。
「――両者、そこまで!!」
クラオリさんの声が響き渡る。
アマニウスは残心をとったまま、庭の中心に立っていて、勇人は庭の隅のほうまで吹き飛ばされて、うめき声を上げていた。
「ちょっ、大丈夫ですか! 勇人さん!?」
慌ててレティリアが勇人の元に駆け込む。そして勇人の腹部に手を当てると、レティリアの手が光り、それが腹部に移って発光し、しばらくして消滅した。
「――っ、あれ? 痛みが……治まってる?」
「簡単な回復魔法です。一応直ってるとは思いますがしばらく休んでてください」
そういってレティリアが手を離す。確かに痛みはだいぶ治まっているが、それでもまだダメージは残っているのか、軽く疼痛が走る。
すると構えを解いて剣をしまったアマニウスがこちらに近づいてきた。
「いやー、悪い悪い。つい本気になっちまった。いやー、それにしても、お前相手に本気を出すことになるとは思わなかったな
っと、怪我は大丈夫か? もしダメだったら今日は休んで明日続きにするが……」
「……いえ、大丈夫です。これくらいの怪我はよくあることなので」
「おっと、そういえばお前もちゃんと訓練をつんでたんだったな、なら大丈夫か。――よし、とりあえずは飯だ。もう準備はできてるから軽く汚れを落としたら食堂にこいよ」
そういうとアマニウスは木剣を剣立てに返してから食堂のほうへ(ただし屋敷の構造は頭に入っていないので推測)歩いていった。ちなみに木剣を剣立てに返すときにはその場で木剣を投げ入れていた。剣立てからは5m近く離れていた気もするが、これくらいは普通なのだろう。
「……さてと、とりあえずは着替えてから飯にするか」
***
食堂での朝食。料理を作っているのはクラオリで、というかここに召使はクラオリしかいないらしい。相変わらずご飯はとても美味しい。今日の朝食は黒っぽいパンに柑橘系のジャム。それと野菜炒め(仮称)に具の少ないスープ(ただし貧相なのではなくこういう料理なのだそうだ)。もしゃもしゃとそれを食べながら今後のことについて話をする。
とりあえずアマニウスによれば勇人の剣術は“その歳にしては”普通ではないが“全体的に見たら”中の上程度らしい。要するに、普通の冒険者なんかよりは強いが、お前程度のやつはまだざらにいるから慢心するなよ、ということだそうだ。もっともこの歳でそれなら修練を積めばそのうち俺を越せるかも知れんなとも言っていたが。
とにかく、これからはアマニウスの元で本格的な実践訓練をさせてもらうことになった。しばらくは実技の修練をするといっていたが、そのうち魔物狩りにも連れて行ってもらえるらしい。「お前なら今すぐにでもいけるだろう」とはアマニウスの談。しかし装備もちゃんとしたものをそろえた方がいいらしいので、装備を買うまでは保留ということになった。
とりあえずは朝食をとったらすぐに修練の続きをやるらしい。
そして午後はレティリアの元で座学を行うらしい。とりあえずはこの世界の常識から教えてもらわねばどうにもならないだろう。言葉は通じても文字の読み書きもできないので、まずはそのあたりからはいっていくことになるだろう。
なんにしてもこれからやらなければならないことは山積みである。
「これは、しばらくは退屈しなさそうだな……」
勇人のつぶやきは、誰の耳に届くでもなく宙に消えていった。
戦闘シーンを書くのがこれほど大変だとは……。
とりあえず書き溜めずにはじめてしまったので、最初っから不定期更新ですいません。今年は大学受験なので、半年くらいは不定期のままだと思います。