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第9話 悪逆令嬢、誤魔化す

     ×××


 イザベラとリリアナは、図書館の中を探索し始めた。

 そして、すぐにロマンス小説のコーナーへとたどり着いた。


「イザベラ様。ここにあるのが全てロマンス小説なのですよね?」

「そのはずですわ」


 二人はその量に圧倒されていた。

 イザベラでさえ、所有しているのは十冊前後だ。

 対して、この図書館が所蔵するものは、五百冊をゆうに超えていた。


「この世界には、これほど沢山のロマンス小説があったのですわね」

「私も信じられません」


 二人は少しの間、その蔵書量に圧倒されていた。

 だが、すぐに切り替える。

 ここに滞在できる時間は限られている。

 読める本は精々一冊程度だろう。

 これから、その本を厳選する必要があるのだ。


「それでは、リリアナ。各々、怪しいと思った本を『調査』することにしましょう」

「はい」


 かくして、二人は『好みの本』を探し始めた。

 もはや、王子暗殺のことなど頭の片隅にも残っていない。


『イザベラ』

「何ですの? 今、忙しいんですのよ」

『いや、それならそれで……。もういいです』


 カーミギーも諦めた。

 それを全く気にすることなく、イザベラは調査という名の厳選を開始した。


(どれにしましょう。折角ですから、希少なものを読んでおきたいですわね)


 そう考えながら、イザベラは本棚の間を歩いた。

 背表紙のタイトルを確認しながら、内容を想像していく。

 彼女の頭は、これまでにない程に高速で回っていた。

 そうしている間に――。


『18歳未満立入禁止』


 こう書かれたエリアが目に入った。

 吸い寄せられるように、イザベラの足がそちらに向かって動き出す。


『イザベラ?』

「な、何ですの!?」

『そこは調べる必要があるのですか?』

「勿論ですわ!」

『本当ですか?』

「ここに破滅回避に必要ななにかがあるのですわ。私にはわかるんですのよ」

『へー、そうですか』

「そうなのですわ! さぁ、行きますわよ!」


 イザベラは約束の地へと足を踏み入れた。

 そこには、過激描写の含まれる無数の小説があった。

 ごくりと生唾を飲み込んで、本棚を物色し始める。


(タイトルからして、過激そうなものばかりですわね。これは期待できそうですわ)


 イザベラの頭は、煩悩に支配されていた。

 そして、気になるタイトルの本に触れようとしたところ――。


「イザベラ様!」

「ひゃい!?」


 リリアナに声を掛けられ、間抜けな声を上げた。

 その直後――。


「おっと、失礼! つい間違えてしまいましたわ! こんなところに来るつもりではなかったのですが、道に迷ってしまいましたわ! うっかり、うっかり!」


 イザベラは、早口でそう叫んでいた。

 リリアナは、お構いなしに言葉を続ける。


「近くで暗黒魔法の気配です!」

「私が暴走したというんですの!?」


 動揺するイザベラ。

 ここは、暴走をするには余りに不名誉な場所だった。

 過激な表現に興奮して制御が出来なくなったように見られてしまう。

 そんなことになれば、一生モノの赤っ恥である。


「せめて別の場所で――」

「私は王子のところに向かいます!」


 そう言って、リリアナは走り去った。

 それを見送ったイザベラは、事情を理解できていなかった。

 走り去るリリアナの背中を見ながら、首をかしげる。


「王子? 何でですの?」

『イザベラ。暗殺未遂のことを忘れていませんか?』

「暗殺未遂……。あっ!?」

『完全に忘れていましたね!?』


 イザベラは思い出した。

 ここには、リオンの暗殺未遂を止めるためにやって来たのだ。

 何とか阻止できたと思っていたが、やはり事件自体は起きてしまったらしい。

 リリアナはそれを察知し、対処しようとしているのだ。


 ここにきて、逆行前と似た展開になってしまった。

 だが、一つだけ大きな違いがある。


(私がこの図書館にいることは、ノワールさんがご存じですわ。つまり、アリバイが成立しますわ!)


 リオンには危機が迫っているが、その原因はイザベラではない。

 だから、暗殺未遂が起きてしまっても、破滅には直結しない。


 そのことに安心した彼女は、油断してしまっていた。

 禁断の地から出たところで、ノワールに遭遇してしまったのだ。

 ノワールはイザベラを見た後に『18歳未満立入禁止』の表示に視線を移した。

 そして口を開こうとしたところに――。


「ノワールさん! 王子のピンチですわよ! 速やかに王子の下へ向かいますわ!」


 イザベラは、勢いでごまかした。

 そして、羞恥心と危機感に突き動かされ、走り出した。


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