チャプン、と音がする
どうも、窓外のアイシングです。
2作品目を必死こいて執筆しました。
最後まで楽しんで読んでいただけたら
嬉しいです。
チャプンッ…チャプンッ…
という水音で俺は目を覚ました。
背中が痛い。
俺が寝ていた場所は、硬い床のようだった。
よく見ると、床下にぬいぐるみのような物とアームがある。
(…UFOキャッチャー?)
辺りを見回すと、そこは異様としか言いようがない、ぼんやりと薄暗い空間だった。
天井も床も白いタイルで、天井からは無数の非常口マークが吊り下がっている。
だけど指し示している矢印の方向は、それぞれ違っていた。
白いタイルの床には浅く水が張ってあり、プールのような腰掛ける場所もある。
壁沿には観葉植のような物があり、この空間にある光は全てUFOキャッチャーと非常口の看板のみだった。
薄暗くて気味が悪い。
なのに出口のような場所は見当たらず、他にあるものと言えば床と同じような白いタイルの四角い柱があるだけだ。
(…ここから出よう。)
慎重にUFOキャッチャーの上から下り、俺は移動を開始した。
パシャンッ…パシャンッ…
俺が歩く水音のみが果てしなく続くような、この空間に響く。
スニーカーで歩いているから中に水が入るか心配だったが、不思議と大丈夫そうだった。
にしても、人が一人もいない。
誰か一人でも合流出来たら心強いのに。
そう思った時、音が聞こえた。
チャプンッ…チャプンッ…
俺が目覚めた時に聞こえた水音のようだった。
誰か同じように迷っている人がいるのかも知れない。
パシャンッ…パシャンッ…
その音を頼りに進むとついに音源へ辿り着いた。
(…え?)
咄嗟に俺は近くにあった柱の陰に身を隠した。
そこにいたのは
くじらや、ヒヨコなどのプールで子供な遊ぶようなおもちゃを無理やり繋ぎ合わせたような歪な形の化け物がいた。
その体からは、大人の人間の足が一本生えていて黄色い長靴を履いていた。
チャプンッ…チャプンッ…
けんけんをして進んでいる。
俺にはまだ“それ”は気づいていない様子で、方向転換をすると反対方向へと去って行った。
数秒沈黙した後俺は思い切り息を吐いた。
(夢にしても、水の質感も光の反射も、全部がリアルすぎる…)
だけど夢にしても現実にしてもここにいれば、いつかは確実に恐ろしい目に合いそうだ。
とにかく人を探しつつ、俺は柱やUFOキャッチャーの陰に隠れながら脱出が出来るような場所を探した。
壁沿いの観葉植物がサワサワと揺れる。
水は入ってきていないのに、ズボンの裾に水の冷たさが感じられた。
チャプンッ…チャプンッ…
また、あの音だ。
音が、さっきよりも遅い。
まるで、何かを探っているように。
(……なんで、こんなにゆっくりなんだ…?)
息を殺す。
心臓の音がうるさい。聞こえてしまうんじゃないかと思うほどに。
チャプン……ッ
すぐ近くで、水が揺れた。
思わず視線を足元に落とすと、UFOキャッチャーの隙間から“それ”が見えた。
黄色い長靴。
水面をわずかに沈めながら、ぴたりと止まっている。
(うそだろ……)
すぐそこにいる。
顔を上げれば、目が合う距離だ。
ギシッ…
UFOキャッチャーの外側に、何かが触れる音。
ゆっくりと、“それ”が覗き込む気配がする。
(見るな……見るな……!)
分かっているのに、視線が勝手に上がりそうになる。
チャプンッ…
一歩。
さらに近づいた。
もう、逃げ場はない。
そのとき――
チャプンッ、チャプンッ…
少し離れた場所で、別の水音が鳴った。
“それ”の動きが止まる。
しばらくの沈黙のあと、
チャプンッ…チャプンッ…
音は、遠ざかっていった。
……助かったのか?
全身の力が一気に抜け、俺はその場に崩れ落ちそうになるのを必死でこらえた。
膝の震えが収まった後、横を見ると扉があった。
木製の大きな扉。
俺は慎重に近づき、扉を開けた。
目の前が光で満たされ、ホワイトアウトする。
眩しすぎる景色に、俺は目を覆った。
…目を開けると、そこにはUFOキャッチャーも水浸しの床も無かった。
代わりに薄暗い博物館の展示スペースに似た場所が永遠と続いているような空間がそこにあった。
(…とりあえず、あの化け物からは逃げられたってことで良いんだよな…)
にしても、また異様な空間か。
いつ、また化け物か出てくるか分からない。
今のうちに栄養補給をしようと近くにあった荷物置き場のような場所に、俺はリュックから取り出したジュースとスナック菓子を置いた。
ズルズル…ズズズッ…
背後から、何かが床を擦る音がした。
さっきまでの水音とは違う。
もっと重く、粘ついたような音。
(……なんだ、これ……)
ゆっくりと、首だけを動かす。
振り向いてはいけない気がした。
でも、確かめないといけない気もした。
ズズッ……
音が、すぐ後ろで止まる。
――すぐ、後ろだ。
冷たい空気が首筋に触れた気がした。
(いる……)
ゆっくりと、振り向く。
そこにいたのは、
タコのようにうねる腕を持つ、巨大な化け物だった。
その体には、人間の顔がいくつも埋め込まれている。
どの顔も、俺を見ていた。
にたり、と。
同時に、全部の口が歪む。
どうして、なんで、嫌だ嫌だ嫌だ
助けっ…!
博物館には、また静寂が訪れた。
ただ一つ、ズズズッ…ズルッ…という引きずるような音を残して。
最後まで読んで下さりありがとうございます。
実は、この作品を投稿しようとしたのですが下書き保存をしないまま別のアプリに飛んだが為に、一から書き直した作品になります。
結構好評でしたら、明日のおやつをすこし豪華にしようかなと考えています。




