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異世界にきてはじめにすること

こちらの都合でもともとの2話と3話まとめましたので、もし見ていなければそちらをごらんください。すいません。

「さて、どこから説明したものかな」


 そうアマニウスが言った。


 場所はアマニウス亭の応接室。横では老執事のクラオリさんがカップにお茶を注いでいる。


 こぽこぽこぽ、としばらくお茶を入れる音だけが響き、それぞれの前にお茶が運ばれたところでアマニウスが話を切り出した。


「君のような“転生者”と呼ばれる存在は、一般には隠されているが、それほど珍しいものではない。といっても多くて一年に数例だけだが。

 さて、では転生者の存在が一般には隠されているのはなぜだかわかるかい? ――答えは簡単だ。転生者はこの世界の人間にはない力を秘めているからだよ。もちろんハヤトにもね」


「……僕にも、ですか」


「ああ。どのような力を秘めているのかは知らないがおそらくそうだろう。一説には世界の間を行き来するときに、世界を構成する異次元の魔力の影響を受けるからだといわれているが、そのあたりはどうでもいい。ともかく、君はこの世界では割とイレギュラー且つ貴重な存在なのだよ」


「…………」


 さて、どうしたものか、と勇人は考える。どうやらことは自分が思っていたよりも大きいらしい。


 とりあえずは、当面どうすればいいかということさえわかればいいだろう、と結論付け、それをアマニウスに聞くことにする。


「……それで、僕は具体的にはどうすればいいんですか?」


「君にはプリゼンにあるカルトス魔法学院へといってもらう。カルトス魔法学院は非公式にだが転生者の受け入れを行っている。そこに行けば何とかなるだろう。

 そこに行くまでは私の元で基本的な知識や戦闘を身に着けてもらうことになる。その間は住むところもないだろうし、レティリアのところに滞在するといいだろう。何か質問は?」


 勇人は一瞬逡巡しながらも、だめもとでも聞いてみようかと思い質問をする。


「……その、元の世界に帰る方法ってないんですか?」


「ないな。今のところそういう話は聞いたことがない」


「……そうですか」


 予想通りとはいえ、若干落ち込みつつも、ないものはしょうがないので、とりあえず別の質問に移ることにした。


「……その、プリゼンとかカルトス魔法学院ってなんなんですか?」


 勇人からすれば当然の疑問だが、向こうにとっては意外な質問だったようで、心なしか困惑したような気配が向こうから伝わってきた。


「そうか、そういえばそうだな。

 プリゼン、というのはプリゼン宗教王国のことで、ちょうど世界地図だと真ん中に書かれることが多い。――おい、クラオリ。悪いが急いで世界地図を持ってきてくれ」


「かしこまりました」


 その声につられてクラオリさんのほうに首を向けると、すでにクラオリさんの姿はなかった。驚いて目を丸くしていると、アマニウスから声がかかった。


「あいつはちょっと規格外なとこがあるからな。まぁだからこそ雇ってるんだが。気にせんでくれ、じきになれる」


 その言葉どおり、レティリアは今の行動に対してまったく驚いていないようだった。それを見て多少安心しながら視線を前に戻すと、すでにクラオリさんが机に地図広げているのを見て、また驚愕する羽目になった。


「……おーい。驚くのはいいが、できれば日が沈む前に済ませたいからさっさと戻ってきてくれ」


 声に多少呆れた色を含ませて、アマニウスが勇人に語りかける。


「……すいません。続きをどうぞ」


「まぁいい。で、プリゼン宗教王国の場所だが、この地図を見ればわかるとおりこの国は絶海の孤島にある。故に守るに堅いが攻める事もままならず、教義として争いを是としていないこともあって中立を保っている。そのため争いから逃れるために王侯貴族がはいってくることが多く、全体として治安は極めていい状態に保たれている」


 それを聞いて勇人はスイスみたいなものか、と思った。


「そしてカルトス魔法学院はプリゼン宗教王国が主催する学院で、主に冒険者になるために必要なことを高いレベルで教育してくれるため、世界中から人が集まってきている。ちなみに無制限に人を受け付けないために入学試験もあるから本来なら入るのはそう簡単じゃない。

 しかし、転生者であれば無条件で入学することができ、それなりの待遇と高度な教育を受けることができる。どうだ、悪い話ではないだろう」


(まぁ悪いことではないんだろうけどなぁ……)


