第四話〈幼子のように〉
邪派が関わる大会には、正派の武術者達も集まるが、それには理由がある。
大会で注目を集めれば、門派の名を上げる事となり、邪派への牽制にもなる。
一方、邪派はよほど不都合な事態にならぬ限り、正派を攻撃はしない。
世は正派にて成り立ち、恩恵を受けていると理解しているからだ。
大会での怨恨は引きずらない。
それが暗黙の了解である。
転移陣を使って王宮から森を抜けた風我達は、師範天云に指示をされてある宿へと向かう。
武術大会が行われる度に世話になっている宿だと連れて行かれた。
武術大会の舞台となる土地の中でも一際だだっ広い通りに、無数の宿が軒を連ねる。
掘っ立て小屋のような建物から、裕福層が暮らす屋敷のように豪奢な物まで様々だ。
天云はよく見かける普通の宿の戸口を跨ぐ。
主人に丁寧に挨拶をした灰兄妹にならい、風我は頭を深々とさげた。
それを見た主人が顔を綻ばせる。
「東国出身かな? 見かけない顔だが、素直で良い子じゃないか」
「ふふ」
褒められた事実に風我は満面の笑みを見せた。
その姿は親に褒められた幼子のようだ。
春鈴と雪花が顔を見合わせる傍らで、涼新は注意深く風我を見据える。
主人と天云は近頃の異変について話し込む。
邪派が絡む大会は数年間隔で気まぐれに開催される為、情勢が大きく変わっていることも多々あるのだ。
此度の重要な件は、邪派の主が変わった事実であろう。
出自が不明であり、果たしてどのような能力を持つのかも計れない。
大会にあわせて開放される一時の街には、大陸中から人が集まるが、特に宿を営む者は、客の素性には敏感にならざるおえないのだ。
天云が涼新に目配せをして近寄れと指図する。
素直に従えば、耳打ちされる言葉に集中した。
(風我をあのままにはしておけない)
頷いて囁き返す。
(考えがある)
「兄さん! 涼新! 風我がいっちゃったから私達追いかけるから!」
「まったくもう!」
飛び出す二人を天云は追う気はない様子だ。
涼新は天云に腕を掴まれて、部屋に連れてこまれた。
露店が連なる大通りに飛び出た風我は、風吹く先を見つめた。
「早く見つけなければ、手遅れになる」
「何が?」
息を切らせた春鈴が話しかけた。
追いかけて来たらしい。
隣には雪花が並ぶ。
「貴方、何がしたいわけ?」
雪花の問いかけに、風我は戸惑う。
口に出しておきながら、実は自分でもよくわかっていなかった。
生暖かい風に身を任せ、空を眺めていたら、遠くで光りが溢れたのを見て指を差す。
「見ろ!」
青空の先に稲妻が走る。
碧色の光が空に向かって暴れていた。
――こんな光景を見た事がある。
どこかの国が、封印されている!




