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獅子王の片翼  作者: 青頼花
第二章【非情なる世の理】

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第三話〈揺らぐ心〉


 どうして今まで思い出さなかった。

 あるいは苦しまなかったのか。

 決して忘れていたわけではないのに。


「お前の心は守られていた」

「……なら、俺はこれからどうすれば」

「取り戻せ。そして獣石を使ってお前だけの剣を手に入れろ」


 肩に手を置かれて碧の瞳に射抜かれる。


「――っ」


 涼新は、普段は瞳の色を術でごまかして、光の反射で様々な色に見せていた。

 今は、帝王たる瞳をして風我を見つめている。


「そうだ、お前を斬る」


 全ての元凶を斬らなければ。

 家族が報われない。


「ならば、お前の自我を目覚めさせなければ」

「自我?」


 頷いた涼新は、風我の瞳を静かに覗きこみ、碧の光が溢れていく。


 ――何だ?


 碧の瞳を見つめていたら、頭がぼんやりとしてきた。

 意識が薄れていく。


「風我」

「……っ」


 風我は虚ろな世界で視線をさまよわせた。

 何だかふわふわしている。

 気づけば頷いて笑っていた。


「ははっ、大丈夫、ははっ」




 天云は異様な風我の様子に息を呑む。

 胸中にはある疑問が強く渦巻いていた。


 ――やはりただ者ではないな。


 咳払いをすると顔を出す。

 こちらを向いたのは涼新であり、風我は宙を見据えてただ笑っていた。

 天云は涼新を睨みつける。



「何をした?」

「師範が心配されるような事ではない」

「私はお前達を預かる身だ! 隠し事は赦さん!」


 語気を強めて言い放つが、涼新は気にする素振りもない。

 腕を組み、風我に向き直った。

 ふたりは小さな卓の前の椅子に座り、体を向けているが、風我はどこも見ておらず、夢の中を徨うような目つきをしている。

 思わず烈気を駆使して精神の刺激を試みるが、涼新がその腕を掴み阻止した。

 風我の幼子のような笑みを見つめていたら、ため息が出てくる。


「私に任せて欲しい」


 怒りに震えるような声音に、天云は目を見開いた。

 一瞬、涼新の切れ長の瞳がするどい光を放つ。

 獲物を狩る獣を連想させるその様に、背筋がゾクリと震えた。


 ※


 地平を飲み込むように広がる森を抜けた先。

 切り開かれた土地にさまざまな建造物が屹立し、多種多様な露店が連なる。

 各々の欲望を抱いた人間達が大陸中から集う武術大会は、ほどなくて幕開けとなった。



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