第3片 探偵のアリバイ調査
「まずは犯行時間とアリバイのすり合わせからだね」
「平塚のばあやと流山のやつは一緒にいたらしい。警備員の伊奈さんは監視カメラに警備員室に居たことが記録されている。それ以外は各々別々に行動してたってぇところだな」
「うーんそうなると容疑者はほぼ絞れない感じかな」
「あんましうちのやつらがわざわざ人殺しなんてしないとおもうんだよなー。ぶっちゃけ犯人はお前なんじゃねぇの。実は探偵が犯人でしたってやつ?」
「何を言う。これでも探偵として悪を許さない正義の心ぐらい持ち合わせているさ」
「どの口が言ってんだよ」
「どこかの誰かと違って僕は口があるからね」
「別に上手くはねぇよ?そんなドヤ顔で言うことじゃあ、無い」
真顔で諭された。
「冗談はさておき、推定犯行時刻にアリバイが無い人たちがどこに居たかも知りたいね。もしかしたら、矛盾が見つかるかもしれないしね」
「じゃあ俺は家の家族に聞いて来るから使用人たちは頼んだぞ」
「おっけー」
「と、いうわけで。まずはあなたからお話をお伺いしようと思いました」
えーと。白鷺?白岡?思い出せ。確か。
「白浜さん」
「白鷹です」
あちゃー。
「おっほん。あなたは犯行が行われた10時から12時頃何をしていましたか」
「夕食の片づけが終わって、今朝の食事の簡単な準備をしていたよ。9時くらいには地下の食糧庫に行くときに高槻さんと会ったかなぁ。まあ本当にすぐ終わるようなことだから大した証明にはならないがね。その後は使用人の部屋に寝に行ったよ」
「何か気になることはありましたか?」
「特にこれと言ったことはなかったな。強いて言うならそれだな。佐波蘭さんの部屋も彼が落とされたであろう吹き抜けもどちらも使用人室と同じ2階にあるというのに怪しいことは何も無かった」
確かにそれは妙だな。
「では何か彼を殺そうとする人物や動機に心あたりはありますか?」
ふと、白鷹さんの顔が何かをこらえるようなとても悲しそうな顔をした。
「それも全く、心あたりなんてありはしませんよ。彼は。彼は。こんな簡単に命を奪われてもいい人なんかじゃなかった。彼は俺の料理を美味しいと、人生に心残りが無くなるほどだと、俺の腕を買ってくれていたんだ」
「蒼龍さんには恩がある。ここの人たちも皆美味そうに俺の料理を食ってくれる。でも、それでも。俺の心を満たしてくれたのは。忘れかけていたプロの料理人としての矜持を思い出させてくれたのは、彼だけだったんだ。彼だけが…………」
悲痛だった。こういう様子を見たくないから僕は探偵になったんだ。
「犯人必ず見つけて下さいよ。探偵さん。―――それと、申し訳ないがこれからは少々料理の味が落ちるかもしれません」
あんな様子見せられたら、白鷹さんが犯人っていう線はあんまり考えたくないなぁ~。それに、彼の白岡さんの言う通り、佐波蘭さんが誰かに恨まれるなんて想像ができないんだよなぁ。となると佐波蘭さんは誰かの巻き添え、あるいは勘違いによって殺された。のか?
次はバトラーの鳴沢瑞葵さんだ。瑞葵さんは僕が人の名前を覚えるのが苦手だと言ったら、名刺と顔写真を胸ポケットから出して即座に渡してくれたのだった。(名刺は分かるけど何で自分の顔写真を常に持ち歩いてんだよ!メッチャ可愛いけど!滅茶苦茶可愛いけど!!)「バトラーたるものあらゆる状況に対応できるように準備を欠かさないんですよ」と嘯いていた。(嘘つけ!絶対自分が可愛いことを自覚しているからだろ!!)そして、僕は有難く頂戴しておいた。
ちなみに糸目でショートカット、顔立ちは中性的で高身長スレンダーのお姉さん系である。そんな彼女がメイド服を着ている様を想像してみて欲しい。とんでもない破壊力である。ちなみに目元にはほくろがある。うーん素晴らしい。
瑞葵さんは使用人室の隣にある洗濯部屋に居た。
「おはようございます。探偵くん」
流石メイドさんだ。一瞬で誰かを把握し、即座に挨拶をされてしまった。僕なんてなかなか人の名前が出てこないどころか、ある程度分かっている確信があっても人の名前を呼ぶのをためらってしまうというのに。それにしても相変わらず玉を転がすような魅力的な声だなぁ。
「おはようございます。瑞葵さん。今日も素敵ですね。ところで――」
「アリバイですね」
まだ要件を言い切る前に言い当てられてしまった。彼女の方がよっぽど探偵のようである。それにしても素敵だと言われてここまでリアクションが薄いとは。普段からよく言われているんだろうなー。ちくしょう。人を褒めるのが苦手な僕なりに勇気出してるのに。
「そうです。犯行時刻の10時~12時頃何をしていましたか」
「そうですねー。わたしはお風呂に入っていましたね」
瑞葵さんのお風呂かー。ふーん。
いや、全然気にならないけどね。
全然ね。
「そんなに気になるなら一緒に入ります?」
「んーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんんんんんっんっんんんんんんnnnn。あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーあぐあぐあぐぐぐぐぐぐうぐぐぐっぐうぐぐぐぐうぐぐぐううぅぅぅうぅぅ。あああああああっぁぁあっぁぁぁっぁあああああーーーーーーーーーーーー。うっうわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
そんなことが許されても良いのか。この僕に。
「お願いしまぁーーーーーーーーーーーーーーーーーす!!!!!!!!!!!!」
「そこまで反応されるとは……。探偵くんも男の子ですねー」
流石に軽くひかれた。ちょっとショック。だってそっちが振ってきたじゃん!
