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第2話 悪逆令嬢、フラッシュバックする

     ×××


 イザベラはアレクセイと一緒に中央教会へと向かった。


 他の貴族の家がそうであるように、ノクスレイン家もアイン教を信仰している。

 ただ、それは建前だけであり、教会に行く機会も必要最小限に留められていた。


 その一番の原因は、ノクスレイン家の魔法属性にある。

 彼らの魔法属性は、一人の例外もなく『暗黒』である。

 そして、アイン教では、暗黒魔法の素養は悪しき人間に宿るとされている。

 そのため、暗黒魔法の使い手である彼女は歓迎されていなかった。


 もっとも――。

 彼女個人については、他にも歓迎されない理由はある。

 個々を挙げていくときりがないほどだ。

 とにかく、イザベラは教会で忌避されていた。

 その結果、自然に足は遠のき、信仰心もなくなっていた。


「教会に自ら足を運ぶなんて、おかしなこともあるものですわね」


 イザベラは面白そうに言う。

 普段は足を踏み入れたくもない場所だったが、今回はアレクセイが一緒だ。

 どこに行ったとしても、上機嫌のままだっただろう。

 それに――。


(結婚式の予行気分で悪くありませんわ)


 そんな可愛らしいことを考えていた。

 アレクセイと一緒の時だけは、悪逆さが完全に引っ込む。

 他方で、教会関係者はイザベラの出現に騒然としていた。


「イザベラ様が来られたぞ!」

「これは災いの前兆か!?」

「神の奇跡だ! 神がイザベラ様をいざなったのだ!」

「いいや、悪魔の仕業に違いない! イザベラ様は教会を潰すつもりなのだ!」


 公爵令嬢に対して、この言い様である。

 その様子に、さすがのアレクセイも驚いていたようだった。

 マクベス家は、教会にも熱心に通っており、教会関係者との関係も良好だ。

 教会関係者がこのような反応を示すのを初めて見たらしい。

 動揺するのも当然だ。

 だが――。


「彼女はイザベラ・ド・ノクスレイン! 僕の婚約者です! そのような対応は止めていただきたい!」


 アレクセイは堂々とそう言った。

 温厚であり、教会にも従順で会った彼の反抗は、教会関係者を沈黙させた。

 場の空気が静まり返り、厳粛な雰囲気が取り戻される。

 教会の人間たちは、各々自らの仕事に戻っていった。


 そんな中――。

 イザベラは顔を真っ赤にして、口元が緩むのを我慢していた。

 愛しのアレクセイに婚約者として庇ってもらえたのだ。

 まさに天にも昇るような気持ちになっていた。


(教会の皆様、グッジョブですわ!)


 こんなことなら、また罵倒してほしい。

 そして、アレクセイに庇われたい。

 そんな倒錯したことをイザベラは考えていた。


「あの、イザベラ様。大丈夫ですか?」

「ふひひ……」

「イザベラ様?」

「おっと――。勿論、大丈夫ですわ。貴方がかばってくれましたから」

「大したことはしていません」

「いいえ、感謝しますわ。それと、アレクセイ。その『様』というのは、他人行儀が過ぎるのではないでしょうか? 私たちは婚約者ですのよ?」

「しかし、一応身分の差というものが――」

「私達はいずれ結婚するんですのよ?」

「しかし――」

「何ですの?」

「恥ずかしいです」


 赤面しながら答えるアレクセイ。

 そんな彼に、イザベラは腰砕けになった。

 恥じ入るその姿に、涎が出そうだった。


「では、二人だけの時にはイザベラとお呼びくださいません?」

「……はい」


 赤面しながら答えるアレクセイ。

 それを見たイザベラは、全身全霊で幸せを感じていた。

 脳内はアレクセイでいっぱいになり、抱きしめたい衝動に駆られていた。

 そんなイザベラの下に、一人の修道女がやってきた。


「イザベラ様、アレクセイ様。ようこそいらっしゃいました」

「はひ?」


 声を掛けられ、イザベラは少しだけ正気を取り戻した。

 とは言っても、まともな状態とはいいがたいが。

 そんなイザベラをよそに、アレクセイが修道女の対応をする。


「お久しぶりです。あの、リリアナと会うことは出来るでしょうか?」

「ええ、勿論です。少々お待ちください」


 修道女はそう言って、どこかへ行った。


「アレクセイは随分と歓迎されているようですわね」

「僕はよくここに来ますから」

「そうなんですの?」

「リリアナの様子を見に来るのです。両親もリリアナのことを心配していますが、マクベス家の当主が出向くとなると、教会側も対応が大変なようでして。ですから、僕が代わりに来て、リリアナの様子を伝えているのです」