「レティリアさんは行ったことあるの?」


「私はいったことはないですけど、冒険者を育成するのには最適の場所だと聞いています。これからこの世界で生きていくつもりなら行っておいて損はないと思いますよ? それに戦闘に関すること以外にも一般教養なんかもちゃんと教えてもらえるので、どの道勉強することになるならそっちのほうがいいんじゃないですか」


「うーん、じゃぁとりあえず行っておいたほうがいいのかな?」


「おう、そうしとけ。魔法学院のほうにはこっちから話をつけておこう。


 あそこの入学受け入れは年に二回だから大体2ヶ月くらいはこっちにとどまることになるな」


「ではよろしくお願いします」


「おう。さっきも言ったとおり出立までの2ヶ月の間は私とレティリアの元で修行をしてもらうことになる。明日からはじめるからとりあえず今日は泊まってけ。

 まぁとりあえずは夕食にしようか。クラオリ、夕食の用意と、二人を客室に案内してくれ」


「かしこまりました。――レティリア様、ハヤト様。客室にご案内いたしますのでついてきてください」


「じゃぁな、夕食の準備ができるまでしばらくあるから部屋でゆっくりとするといい」

 その声を聞きながら、勇人はクラオリについて部屋を後にした。




***




「やれやれ、大変なことになったな」


 そう勇人がつぶやくと、後ろからレティリアが


「そうでもありませんよ。カルトス魔法学園で学べる機会なんてそう簡単にあるものじゃありませんし、私たちから見たらむしろ運がいい方ですよ」


「それは話を聞いててわかってるんだけど……やっぱりいきなり別の世界に放り出された身としては愚痴の一つも言いたくなるよ」


「まぁまぁ過ぎたことを気にしてもどうにもなりませんよ。むしろこれからのことはどうにかなりそうなんだから前向きに行かないと損しますよ?」


「ありがとう。そうだね、できるだけ前向きに考えてみることにするよ」


 そういって全身の力を抜く。なんだかんだで普通に日本で暮らしてきた勇人には、目上の人と話すというのはそれなりに疲れるものなのだ。


「そういえば、レティリアさん」


「なに?」


「さっきアマニウスさんが僕の修行の相手にレティリアも選んでたけど、レティリアって強いの?」


「別に強いわけじゃありませんよ。どちらかというと魔法が専門ですね。あとは文字の読み書きとか一般常識とかの教師としてですよ。まぁあなたがどれだけ魔法に適正があるのかはわからないのですぐにやることがなくなっちゃうかもしれませんけど」


 そういって、レティリアは軽く笑った。


 どうやら魔法を扱うのはそう簡単にできることではなく、魔法適正が必要らしい。


 そしてしばらくそんな感じで談笑していると、ドアがコンコンと叩かれ、クラオリが姿を現した。


「レティリア様、ハヤト様。お食事が用意できましたので呼びに参りました。アマニウス様はすでに食堂にて待っておられますので早めにお越しください」


 そういってクラオリは姿を消す。


「じゃぁハヤトさんいきましょうか」


「うん」


「食堂はこっちです。広いので迷わないように注意してくださいね?」


「大丈夫大丈夫。さすがに迷ったりはしないよ」


 そう軽口を叩きながら二人は食堂へと向かった。




「おう、まぁ座れ」


 食堂に入った瞬間、アマニウスから声がかかる。レティリアはさも当然といったようにアマニウスの向かい側に座った。そして勇人はというと


(広っ!! これいったい何人がけだ!?)


 ひたすらにでかい食堂にただ仰天していた。アマニウス亭に着てからというものほんの数時間の間に何回も驚かされている。


 しかしいつまでも驚いているわけには行かないので、レティリアにしたがってアマニウスの向かい側、つまりレティリアの隣に座ることにした。


 全員が座ったのを確認すると、クラオリが3人の前に料理を並べ始めた。並べられたのは鶏肉のローストに黄色いポタージュのようなもの、それと小さなかごに入ったパンと見たこともない野菜のサラダだ。これを見て勇人はフランス料理に近いかな、と思った。