「では犯人を無事捕まえることが出来たら考えましょうか」
うっひょー。マジかよ。
閑話休題。
「話を戻しますがアリバイについてですね」
シームレスに話が脱線してしまった。ここらで軌道修正しなくては、
「うーん、やっぱり証明できる人はいませんねー。使用人室へ帰った時も流山君は既に寝ていましたし。白鷹シェフはいませんでしたね」
「物音とかもしませんでしたか?」
「そうですね。何も変な音とかは無かったですよ」
「佐波蘭さんを手にかけようとする人に心あたりはありますか?」
「佐波蘭さんについてはホントに分かりませんね。そんなに会話も交わしませんでしたし。というか定期的に客人が招かれるのでいちいち全員と仲良くはしてらんないんですよねー」
「佐波蘭さんについてですか?」
「ええ、ご子息の二人については色々話せますよ。次女の千旭お嬢様の事情については知っていますね?」
「彼女がカラフルピースであるだろうぐらいしか分からないですね」
「こんなことあんまり大声じゃ言えませんが、何度か彼女にうちの参加の企業についての事業アドバイスをしてもらったことがあるのです。あくまで参考であったり、元々蒼龍さんが考えていた内容に沿っていた時のみですが、どれも大成功しているのですよ。もちろん似たようなことは長女様や長男様もやっています。ですがあの二人でも今の千旭ちゃんと同じ年齢の時ではこうは行かなかったでしょうね。」
「それを他の三家に知られていたら、」
「刺客が送られてきてもおかしくは無いということです」
流山君は後でいびりに行くとして、動機としてなかなかありえそうな話が聞けたな。
「ところで暁人様と協力して屋敷にいる全員にアリバイを聞いているようですが、外部犯という説は無いんですか?」
「そこについては伊奈さんと特に平塚さんが絶対にありえないと念を押して保障してくれてます」
屋敷の中は無いが屋敷の塀の外に対しては365度余すことなく監視カメラの視界内に捉られるようになっているそうだし、オンラインに接続されていないから外部から操作することもできないらしい。そして、何より平塚さんがここの場所は徹底的に秘匿され、情報が洩れることは無いらしい。
「平塚さんがそこまで言い切るってことは確かに内部犯しかありえないですねー。パンピーにはピンと来ないかもしれないですけど、プロがそこまで言い切るってことはかなりの重みがあるんですよね」
「アッキーにもそのプロってものを聞いたんですけどそれってどうやってなるものなんですか?」
「あるとき手紙がくるらしいんですよねー。白い封筒に赤い蝋で封してある。いかにもっ、て感じの手紙が。どういう基準で決められてるんだかわかんないですけどね」
僕もいつかその手紙が届くのだろうか?
