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剣術学院Fクラスの俺、なぜか王女たちにつきまとわれるが、かまわず最強を目指す  作者: 川坂藍斗


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1/1

地球を支配している人間は、山から降りてきたクマに怯えている

 幼いころは、スーパーヒーローに憧れたものだ。誰よりも強かったからだ。『力』があったからだ。


 悪を『力』で捩じ伏せる。そんな姿がカッコよかった。


 俺も、そんな人間になりたかった。


 しかし、その夢は、ついに叶わなかった。



 そもそも、この世にスーパーヒーローなどいなかったのだ。物心がついた頃には、そのことに気づき始めていた。

 ヒーローに相当するものすらも、存在しなかった。現代で言えば、例えば警察だろう。しかし、警察に『力』はない。『法律』に力があるだけだ。俺が工夫を凝らして悪人を逮捕しようと、真の意味では、それは俺の力ではない。



 どうも今の世の中では、『力』のある人とは、『頭の良い人』らしい。そのことに気づいたのは、中学生の頃だ。政治家も、科学者も、巨大企業の経営者も、現代でいう『力』のある人は、全員、頭が良いのだ。


 そんな世の中が、嫌いだった。


 いくら頭が良かろうと、お金持ちだろうと、科学技術を発展させようと、生身の人間では、ライオンには勝てないのだ。オオカミですらも、普通は勝てないだろう。


 人間様は地球を支配しているような気でいるけれど、決して『力』なんて無いのだ。これまで人間は、食糧生産技術や医療で人口を増やし、科学兵器で戦闘力を得てきた。しかし、真の意味では、強くなんてなっていないのだ。生身の人間の強さは、ホモ・サピエンスの頃から大して変わっていない。


 人間は、核兵器やドローン兵器を量産する傍ら、山から降りてきたクマに怯えているのだ。笑えるな。



 それでも、世の中は『頭の良い人』を求めている。だから俺は、仕方なくそれを目指した。


 はじめは『強く』なりたかったさ。だから、世界最大のスポーツであるサッカーで、俺はプロを目指した。でも、俺より上手いやつなんてゴマンといた。プロなんて、到底無理だった。プロになれなければ、本気でサッカーをやれるのは学生のうちだけだ。だから、俺は諦めた。

 中途半端になるぐらいならと、高校からは『勉強』に切り替えたのだ。


 苦労の甲斐あって、それなりの大学に入って、巨大な企業に就職できた。昔の友人からは羨ましがられた。でも、凄いのは会社であって、俺に『力』があるわけではない。


 社会人生活も15年が経ち、それなりに給料も上がった。独り身で貯金を全額NISAに回して、資産は二倍以上に増えていた。しかし、これは俺が稼いだ金ではない。『お金が勝手に働いた』だけだ。



 独りの時間は、MMORPGでレベルを上げまくった。剣と魔法のファンタジー世界では、強さこそが正義だった。ゲームのキャラクターは、工夫して攻略し、時間をかけて育てれば、どんどん強くなっていった。しかし、強くなったのはキャラクターであって、俺が強くなったわけではなかった。


 でも、俺にとってゲームは、それだけではなかった。俺もゲームのキャラクターみたいに強くなれたらな、と思わせてくれたからだ。


 なぜそう感じるのかは、よく分かっていない。少なくとも、ゲームの世界には、ファンタジーの世界には、夢があった。俺には、そう感じられたのだ。


 ゲームのキャラクターが、あの頃に憧れたスーパーヒーローのように見えているのかもしれないな。


 37歳になった俺。

 俺にはまだ、未練があるのかもしれない——



 ◼︎



 未練があったからといって、具体的に何かするわけではなかった。


 日中はそれなりに仕事をこなし、夜はゲームのレベル上げをする日々だった。

 仕事ではそこそこの収入を得て、ゲームではそこそこのランキングを維持した。


 どちらかで頂点を目指す覚悟は、俺にはなかった。


 仕事で出世レースを勝ち抜く気も、プロゲーマーになる気も起きなかった。



 ——そんな中、俺が普段プレイしているMMORPGの運営会社から、一通のメールが届いた。


【新作MMORPGのクローズドβテスト参加者募集のお知らせ】


 おっ、面白そうじゃねえか。

 βテストに参加しておけば、先に攻略情報も得られる。


【本作は、前作の世界観を引き継いだままの、本格的なメタバース空間となっており、その世界で実際に人々が暮らしているかのような臨場感を——】


 メタバースねえ。近年よく聞くけど、うまく行ってないイメージだな。まあいいや、ゲームはゲームだ。


【応募フォームのアンケートにお答えください】


 よくあるやつだな。これを元に、多様性のあるテスターを募集するためだ。基準は分からないのだから、選ばれるためにあれこれ勘繰ってもしょうがない。こういうのは正直に答えるしかない。


