第三話〈揺らぐ心〉
どうして今まで思い出さなかった。
あるいは苦しまなかったのか。
決して忘れていたわけではないのに。
「お前の心は守られていた」
「……なら、俺はこれからどうすれば」
「取り戻せ。そして獣石を使ってお前だけの剣を手に入れろ」
肩に手を置かれて碧の瞳に射抜かれる。
「――っ」
涼新は、普段は瞳の色を術でごまかして、光の反射で様々な色に見せていた。
今は、帝王たる瞳をして風我を見つめている。
「そうだ、お前を斬る」
全ての元凶を斬らなければ。
家族が報われない。
「ならば、お前の自我を目覚めさせなければ」
「自我?」
頷いた涼新は、風我の瞳を静かに覗きこみ、碧の光が溢れていく。
――何だ?
碧の瞳を見つめていたら、頭がぼんやりとしてきた。
意識が薄れていく。
「風我」
「……っ」
風我は虚ろな世界で視線をさまよわせた。
何だかふわふわしている。
気づけば頷いて笑っていた。
「ははっ、大丈夫、ははっ」
天云は異様な風我の様子に息を呑む。
胸中にはある疑問が強く渦巻いていた。
――やはりただ者ではないな。
咳払いをすると顔を出す。
こちらを向いたのは涼新であり、風我は宙を見据えてただ笑っていた。
天云は涼新を睨みつける。
「何をした?」
「師範が心配されるような事ではない」
「私はお前達を預かる身だ! 隠し事は赦さん!」
語気を強めて言い放つが、涼新は気にする素振りもない。
腕を組み、風我に向き直った。
ふたりは小さな卓の前の椅子に座り、体を向けているが、風我はどこも見ておらず、夢の中を徨うような目つきをしている。
思わず烈気を駆使して精神の刺激を試みるが、涼新がその腕を掴み阻止した。
風我の幼子のような笑みを見つめていたら、ため息が出てくる。
「私に任せて欲しい」
怒りに震えるような声音に、天云は目を見開いた。
一瞬、涼新の切れ長の瞳がするどい光を放つ。
獲物を狩る獣を連想させるその様に、背筋がゾクリと震えた。
※
地平を飲み込むように広がる森を抜けた先。
切り開かれた土地にさまざまな建造物が屹立し、多種多様な露店が連なる。
各々の欲望を抱いた人間達が大陸中から集う武術大会は、ほどなくて幕開けとなった。




