プロローグ
「---で、この人が私の最推し!ずっごいイケメンでしょ!?」
「はぁ………?」
「あーーーっ、お兄ちゃん絶対わかってない!」
当たり前である。
そもそも明日全日本大会の決勝戦だという兄に対して話すことが乙女ゲームのキャラ解説だなんておかしいと思うのだが我が妹よ。
俺の名前は神谷 剣。長年の修行を経て明日、全日本剣道選手権大会の決勝戦へと挑もうとしている。
そして今目の前で自身の好きな乙女ゲームをこれでもかと言うほど語っているのは俺の妹である神谷 恵だ。
恵が今ハマっている乙女ゲームは俺が恵の誕生日にとゲーム屋で買ってきたものでもある。
本当は違うものにしようと思っていたのだが昔一緒に出かけた時にやけに熱心に眺めていたこともありプレゼントに選んだ。
渡したあとは大層喜ばれたのでこちらも嬉しくなったのだがこうも毎日のようにキャラ紹介やらゲーム紹介やらをされると渡さなければよかったと思ってしまうのも必然なのである。
しかし聞き逃すと妹が悲しい顔をするのであまり気をやれないのが最近の悩みだ。
ぷくりと頬を膨らます妹、ご機嫌ななめなようだ。
俺は慌てて苦笑いした。
「お兄ちゃんったら聞いてるのー?」
「あぁ、聞いているよ。」
「でね!この悪役令嬢が代々騎士団長をだしている公爵家のご令嬢でね、とっても強いんだよ!
でもすっごい気難しくていつも無表情で不気味なの。第2王子ルートはこの悪役令嬢を倒さないといけないから大変なんだよねー。」
「恵ー、もう寝るぞ。
明日は朝早いんだから起きれないだろ。」
「あっ、そっか…明日大会だもんね。でもお兄ちゃんなら絶対勝てるよ!だってお兄ちゃんは剣道界の麒麟児だもんねークスクス」
「麒麟児は言い過ぎだろー、ほらもうねんねだ。」
「はーい」
俺は知らなかった…
この後会場に向かう途中、交通事故に巻き込まれこの世を去ることも。
妹激推しの乙女ゲームの世界でかの悪役令嬢に転生することも。
その世界で数々の人間をメス堕ちさせることも。
この時は全く知る由もなかったんだ。