「ところで探偵くん。今暁人様のことアッキーって呼ばなかった?」
「ギクッ」
「ふふふっ。そんな身構えなくていいんですよ。暁人様にもついにお友達が出来たんですねー。感慨深いです」
「……アッキーって友達居なかったんですか?」
「そうですねー。特にここ数年は。暁人様はお祖母ちゃんっ子でいつもべったりでした。でも4年ほど前にご祖母様が亡くなってしまって……。それからずーっと引きこもっていたんですよ。一年ほど前は半年ほど失踪もしていましたね」
「暁人様って、ちょっと強がりで口調が乱暴な所があったりするじゃないですか」
「まったく、アッキーには困っちゃいますよ」
「本人が気づいているか知りませんが、それって暁人様なりに甘えてるんですよ。気が許せる相手だから、自分を簡単には嫌いにならずに受け止めてくれる相手だから、好きな相手だから。だから、それに甘える。一種の愛情表現なんですよ。」
「ご祖母さまにもかなりつっけんどんな態度をとっていましてね。ご祖母様もきっと分かっていらしゃったでしょうけど、暁人様はご祖母様が亡くなってしまう直前までそんな態度をとってしまったことを後悔しているのですよ。本当は祖母孝行をもっとしたかったでしょうに」
「なのでですねー、暁人様が探偵さんと仲良くしているのならこんなに喜ばしいことはありません」
悲しさがそれとなく胸に残った。
「すいませんねー。なんかしんみりさせちゃって。最後に、探偵くん」
「はい?」
「お風呂楽しみにしてますよ」
うおー、アッキーなんてどうでもいいぜーーーーー!!!!!
「どうも高槻さん」
「ええ、どうも探偵さん。なんだか浮かれた顔をしていませんか?」
かなりぶっきらぼうで素っ気なく返事されてしまった。高槻さんはいつでも仏頂面だが今日は一段と虫の居所が悪そうだった。ちょっと苦手なんだよなーこの人。
「どうです。首尾の方は」
「ぼちぼちってところですかね」
「佐波蘭さんでしたらまだしも、あなたに事件が解決できるのかしら?」
うーん、そういわれると弱いなー。佐波蘭さんとはキャリアがというか齢がちがうからなー。
「今使用人の皆さんに犯行時刻の行動を聞いているところなんですけどお伺いしても?」
「私は地下の食糧庫に行ったあと3階へ軽く見回りに行きました」
そういえば、白なんとかさんが会ったって言ってたっけ。
「見回りですか?この安全な屋敷で?」
「いえいえ、別に警備ではありませんよ。戸締りと適度な換気ができているかの確認です。窓を全開にしていたら虫が入ってくるのですよ」
なるほどなー。そこまで気を配ってくれるなんて流石メイドさんだなー。うちの事務所にも欲しいなー。具体的に言うと瑞葵さんみたいな人がね!
「何か変わったことはありませんでしたか?」
「変わったことではありませんが千旭様の部屋から話し声が聞こえてきました。佐波蘭さんと話していたものと見て間違いないかと」
「いつ頃ですか?」
「10時前後であったと思います」
「となると佐波蘭さんに最後にあったのは千旭ちゃんということになるんですかね」
「そうなりますね」
となるとアッキーと合流したら詳しく話を聞く必要がありそうだなー。
「分かりました。それではこれで」
「……………、あの」
「はい?」
まだ何か話があるのだろうか?
「佐波蘭さんを殺した犯人。絶対に許さないで下さいよ」
それは白鷹さんとはまた違った、苦々しさと憎しみが混じったお願いだった。
「おっす。アッキー。ご苦労だったね」
「人をこき使いやがってよ」
「報告よろしくー」
「お前いつか背中刺されて殺されるぞ」
「アッキーが殺してくれるのかい?」
「やだよ。別にお前のこと欲しくねぇもん」
「まぁいいや。オヤジは自室兼書斎でずっと読書してたってさ。お袋は熟睡してたそうだ。そいで、妹は誰にも会わずに寝てたってよ」
ほう。
「ついでに伊奈のじいさんと平塚のばあやと流山のアリバイも再度確認してきた。」
僕の助手有能過ぎる。
「伊奈のじいさんは監視カメラの映像を確認してきて後の二人は別々にやっていた仕事の、簡単な順番の示し合わせをした。あれが嘘だったら相当計画的に二人で口裏を合わせないと無理だな」
「アッキー僕のところで働かない?」
「絶対ぇやだ。お前人使い荒いじゃん」
「心外だなぁ。アッキーが僕の為を思って自発的に行動してくれただけだろう?」
「言われてみるとそうかな、」
「ーってぇ、なるわきゃねぇだろうが!そもそも脅して無理やり働かせてんだろうがよぉ!」
「まぁまぁまぁ、ところで千旭ちゃんの話を詳しく聞かせてくれるかな。こっちで出た証言と食い違いがあった」
「マジ?」
「マジマジ」
「詳しくっつっても飯食った後は風呂入ってすぐに寝たぐらいのことしか言ってなかったぜ?」
「佐波蘭さんについて何か言ってなかったか。」
「『面白い話をしてくれるおじさまが死んじゃって悲しい』っつってたぜ。」
「佐波蘭さんでなくてもいいが10時半頃に誰かと話をしていたと言ってなかったか?」
「いいや?」
ふむ。こういう場合は、
「入れ替えよう」
「入れ替えね。なるほど。誰のところに行けばいい?」
「高槻さんだ」




