第五話〈清澄〉
大会に集まる者達は、遠い空で何が起こっているのかをすぐに理解した。
どこかの国が、国を守護する聖獣に見放されて、封印されようとしている。
どこからともなく鐘が鳴り響く。
「集まれ!! 我が主から武者達に伝える言葉がある!!」
ざわめきが街を支配する。
風我は大会の中心――闘技場へと走った。
そこには、誰かが仰向けに転がっていた。
二人の成人男性が明らかに絶命している。
片方は質の良い衣に袖を通し、品の良さそうな顔立ちをしていた。
隣に横たわるのは従者であろう。
近寄らなければ息をしているかどうかわからない。
風我は心が萎縮するのを感じて、胸元の布地を掴む。
心音が早い。これは恐怖心だ。
ふいに視線を泳がせてみるが、金髪の男はいなかった。
――あいつを捜してどうするんだ!?
なぜ、憎悪している筈の奴を見つけて、何をしたいのか。
己に困惑して頭をかかえた。
邪派の男がさらに叫ぶのを聞いて我に返る。
「いいか! あの光は、今まさに浪国が封印されようとしている証だ! 浪国には、そこのか弱い王太子以外はツワモノ揃い!! 転移陣を使い、国に乗り込み、兵士達を一番多く殺したものに獣石をやろう! 証として体の一部を切りおとせ!」
残忍極まりない司令だが、この場には憤るものはわずかにしかいない。
風我は視線を落として拳を握りしめた。
周りの声が脳内で反響している。
ふとある思いが膨れ上がり、身体が震えだす。
――俺は、なにをしに来たんだ。
息絶えた者達を見て怖くなり、邪派の残酷な司令に苦悶して動けない。
――なぜ、生きている。
「あ、あ――――」
叫び声は、出現する転移陣の轟音にかき消された。
次々と転移陣にとびこむ邪派と正派の者達。
それを呆然と見ていた風我の背に、力強い声がかけられる。
「行くぞ風我!」
「そ、その声は」
振り返るまもなく、腰を抱かれた風我は、涼新と共に、闘技場に出現した転移陣へと飛び込んだ。
転移陣を通過する時、荒波の船に乗るような気持ち悪さがあるが、一瞬で終わり、出た先はすでに戦場と化していた。
国の民を襲う邪派と、無辜の民を守るべく戦う国の武者達と正派の者達。
これだけの数の猛者を倒すのは無理だ。
風我は涼新の腕の中で震えながらも、どうにか己を鼓舞して、剣を振るえないかと模索するが、身体が動かなかった。
「いいか風我、あの風はお前のものだ」
「!」
そっと涼新を見やると、碧色の瞳と視線が絡む。
怒号と悲鳴が遠くに響く。
一瞬、二人のまわりだけ、清澄な空気に包まれた。
「俺に、取り戻せっていうのか? あ、あの鹿を」
「陛下!」
どこからともなく碧色の鎧をまとう軍団が現れた。
彼らは、間違いなく帝王の兵士達だ。