「そ、そうなんですの」


 リリアナのために教会に出向く優しい性格。

 それは大変好ましいものなのだが――イザベラの笑顔は引きつっていた。


(つまり、婚約者のいる身ながら、別の女のところに足しげく通っているということですわよね)


 乙女心ゆえの穿った見方である。

 恋心に目覚めたイザベラの独占欲はすさまじいものだった。


(アレクセイに近寄る悪い虫は、軒並み駆除しなければなりませんわね)


 そんな嫉妬心を抱いていると、一人の少女がやってきた。

 素朴ながら可愛らしい顔つきをしている赤毛の少女だ。

 年齢はイザベラと同じ十三歳。


 彼女は少し怯えたように、イザベラのことを見ている。

 そのイザベラであるが――リリアナの視線を受け、固まっていた。


 心構えは出来ていたはずだった。

 だが、それでも根源的な恐怖を彼女に対して感じてしまった。

 イザベラの脳裏では、あの時の恐怖がフラッシュバックしていた。


     ×××


 逆行前――。

 イザベラは王城で王子に面会していた。

 そこで揉めに揉め、イザベラは別室に待機させられていた。

 それは、待機というよりは軟禁状態に近いものだった。

 イザベラは憤慨しながら、部屋の中を歩き回っていた。


 そんな中――。

 王城は、突如として暗黒魔法による攻撃を受けた。

 暗黒魔法が城を包み込み、城内が混沌の渦に落とされた。


 指揮系統は乱れ、同士討ちが行われ、正気を保てた者は少ない。

 その異変に気付いたイザベラは、別室を出て謁見の間に行った。


 そこでイザベラが見たのは、阿鼻叫喚の地獄絵図だった。


 苦しむ王城関係者たち。

 暗黒魔法の攻撃を受けて撃沈する兵士たち。


 そんな中、ただ一人、イザベラだけが平然と立っていた。

 暗黒魔法の素養がある彼女には、暗黒魔法への高い抵抗力があった。

 それは当然のことなのだが――この状況下では、異様に映った。


「そ、そいつが犯人だ!」


 誰のものかも分からない声が、そう告げた。

 すると、かろうじて動くことが出来る兵士たちが、イザベラに近寄ってきた。

 彼女を取り押さえれば、この攻撃も止む――そう思ったのだろう。


 この襲撃に彼女は無関係だ。

 だから、彼女を抑えても何も変わらない。

 そのはずだったのだが――。

 そのタイミングで、何者かによる攻撃は止まった。

 まるで見計らったかのような、完璧なタイミングだった。


 すると、兵士たちがイザベラの腕を掴み、身体を拘束した。


 それに驚いたイザベラは、混乱した。

 そして、暗黒魔法の制御に失敗し、暴走させた。

 魔力が体内からあふれ出て、取り押さえる兵士たちを吹き飛ばした。


 意識してやったわけではない。

 だが、ここまでやってしまった以上、留まり続けるわけには行かない。

 イザベラはその場を立ち去ろうとした。

 今度は暗黒魔法を意識的に使い、全力で逃走しようとした。


 だが――。

 そこにイザベラの天敵――リリアナが現れてしまった。

 リリアナが見たものは、暗黒魔法によって苦しむ兵士たち。

 そして、彼らの中で暗黒魔法を使って拘束を解いたばかりのイザベラ。

 イザベラが犯人だと考えるのは当然である。


 リリアナはその場で神聖魔法の『枷』を破壊した。

 彼女は、膨大な魔力量に物を言わせた強力な神聖魔法を使えるようになった。

 このタイミングの良さこそが聖女を聖女たらしめるのである。


 イザベラの暗黒魔法は彼女の前では意味を失った。

 そして、フィジカルはリリアナの方が強かった。

 圧倒的に。


 リリアナは容赦なく『聖なる拳』を振るった。

 何度も何度も、イザベラが泣きわめいても殴りつけた。

 まさに『白い悪魔』とでも言うべき存在。

 その時の恐怖は、イザベラの脳裏に深く刻まれたのである。


 そして今――。

 その聖なる悪魔が、イザベラの目の前に現れた。

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