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第4話 悪逆令嬢、噂される③

     ×××


 イザベラが教会を訪問した日の翌日――。

 リリアナは外出許可を得て、マクベス家を訪ねていた。

 普段ならば、それほど簡単に外出許可は出ない。

 だが、イザベラが教会に来るという異常事態が起きていた。


「イザベラ様の真意を確かめたいのです」


 その言葉を聞いた教会側は、外出許可をあっさりと出したのだ。

 彼女はマクベス夫妻に挨拶をした後、アレクセイに会った。

 その目的はというと――。


「実は、昨日のイザベラ様のことで相談がありまして」


 これである。

 イザベラが教会に来るということ自体が異常なことなのだ。

 その異常なイベントに、当事者として巻き込まれてしまった。

 どう対応すればいいのか相談をしたかったのだ。

 その相談相手として最も信頼できるのが、アレクセイだった。


「あの方は、一体何を考えていらっしゃるのでしょうか? 私と仲良くなりたいようなことをおっしゃっていましたが、どう考えても嘘か冗談としか思えません。一体、何を企んでいるというのでしょう」

「企んでいるって……」


 アレクセイは、少しだけ呆れたように笑う。


「アレクセイ様はおかしいとは思われないのですか? 自分是自分を殴るという奇行もありました。私には、イザベラ様が何を考えているのか全く分からないのです」

「そうだね」


 アレクセイは優しい口調で答える。


「イザベラ様の奇行に関しては、僕もよく分からない。でも、あの人は悪い人じゃないよ」

「悪い人じゃない? 本当ですか?」

「魔法を封印することをためらわなかったのも、リリアナといい関係を作りたいだけだろうし。それに……イザベラ様には、助けてもらったんだ」

「え?」

「僕は隠れて絵を描いていた。そのことをイザベラ様は知って、激励してくれた。リスクを負ってまで、両親の説得もしてくれた。あの方の真心は本物だよ」


 それに関しては、事実である。

 イザベラはアレクセイのことだけは大切にしている。

 だから、彼のために発した言葉は、全て真摯なものであった。

 それがアレクセイの誤解を加速させる。


「イザベラ様は、暗黒魔法のことを不安だと仰ったんだよね?」

「はい」

「自分の弱いところを話すというのは、とても勇気のいることだ」

「勇気?」


 リリアナには、思い当たることがあった。

 自分の弱いところは、人に見せたくない。

 それを自分から話すことには、強い抵抗を覚える。

 公爵家令嬢ともなれば、なおさらだろう。


「それでも、リリアナには打ち明けてくださった。それは、リリアナを信用してくれていたからなのか――。あるいは、本当に切実なのか。どちらにせよ、そんな人に手を差し伸べるのが聖女の役割なのだと思うよ」


 諭すように言うアレクセイ。

 全て誤解である。

 誤解と過大評価で出来たスカスカの土台。

 その上に来上がった虚像が、アレクセイの判断力を鈍らせていた。

 だが――。


「そう……かもしれませんね」


 リリアナはその言葉に感動していた。

 心のどこかにあったもやもやした感情の正体が、ようやく分かった気がした。

 等しく人を助けるという使命を持った聖女。

 その聖女が暗黒魔法を使える人間を差別している現実に彼女は納得していなかった。

 だけど、教会の上の人々が、それを許容し助長する雰囲気を作り出していた。

 真面目な性格のリリアナは、そういうものだと思い込んでいたのだが――。


(いつでも教会が正しいとは限らない)


 それも分かっているはずだった。

 何でもうのみにしはいけないことも分かっていた。

 でも、イザベラを前にしたら、そんな考えは消え去ってしまっていた。

 敵意と悪意を向けてしまっていた。


(もしかして、私はとんでもないことをしてしまったのでは……)


 そう考え、リリアナは反省した。


「アレクセイ様。もう一度、イザベラ様とお話しさせていただけないでしょうか?」

「勿論だよ。イザベラ様もそれを望んでいるから」

「イザベラ様が?」


 あれ程酷い態度を取ったのに。

 まだ自分と対話をする気でいてくれているのだ。

 リリアナは器の違いを感じた。

 実際のイザベラの器は矮小と言って差し支えないものなのだが。


「あの、それでは仲介の方をお願いしたいのですが」

「うん。構わないよ。イザベラ様は、リリアナを家に招きたがっていたから、その手配をしておくよ」


 アレクセイは嬉しそうに言った。

 その表情を見ながら、リリアナは微笑を浮かべた。


「アレクセイ様は、変わられましたね」

「そうかな?」


 アレクセイは照れ臭そうに答えた。

 だが、確かにアレクセイは変わっていた。


 後から聞いた話だが――。

 彼は、教会でイザベラへの丁寧な対応を求めていたらしい。


 それを聞いたリリアナは、信じられない気持ちでいっぱいだった。

 これまで、アレクセイは大人しくて主張をすることがなかった。

 婚約者のために他人を注意するなんてことが出来るとは思わなかった。


「はい。なんだか、とても逞しくなられた気がします。もしかして、イザベラ様の影響でしょうか?」

「うん、そうだと思うよ」


 アレクセイは素直に認めた。

 それを見たリリアナは、ついに観念した。


(やっぱり、間違っていたのは私の方だった……)


 間違っていない。

 イザベラの本性は変わっていないのだが――。

 それに気づくには、リリアナもアレクセイも人が良すぎた。

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