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第7話 悪逆令嬢、噂される

     ×××


 イザベラは王子との賭けに勝利した。

 その勝利は、主に王子の思い込みによるものだ。

 だが、イザベラは自らのセクシーな魅力が伝わったのだと思っていた。

 あまりに無謀な勘違いである。


「(どうです、かーくん。王子も私の魅力にメロメロですわよ)」

『(あー、はいはい。そうですね)』


 カーミギーの返事には、諦めと憐れみが混ざっていた。

 そこでイザベラは気づく。

 この行動は、カーミギーにとって想定外のものだったらしい。

 だとしたら――。


「(もしかして、かーくんは別の方法を考えていましたの?)」

『(当然です。まだ分からないのですか?)』

「(……分かっていますわ)」

『(では、説明は必要ありませんね)』

「(念のため言っていただけます? 合っているかどうか確認して差し上げますわ)」

『(貴女、王子にそっくりですね)』

「(あら、褒めても何も出ませんわよ)」

『(褒めてませんが!?)』

「(不敬ですわよ?)」

『(どの口が……いえ、もういいです。話を戻しましょう。王子の話では、このエリアでは、神聖魔法以外のあらゆる魔法が使えなくなっているそうですね)』

「(ええ、そうですわね)」

『(ところで、逆行前の暗殺者はどうやって王子を襲ったのですか?)』

「(そりゃあ、暗黒魔法で……)」

『(おかしいですよね? そもそも、ボクの意識もイザベラの暗黒魔力を消費して維持されているものです)』

「(あ……)」

『(気づいていなかったのですね?)』

「(そ、そんなことはありませんわ。今のはかーくんを試しただけですわ。この部屋の魔法阻害が作動していないことなど、最初から気づいていましたわ!)」


 勿論嘘であるのだが――。

 カーミギーの話を聞いた彼女は『別の方法』について理解した。


 それは非常に単純で簡単なことだった。

 奇行に頼らずとも、実証可能だったのだ。


 イザベラは魔力を解放し、軽い魔法を指先に生み出した。

 それを見た兵士たちは、一斉に彼女に向かって刃を向けた。


「待て!」


 それをリオンが止めた。

 彼は椅子から立ち上がると、イザベラの前まで歩いてきた。

 そして、イザベラの指先にある魔法を観察する。


「成程。確かに、警備体制に不備があったようだ」


 リオンは側に控えていたザイムスに告げる。


「警備責任者を拘束しろ。それと、警備体制の見直しを行う。近衛兵を集めろ」

「畏まりました」


 ザイムスは謁見の間を出てどこかに走っていった。

 リオンはイザベラに声をかける。


「イザベラ。君には感謝をしなければいけないらしい」

「それほどのことでも――ありますわ!」


 イザベラはどや顔を浮かべた。

 謙虚な姿勢はここで限界を迎えていた。


     ×××


 イザベラとの会合を終えたリオンは、一旦私室に戻った。

 少しすると、ザイムスが彼の下を訪れる。


「王子、申し訳ありませんでした」

「警備責任者はどうした?」

「逃亡を図りましたが、身柄を確保しました。これから取り調べを行います」

「徹底的にやれ」


 リオンは事務的な言葉を放った。

 だが、その言葉には微妙な揺らぎがあった。

 ザイムスが見ると、リオンの口端が少し上がっていた。


「王子、何か面白いことでもありましたか?」

「思わぬ収穫があった」

「イザベラ様のことですね」

「ああ、そうだ。アホのように見えるが、思慮深さがうかがえる」


 勘違いである。

 これまで、リオンは数々の思惑を見抜いてきた。

 それは、彼らに『利益を得る』という共通した目的が存在したからである。

 彼らは王族を利用して自らの利益を確保しようとしていた。


 だが、イザベラは違う。

 彼女は保身を望んでいるだけだ。

 地位とか名誉とかいう面倒くさいものは、自らお断りしたいくらいだ。


 それは、王子にとって未知の生物に近い。

 そんな珍種に対し、王子はこれまでの経験則を当てはめてしまった。


「あの『悩殺ポーズ』を見たか?」

「はい。最初は子供の冗談だと思っていました」

「だが、そうではなかった。仮にも公爵家の令嬢だ。あのような屈辱的な行動を自ら行ったのには、深い意図があったのだ」


 そんなものはない。あるはずがない。

 だが、リオンの勘違いは止まらない。

 それどころか、凄まじい勢いで加速していった。


「どのような意図があったと?」

「あの時点で、俺はイザベラの要求を受け入れることを真剣に検討していた。警備体制の確認は入念に行うべきだ。だが、俺にも立場がある。そう易々と意見を変えるわけには行かない。だから、イザベラはあえて道化を演じたのだ」


 天然ものである。


「道化ですか?」

「その行動を受けて、俺は彼女の要求を受け入れた。『笑い死』というお題目を利用することで、俺は『器の大きさ』を周囲に示すことが出来た。少なくとも、そういう建前を作り出すことは出来た」

「それを狙ってやったと?」

「イザベラ・ド・ノクスレイン。思った以上に面白い女だ」


 リオンはそう言って笑った。

 もう一度指摘しておくが、誤解である。

 そんな彼に対し、ザイムスは言葉をかける。


「王子。一つだけ、忠告しておくべきことがございます」

「何だ?」

「『面白い女』というのは、恋愛フラグです」

「何だそれは!?」

「異国の言葉のようですが――とにかく、お気を付けください」

「気を付ける必要はないように思うが」

「そうでしょうか?」

「そうだ」


 フラグである。


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