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獅子王の片翼  作者: 青頼花
第二章【非情なる世の理】

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第五話〈清澄〉


 大会に集まる者達は、遠い空で何が起こっているのかをすぐに理解した。

 どこかの国が、国を守護する聖獣に見放されて、封印されようとしている。

 どこからともなく鐘が鳴り響く。


「集まれ!! 我が主から武者達に伝える言葉がある!!」


 ざわめきが街を支配する。

 風我は大会の中心――闘技場へと走った。


 そこには、誰かが仰向けに転がっていた。

 二人の成人男性が明らかに絶命している。

 片方は質の良い衣に袖を通し、品の良さそうな顔立ちをしていた。

 隣に横たわるのは従者であろう。

 近寄らなければ息をしているかどうかわからない。

 風我は心が萎縮するのを感じて、胸元の布地を掴む。


 心音が早い。これは恐怖心だ。

 ふいに視線を泳がせてみるが、金髪の男はいなかった。


 ――あいつを捜してどうするんだ!?


 なぜ、憎悪している筈の奴を見つけて、何をしたいのか。

 己に困惑して頭をかかえた。

 邪派の男がさらに叫ぶのを聞いて我に返る。


「いいか! あの光は、今まさに浪国ランコクが封印されようとしている証だ! 浪国には、そこのか弱い王太子以外はツワモノ揃い!! 転移陣を使い、国に乗り込み、兵士達を一番多く殺したものに獣石をやろう! 証として体の一部を切りおとせ!」


 残忍極まりない司令だが、この場には憤るものはわずかにしかいない。

 風我は視線を落として拳を握りしめた。

 周りの声が脳内で反響している。


 ふとある思いが膨れ上がり、身体が震えだす。


 ――俺は、なにをしに来たんだ。


 息絶えた者達を見て怖くなり、邪派の残酷な司令に苦悶して動けない。


 ――なぜ、生きている。


「あ、あ――――」


 叫び声は、出現する転移陣の轟音にかき消された。

 次々と転移陣にとびこむ邪派と正派の者達。

 それを呆然と見ていた風我の背に、力強い声がかけられる。


「行くぞ風我!」

「そ、その声は」


 振り返るまもなく、腰を抱かれた風我は、涼新と共に、闘技場に出現した転移陣へと飛び込んだ。

 転移陣を通過する時、荒波の船に乗るような気持ち悪さがあるが、一瞬で終わり、出た先はすでに戦場と化していた。


 国の民を襲う邪派と、無辜の民を守るべく戦う国の武者達と正派の者達。

 これだけの数の猛者を倒すのは無理だ。

 風我は涼新の腕の中で震えながらも、どうにか己を鼓舞して、剣を振るえないかと模索するが、身体が動かなかった。


「いいか風我、あの風はお前のものだ」

「!」


 そっと涼新を見やると、碧色の瞳と視線が絡む。

 怒号と悲鳴が遠くに響く。

 一瞬、二人のまわりだけ、清澄な空気に包まれた。


「俺に、取り戻せっていうのか? あ、あの鹿を」

「陛下!」


 どこからともなく碧色の鎧をまとう軍団が現れた。

 彼らは、間違いなく帝王の兵士達だ。






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