第2片 死人にクチナシ
登場人物のセリフに倫理に反する行動を示唆するものが含まれる可能性があります。
発見時刻は午前5時ごろ。第一発見者は高槻志木さんだ。死体の死後硬直からして、推定犯行時刻は午後10時~12時頃。死因は刺殺。全身を滅多刺しにされている。発見場所は一階大広間、赤いカーペットの上だ(屋敷に露骨な高級品はないけれど、このハリウッドの俳優が歩きそうなレッドカーペットだけは東花家がセレブであることを感じさせる)。
直接の死因は刺殺ではあるものの死体の一部は損傷しており、おそらく二階の吹き抜けから突き落とされたのではないだろうか。その時間にアリバイがあるのは平塚さんと流山くんそれから警備員の伊奈さんだけだ。前の二人は一緒に行動しており、伊奈さんは詰所の中の防犯カメラの映像が残っている。
容疑者の筆頭は僕だろう。なんて言ったって「お客さん」で部外者なのは目をかけてくれていた佐波蘭さんに連れられ手伝いをすることになった、僕だけ、なのだから。犯行動機も分からない。(こんなこと言うのも難だが)東花家の誰かを狙うというのならわかる。かなりの危険を冒してでも、始末することで何かしらの利益を得ることができるものはごまんといるだろう。しかし、佐波蘭さんを、東花家が賓客として招いている者をそのテリトリーの中で殺す意味を解っていない人間がいるわけがない。
それはつまり、東花家の顔に泥を塗るということであり、ただで済む筈がない。個人的な恨みがあるとするのなら、そんなリスクをわざわざ負う必要はないのだ。つまり。この事件は、何かの始まりに過ぎない可能性がある。だから、なるべくに犯人を特定する必要があった。
差し当たって最も謎多き人物。次男の部屋を訪れていた。
コンッコンッコン。ドアをノックする。返事は無い。
「僕だ。開けてくれ」
「………………」
「たっ、大変だ!まさか。既に犠牲に!」
「クソッ、助けられなかった!僕が力不足だったばっかりに。ああ、力が欲しい」
すると、扉が勢いよく開くと同時に拳が飛んできた。
「死んでねぇよ!!!」
やれやれ。まったくこれだから最近の若者は、攻撃的なんだから。
「な~に、「やれやれ。まったくこれだから最近の若者は、攻撃的なんだから。」みたいな顔をしてやがるんだよ! おめぇは! やかましいわ!!!」
こいつ。読心術を持っているのか!!
「顔に出てんだよ顔に! 舐めんな!!」
「……」
「てか歳は同年代ぐらいだからお前も最近の若者じゃい!!」
「…………」
「「僕だ。」って誰だよおめぇは初対面だろうが!!!」
「………………」
「あと、さてはお前俺の名前覚えてねえな!!!!」
「……………………」
こりゃあ、たまげた。あんまりミステリアスなキャラじゃないじゃない。
「俺の名前は東花暁人だ」
少し落ち着いてきたようだ。
「ったく。誰のせいでこんな感情的になっていると思っていやがる。もう一度言うぞ。暁人だ。よ~く脳ミソに刻んでおけよ」
「オッケー。よろしく。アッキー」
「お前。距離の縮め方キモッ」
…………、結構傷ついた。
「お前なぁ。人と関わるって言うのは誠意が必要なんだぜ。名前を覚えるっていうのは、その第一歩だぜ。それを欠いているってのに相手に対等なコミュニケーションを求めるのどうかと思うぜ?」
「ほっといてくれ、固有名詞を覚えるのが苦手なんだよ」
「人は人に無関心であるべきってのが僕の持論でね。その誠意ってのを払うにはエネルギーを使う。エネルギーってのは必ず限りがあるだろ。僕は人一倍そのエネルギーが少ないんだ。だから、僕が本当に大切にしているもの以外には使わないようにしている」
「それ、俺のこと遠回しにどうでもいい奴だと思ってるって言ってるよ?」
「何を! 流石にアッキーとはいえその言葉は見過ごせないな。こうしてしっかり「アッキー」って呼んでいるじゃないか」
「俺のフルネームは?」
「東花アッキー」
「舐っめんな!!」
本日二度目の綺麗な右ストレートが飛んでくるのであった。
「まぁ、話が進まないからそれはそうとして」
「人の名前をそれはそうとしてで片付けんなよ。お前結構ロクデナシだな」
「事件について何か知らない?」
「知らん」
「そっかじゃあね」
そう言い残し、僕はアッキーの部屋を後にするのだった。
結構必死にアッキーに引き留められた。
「待て待て待て。こんなスポットライトが当たっている俺が重要人物じゃないわけ無いだろ!」
「そんな!君が犯人だったなんて!信じてたのに!!!」
「…………。………。スーーーーーーーーーーーーッ。ハーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ。取り合えず、俺の部屋でゆっくり話をしようじゃあないか」
長すぎる深呼吸だった。流石、御曹司はアンガーマネジメントが完璧(?)である。こめかみをぴくぴくさせながらも。僕の肩を掴み部屋へと連れ込むのだった。キャッ。えっち!