 俺は、応募フォームのボタンをタップする。


【ゲームを一日平均何時間プレイしていますか?】


 《5時間〜6時間》っと。


【ゲームに一ヶ月に平均何円課金していますか?】


 《3万円〜5万円》っと。


【好きなゲームジャンルを、以下からお選びください】


 《ファンタジー》っと。


 ——こんな調子でアンケートが進んだ。


 そして、アンケートが終盤になると、何やら違和感のある質問が出てきた。


【この世の中に、剣と魔法は存在すると思いますか?】


 ……何が聞きたい?


 「本格的なメタバース空間」って言ってたな。何か関係があるのか?

 いずれにせよ、こんなことをユーザに聞いてもしょうがないと思うけどな。「存在する」って答えれば、それを見せてくれるとでも言うのか?


 俺は正直に「いいえ」を選ぼうと思ったが、「その他(自由入力)」という選択肢が目に入った。


 ——ちょっと書いてやるか。


《そんな世界があるなら、連れて行って下さい。》


 言ってやった。「本格的なメタバース空間」なんだろ?

 見せてくれよ、剣と魔法の世界ってやつをよ。


 入力を送信し、次の画面に移ると、また不可解な質問が出てきた。


【この世の中は、『力』こそが全てだと思いますか?】

 ……マジで何が聞きたい?


 このアンケートを聞いたところで、運営会社は、何をどう使うんだよ。


 会議室のスクリーンに「この世の中は、『力』こそが全てだと思いますか?」と映され、円グラフで「はい:36%」、「いいえ:64%」とか見せられても、「で?」としかならんだろ。円グラフが3Dでないことを願うばかりだ。


 俺は「その他(自由入力)」のパーセンテージを増やしてやろうと、入力欄に記入した。


《世の中は『力』こそが全てだと思います。このゲームで強くなれば、その『力』があるという証明になりますか?》


 言ってやった。『力』が全てとかどうとか言うなら、さぞやりごたえのあるゲームを作ってくれるんだろうな?

 楽しみに待ってるぞ。俺をβテスターに選べよ。必ずだ。


 そう思いながら、俺は入力を送信した。


 しばらくのローディングの後、一つの動画が画面に表示された。


【始めに、この動画をご覧ください】


  ……始めに?


 最後に、じゃなくてか?

 また何か始まるのか?


 再生ボタンをタップすると、壮大なプロモーションビデオ風の動画が流れた。


【ここは、剣と魔法の世界です】


【プレイヤーを縛りつける目標や目的は、一切ありません】


【世界を征服するのも、自由気ままに生きるのも、あなたの自由です】


【これはゲームではありません】


【『現実』なのです——】


(言ってくれるじゃねえか……)


 メタバースだか何だか知らないが、そんなに大見栄を切るんだったら、少しは様子を見てみたいもんだな。



 ——映像が終わると、俺は頭がぼーっとしてきた。


 寝不足なんかじゃなかったはず。


 視界がぼやけ、意識が薄れていく。


 身体がふらつく。


 耐えられなくなった俺は、椅子から転げ落ちた——



 ◼︎



 目を覚ますと、見慣れない光景がそこにはあった。


 古ぼけた、木造の家の天井。


 三歳児ぐらいだろうか、女の子の顔が、ぼんやりと見えた。

 どうも、抱っこされているらしい。


 俺は、生まれた頃の夢でも見ているのか?

 兄弟のいない俺には、存在しない記憶だが。


「※◯▽◼︎※◇◯⚪︎〜」


 何を言われているのか、さっぱり分からない。

 でも、赤ちゃん扱いされていることだけは、態度から分かった。


 そもそも、誰なんだこいつは。姉か?


「※★◇、◯▽◎☆△◎!!」


 ほっぺを擦りつけられる。頬の骨に頬の骨が当たって、痛い。

 やめろ、潰される!


「ほげゃ」


 なんだこの鳴き声は。俺がまるで赤ん坊みたいじゃないか。


 俺は、必死に手足をジタバタと動かす。くそ、思ったように動かない。こんな幼児にも、俺は全く抵抗ができないのか。


 いい加減、やめろ。

 痛い、痛いって!


「ほぎゃぁぁぁあああぁぁ(なんて、『無力』なんだあああ)!!!!!」

次回からラブコメです!

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