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第12話 悪逆令嬢、説得する

     ×××


「……話してみろ」

「貴族社会においても、昨年からは緊縮をしていました。税の取り立ても猶予を出していますし、必要なところには食料のあっせんも行っていたはずですわ」


 これは事実だ。

 昨年は緊縮の影響で、イザベラの贅沢三昧が制限されることになった。

 あの時の屈辱を悪逆令嬢は忘れない。

 だが、男はそれを知らなかったようだ。


「嘘だ!」

「嘘ではありませんわ」

「だとしても、それで足りるはずがない」

「仮に足りなかったとしても、全く届かないということはあり得ませんわ」


 地方領主が横流しをしていたか。

 あるいは、この男のところにだけ届かないように細工されていたか。

 動揺する男に対し、リオンが問いかける。


「その件については、調査を行おう。お前のところの領主は、ゲスマン・ガリデブだろう?」

「そうだ」

「仮に横流しが事実であれば、それは国家に対する反逆行為だ。なにせ、国が配給を指示したにも関わらず、それを無視して私利私欲に使ったというのだから、その罪は重い」

「本当なのか? 本当に食料のあっせんはしていたのか?」

「当然だ」


 リオンは堂々と答えた。


「ゲスマンに関しては、色々と悪い情報が上がってきている。現在、内定を進めているところだ。もっとも、俺が暗殺されるということになったら、その調査も中断されることになるだろうがな」

「それじゃあ――」

「大方、それを狙ったのだろう」


 暗殺犯は狼狽していた。

 彼はゲスマンに利用されていた。

 家族を殺され、それを調べていたリオンの暗殺を唆された。

 全ては、ゲスマンの掌の上だったのだ。


「いや、でも、そんな……」


 これまで信じてきたものが、嘘だったというのだ。

 自分の考えというものは、簡単に変えられるものではない。

 だが、ここで考えを変えてもらわなければ、イザベラたちの脱出は困難だろう。


「(かーくん。こんな時、何て声を掛ければよろしいんですの?)」

『(こんなときは『自分の過ちを話す(4-3)』ことが役に立ちます。相手を説得するということは、相手の意見や立場をある程度批判することになります。その場合、相手から反発されることになるでしょう。その反発を最小限に抑えるために有効なのが、自分の過ちを話すことなのです)』

「(本当ですの?)」

『(上から一方的に注意するのではなく、誰もが同じ過ちをするのだと話して、相手が受け入れやすくするのです)』


 幸いというべきか、不幸というべきか――イザベラは失敗談には事欠かなかった。

 あるとあらゆる状況に合致する失敗を何度も繰り返してきた。

 これが悪逆令嬢の生きざまである。


「私も、恥の多い人生を過ごしてきましたわ。悪逆令嬢と呼ばれ、我儘放題。挙句の果てには、それを利用されて濡れ衣を着せられて、取り返しのつかないことになったこともありますわ」


 これは逆行前の話だ。

 逆行前、イザベラは周囲に対して酷い態度を取り続けていた。

 それを利用され、暗殺未遂事件では濡れ衣を着せられてしまった。


「人に操られている時は、そのことに気づきにくいものですわ。というよりも、気づけないものですわ。貴方が――いえ、私達がしなくてはいけなかったのは、そのことに早く認めることでした。今の自分が間違っていることを直視しなければならなかったのです。過去の私は、それが出来ませんでした。でも、貴方は違います」

「違う?」

「貴方には、それを直視する機会がたった今与えられました。これは、その最後のチャンスです。ここが貴方の今後の人生を左右する分水嶺ですわ。ですから、しっかりと考えて判断してくださいまし」


 男はイザベラを見ていた。

 その表情には、動揺の色が見られた。

 何を信じればいいのか、自分でも分からなくなっているのだろう。


「俺が間違っていたとして――既に、俺は王族への殺人未遂に加担してしまった。処刑は確実だろう」

「そうとは限りません。情状酌量の余地はあると思いますわ。それに、ノワールさんはともかく、王城で暗殺を試みた方も、同郷の方なのではないですか? ここで王子が死んでしまえば、あの方も処刑は免れないでしょうね」


 城内でリオンを暗殺しようとした男。

 彼も目の前の男のように、やつれていた。

 だから、同じような境遇なのだろうとイザベラは考えた。


「騙されていたとはいえ、王子の暗殺は重罪です。このままいけば、死刑は確実ですわ。それを回避するためには、王子の命を救ったうえで、ゲスマンの不正を明るみに出すお手伝いをすることが必要なのではありませんの?」

「そうか……」


 男はリオンを見る。

 そして、深く頭を下げた。


「王子、俺はどうなっても構いません。ただ、あいつは許していただけないでしょうか」

「貴様の働き次第だ」


 リオンは淡々と答えた。


「王族への加害の罪は重い。それは、被害に遭った王族だけでなく、国民たちからも強く処罰を求められるからだ。だから、王子である俺であっても、命の保証は出来ない。だが、一つだけ言えることがある」


 リオンは男と視線を合わせた。

 そして、威厳ある態度で告げる。


「俺は必ず、ゲスマンを処罰する。アレの持っている全ての権限を取り上げる。そうなれば、お前の故郷の人たちの生活は楽になるだろう。それについては、俺の仕事だ。お前にも約束してやれる」

「ありがとう、ございます……」


 男は再び、深く頭を下げた。

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