第15話 悪逆令嬢、共感する
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全てが解決したと思った直後――。
イザベラは、何かが壊れる音を聞いた。
「な、何ですの? 何かが割れたような音がしましたわ!」
「もう、終わりだあああああ!」
ゲスマンが叫ぶ。
その顔は絶望の色に染まっていた。
そんなゲスマンに王子が詰問する。
「ゲスマン、どういうことだ?」
「ワシは王子を殺すために、直接出向く予定だった。だが、直前になって面倒くさくなる可能性も考えたのだ」
「それを面倒がるな!」
王子は呆れたように叱責した。
その傍らで、イザベラはゲスマンの考えに共感していた。
重要な用事ほど面倒くさくなってしまうものなのだ。
そして、一度面倒くさくなれば、全力でやらない言い訳を考え始める。
イザベラはこれまで、数えきれないほどこのパターンを体験して来た。
「それで、面倒くさくなった時のために、何をした?」
「王子とジョージは確実に殺しておく必要がある。だから、一定時間でその魔物除けが壊れるように細工をしておいたのだ!」
つまり、これからダンジョンの魔物が襲い掛かってくるということだ。
状況は絶望的としか言いようがない。
だが、そんな中でもリオンは冷静だった。
「成程。確かにその男が持っていた魔物除けは壊れたようだ。だが、お前たちはどうやってここに来た?」
「それは……」
「別の魔物除けを持っているのだろう? それを素直に差し出すのであれば、ダンジョンを出るまでの間は命の保証をしてやろう」
魔物除けの効果範囲は限られている。
だから、ゲスマンがここまで無事に来るためには、別の魔物除けが必要だったはず。
(それですわ! 王子、見直しましたわ!)
イザベラは心の中で王子を絶賛した。
だが、その解決策を取ることは出来なかった。
「……壊れた」
「何だと?」
「さっき、地面に倒れた時に身体で押しつぶしてしまった」
リオンは眉間にしわを寄せた。
それが事実だとしたら――。
「魔物がやってくるのを止める方法はないということか」
「そうだ。もう、終わりだ! だったら、せめて王子も巻き込んで死んでやるううう!」
「予備はないのか?」
「あるわけないだろおおお! ワシは終わりだ! お前たちも道連れだあああああ!」
見苦しい事この上なかった。
だが、ゲスマンの言うことは事実だった。
その証拠に――。
通路から無数のゴブリンが姿を現した。
ゴブリンは小型の魔物であり、一対一であれば然程の脅威ではない。
だが、ゴブリンの恐ろしいところはその数にある。
狭いダンジョンの中で、無数のゴブリンが一気に襲い掛かってくるのだ。
一流の冒険者であろうと、物量にはいつか押し負けることになる。
まさに絶体絶命だ。
そんな中、イザベラはというと――。
「これ、ヤバいですわね!」
ようやく事態に追いついた。
全部解決したと思ってからの急転直下。しかも三回目。
脳が一時的にフリーズしていたが、それがようやく正常に戻ったのだ。
「ちょっと、ゲスマンさん! 救援は来ないんですの!?」
「ここはワシの私有地のダンジョンだ! そもそも、発見すらされないだろう!」
「貴方の味方はいないんですの!?」
「この件を知っているのは、ここにいる護衛の二人だけだ!」
「絶体絶命ですわ!」
「逃がしはせん! お前たちは、ワシと共に滅びるのだあああああ!」
「最悪ですわ!?」
あまりの状況に、イザベラは叫んだ。