結論から言うと「俺は犯人ではないが犯行はいくらでもできる」というのが彼の主張だった。
「俺は朽無士だ」
「うーん?何それ??」
口をあんぐりさせた。
「おまっ。そんなことも知らねぇの!?」
「うん。何それ?」
「はっ!? マジか、嘘だろ!? プロで知らねぇ訳がねぇ。あっ! もしかしてお前ってプロじゃあねぇの? 俺はてっきりあの老紳士と同じでプロの探偵として、雇われているもんだとばっかり……」
「僕は探偵として生計を立てているからプロだろ」
「そういうことじゃねぇよ」
かなり呆れた様子だった。
「良いか。ここで言う。プロってのは。一般的にプロフェッショナルという意味で使うプロじゃねぇ。EENに所属している一点特化の技能を持った専門家・スペシャリストのことだよ」
「EEN?」
「Extreme Expert Network略してEEN。日本語で「達人・職人・玄人情報網」クソダセェ名前だが世界間序列は2位だ」
「?????」
「朽無士の里っつーか朽無士は世界間序列5位。だが最も忌み嫌われ、嫌悪され、軽蔑され、目の敵にされ、憎まれている。そのためEENでは大々的に懸賞金がかけられているのさ。」
「??????????」
「そのワケは単純。俺らが死体を愛しているからさ」
「死体を愛す? 人殺しってことか?」
「いんや。それよりももっとおぞましい。
「俺らは死体を操る。
「それは死者への冒涜であり、尊厳の陵辱だ。
「死体を弄り、加工し、弄ぶ。
「最低で最悪。不浄で、醜悪で汚らわしい。
「だから、俺らは淘汰されてきた。
「徹底的に探され、虐殺された。正義の名のもとに。
「絶滅寸前の天然記念物。世界間序列も最下層。というか世界としてはほぼ崩壊済み。
「それが朽無士さ。
「客観的に見て、もちろん間違っているのは俺たちだ。でもさ。人の性ってもんはそんな簡単に縛られるもんじゃあないのさ」
「要するに……。ネクロマンサーってこと?」
「ちっげぇよーーーーー!!お前――――!ふっざけんじゃねぇぇ!!!」
ふむふむ。どうやら禁句であったようである。地雷を踏んじゃったかな?
「とにかく俺は遠隔で死体、まぁホントは脳無しっつうんだが。それを操れるからアリバイが意味を成さねぇんだよ」
「えーっ、なんでわざわざ自分が不利になるようなこと言うんだよ」
「それはだなー。……。なんでだと思う?」
「馬鹿だから?」
「うん! 一周回ってムカつかなくなってきたぞ。」
それは菩薩のような笑顔であったという。
「お前が凄腕の探偵だと勘違いした愚かな俺は、変に疑われる前に正体を明かしちまおうと思ったんだよ。まっ、この分だとマージで無駄なカミングアウトになっちまったみてぇだがな」
「んで、アッキーはこの後どうすんの?」
「別にどうもしねぇよ。自称プロの探偵による推理のお手並み拝見ってところかな」
「死体が増えた方が嬉しいんじゃないの?」
「いや、さすがに家族と小さいころから世話になってる身内に手を出すほどインモラルではねぇよ」
良く分からない基準だなぁ。
「そういえば、アッキー。もしかして、君の情報をEENとやらに流せば僕は一儲けできるのかな」
「最低すぎるよお前……。探偵の守秘義務はどうなってんだよ」
「アッキーが僕に協力してくれれば、そんなことしないんだけどなぁ。チラッ」
「うわぁ……」
一種尊敬さえも感じられる程の素晴らしい軽蔑の表情なのだった。
今日はよくドン引きされる日だなぁ。しかし、こちらに非があるのは火を見るより明らかか。なんちって。
こうして、僕は助手を手に入れることとなったのであった。




