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第8話 悪逆令嬢、私利私欲に走る

     ×××


 リオン王子との面会後、イザベラは控室にいた。

 今はリリアナと一緒に、優雅にお茶を飲んでいる。

 イザベラの模擬暗殺により、警備体制が見直されることになった。

 その結果、魔法の使用を抑制する装置が壊されていたことが発覚した。

 現在は、城の人間が全力で対応に当たっている。


「これで問題は解決しましたわ」


 満足げに言うイザベラ。

 そんな彼女に、リリアナが問いかける。


「さすがです、イザベラ様。でも、何故分かったのですか?」

「気づかないほうがどうかしていますわ。ここに来ても、私の魔力に影響がなかったのですから」

「ああ、そういうことでしたか」

「ま、これで一安心ですわ」


 イザベラは緊張を解いていた。

 人事を尽くした以上、後は天命を待つだけだ。

 結局、ここまでリリアナの出番はなかったが、それならそれで構わない。

 今のイザベラにとって、リリアナは破滅回避の道具ではない。

 同じ趣味を持つ貴重な友人なのだ。


(今度こそ、これで終わりになりますわよね)


 イザベラはそう考えた。

 勿論、フラグである。


     ×××


 イザベラたちが雑談に興じていると、控室にリオンがやって来た。

 イザベラとリリアナは立ち上がった。


「楽にしろ。イザベラと話がしに来ただけだ」

「お話とは?」

「君のおかげで、色々な不備が発覚した。この件については、後日ノクスレイン家に褒美を取らせることとする」

「ありがとうございます」


 イザベラは落ち着いた声で礼を言った。


「そこで、君に頼みがある」

「何でしょう?」

「現在、城全体で警備体制の再チェックを行っている。そこで、君にも調査に加わってもらいたいのだ」

「私もですか?」

「そうだ。君なら、何かを見つけ出せるのではないかと思うのだ」

「買いかぶり過ぎですわ」

「近衛兵を一人、供につけよう。彼女が許すのであれば、城内のどこへでも行っていい」

「分かりましたわ」


 イザベラの下に、一人の近衛兵が近づいてくる。

 いかにも仕事が出来そうな、凛々しい顔つきの女性だ。


「近衛兵の『ノワール』と申します。今から警護に当たらせていただきます。よろしくお願いします」

「イザベラですわ。こちらは、従者のリリアナです。よろしくおねがいしますわ」


 愛想よく笑顔を向けるイザベラ。

 ノワールは、イザベラたちのお目付け役なのだろう。

 だったら、愛想よくしておいた方がいい。

 そんな浅い計算がイザベラの中で瞬時に行われていた。


「それでは、後は頼んだぞ」


 リオンはそう言って、控室から出て行った。

 それを見送ったイザベラは、大きく息を吐いた。


「面倒なのが、やっとどこかに行きましたわね」

「イザベラ様?」

「しまった!?」


 近衛兵であるノワールの前で、うっかり本音を出してしまった。

 このことをリオンに報告されては大変だ。


「ノワールさん、今のは内密にお願いしますわ」

「畏まりました」


 ノワールは淡々と答えた。


「ところで、イザベラ様。どこを調べるご予定ですか?」

「特にどことも決めていませんわ。適当に散策してみるだけですわ」

「そうなのですか」

「ええ」


 イザベラたちが調べたところで、何も分からないだろう。

 魔法阻害装置の不調は、襲撃が起きることを予め知っていたから指摘できたのだ。

 これ以上イザベラたちがリオンのために出来ることはない。


 そう――リオンのために出来ることはない。

 だけど、自分のために出来ることはあった。


 イザベラたちは、調査をしている振りをしながら城内を歩き回っていた。

 そして、ある場所で足が止めた。


『王立ルミナリオン王城図書館』


 その図書館の名前は聞いたことがあった。

 国内で出版されたあらゆる書物の複製がここに収められているらしい。

 つまり、イザベラでさえ手に入れられなかったロマンス小説も数多くあるはずだ。


「ここが怪しいと思いますわ」

「図書館がですか?」

「ええ」


 訝しむノワールに対し、イザベラは堂々と答えた。

 ここで挙動不審な態度をとったら、疑われてしまう。


「リリアナもそう思いますわよね?」


 イザベラに同意を求められたリリアナは、力強く「はい!」と答えた。

 ロマンス小説に関しては、リリアナも同じ穴の狢なのだ。


 この時、イザベラは気づいた。

 逆行前、リリアナは本を手に持っていた。

 奉仕活動の合間に、この図書館に着ていたのだろう。

 意外と抜け目のない女だった。


「それでは、参りましょう」


 イザベラたちは図書館の中に入った。

 そこには無数の本棚と、そこに収められた大量の本があった。

 室内はしんと静まりかえっており、静謐な雰囲気が漂っていた。

 まさに最高の読書環境である。


「とりあえず、呼ばれるまでここを調査しましょう」

「どのように調査をすれば?」

「特に本の中身が怪しいですわ。気になるものがあったら、念入りに調査を行う必要がありますわ」

「……そうですか」


 それ以上、ノワールは何も言わなかった。

 正しい判断である。


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