「……これ、全部クラオリさんが作ったんですか?」


「ん? ああそうだ。なかなかのものだろう」


「……そうですね。元の世界でもこれだけ料理を作れる人にはあったことはないですね」


「そうかそうか。まぁこっちの世界でもこれだけ料理が作れるやつは稀だからな」


「……まぁこれ以上考えても仕方がないか。――いただきます」


 そういって食べ始めようとすると、不意に横から視線を感じた。


「前から気になってたんですけど、その“いただきます”ってどういう意味があるんですか?」


「え? ああ、これは……たしか食べ物を作ってくれた人や、僕たちに食べられる生き物への感謝の気持ちを表したものだったと思うよ。でも、僕の故郷では皆当たり前にしてるから、意味なんかはあんまり考えたことないけどね」


「そうなんですか。私たちの世界では食事の前には神様に感謝するのが普通なんですけどね。ほら、こういう風に」


 そういって右のこぶしを握って胸の前に持ってくる。どうやらこの世界ではこれが普通らしい。


「そういえば僕の故郷にもそういう人たちはいたっけなぁ」


 勇人の言うそういう人たちというのは、クリスチャンのことである。


「そうなんですか。まぁなんにせよとりあえず食べちゃいましょう。クラオリさんの料理は絶品ですからさめる前に食べないと損しますよ」


「ほっほっほっ。ほめても何も出ませんよレティリア様」


(本当にいったい何者なんだろうクラオリさんは……)


 そんなことを考えつつ、目の前の料理に手を伸ばす。ちなみに食器は普通に鉄(?)製のフォークとスプーンとナイフだった。レティリアの言うとおりどれもとても美味しく、しばらくの間夢中で料理を食べ続けた。




 そして、一通り食べ終えたところでデザートと食後のお茶が運ばれてきた。デザートもクラオリさんの手製で、果物を使ったベイクドケーキのようなもの。クリームとかはなかったので、もしかしたらもともと存在しないのかもしれない。


 お茶はこの地方の特産のものらしく、味は紅茶に近いが、なぜか色が青っぽいという奇妙なものだった。ちなみに食事中に聞いたところによると、今回の食事は久しぶりの客人ということで、いつもよりだいぶ豪華になっていたらしい。


 食後のお茶を飲みつつゆっくりとしていると、かちゃりとアマニウスがお茶のカップをおいて反し始めた。


「さて、さっきも行ったようにハヤトには明日から訓練を受けてもらう。しかし、俺にはハヤトの力量とかがわからないからな。訓練の前にいくつか質問をしたい。


 さて、まず一つ目だがハヤトはここにくるまでに戦闘訓練を受けたことはあるか?」


 勇人は戦闘訓練には武道とかも入るのかな、と考えながら自分の武道歴を思い出す。


「うーん、実践はあんまりしたことがないけど古武術をだいぶやってたかな。一応素手の格闘と基本的な剣術はできると思う」


「ほう、ならば明日は最初に軽く手合わせをしてもらおうか。ある程度腕に覚えがあるのなら、それで力量を測ってから考えるとしよう」


「わかりました。お手柔らかにお願いします」


 勇人は苦笑する。いくら力調べととはいえ自分より目上で、さらに明らかに実力も上であろう人と手合わせするというのはそれなりにプレッシャーになるものだ。


「とりあえず戦闘に関しては手合わせの後に考えればいいか。じゃぁ次の質問だが、計算はでどのくらいできる? 文字や地理に関しては何も知らないにしても、それ以外のことができるかどうかで変わってくるからな」


「とりあえずもといた世界での基本的な教育は全部受けてるから、計算とかは問題ない思う」


「ふむふむ、じゃぁ心配はなさそうだな。よし、じゃぁ戦闘に関しては明日から俺とクラオリで見てやる。文字とか地理とか、後はこの世界での常識とかはレティリアに見てもらえ。それと魔法もな。レティリアもそれでいいな?」


「はい師匠。――よろしくお願いしますね、ハヤトさん」


「こちらこそよろしくお願いします。アマニウスさんとクラオリさんもよろしくお願いします」


「うむ」


「ほっほっほ。明日からは覚悟なさってくださいな」


 一瞬クラオリさんの目が光った気がしたのは気のせいだろうか。ともかくこれで話は終わったようで、クラオリさんがお茶を片付けに行ったところで、アマニウスさんから明日のために早く寝るように言われた。




 それにしたがって客室がある別棟に帰り、部屋の前でレティリアと別れて眠る準備を始めた。


 さて、これからどうなってしまうのやら。


 明日からのことを想像しつつ、勇人は眠りについた。


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