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戦国M&A ~織田信長を救い、日本という国を丸ごと買収(マネジメント)する男~  作者: 九条ケイ・ブラックウェル
第一章:日本統合編
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第七話:清洲会議

山崎の戦勝報告が日ノ本を駆け巡り、羽柴秀吉の名は、主君の仇を討った忠臣として、かつてないほどの輝きを放っていた。だが、仁斎の思考に、勝利の余韻に浸る時間など一秒たりとも存在しない。


『クーデターを起こした旧経営陣の排除は終わった。だが、ディールは序章に過ぎない。織田家という巨大企業に、正式な取締役会(Board of Directors)は存在しない。つまり、これから開かれるのは、会社の所有権そのものを決する――**臨時株主総会(Extraordinary Shareholders’ Meeting)**だ』


尾張国、清洲城。

城内の一室で、仁斎は最終確認を行っていた。目の前には、羽柴秀吉と黒田官兵衛。仁斎が徹夜で作り上げた**『IR Deck(株主向け説明資料)』**が、彼らの理解度を深めている。


「これが、本日の進行計画にございます」

仁斎は、議題の流れを記した書面を指し示した。

「まず、柴田様が、織田信孝様を推挙されるでしょう。これに対し、我らは、正々堂々、『血筋こそが、家の道理』と唱え、三法師様を推すのです。そうなれば、話は、必ずや、行き詰まりましょう。その潮時を見計らい、丹羽様あたりが、『信孝様と三法師様を、両名共に立てては』と、間を取り持つ案を出されるはず。その、一見、もっともらしい案すらも退け、我らが推す三法師様に、全てを決するための仕掛け。それこそが、此度の、策の肝要にございます」


城の広間に、織田家の「大株主」たちが集結していた。仁斎の脳内スクリーンには、彼らの議決権シェアが冷徹に映し出されている。


【臨時株主総会 議決権比率(概算)】

柴田 勝家: 30% (筆頭宿老)

丹羽 長秀: 20% (織田家重鎮)

池田 恒興: 15% (信長乳兄弟)

羽柴 秀吉: 10% (山崎の戦功)

その他(織田一門等): 25%

『勝家派が30%。こちらが10%。丹羽・池田の計35%がスイング・ボーダー。いかに彼らをこちらに取り込むか…』


会議の空気は、柴田勝家の荒い息遣い一つで張り詰めていた。彼は、額に汗を滲ませながら口火を切った。

「亡き上様の後継は、聡明にして武勇にも優れた、織田信孝様を立てるのが、織田家の安泰に繋がるかと存ずる!」

『来たな。信孝を傀儡CEOに立て、自らが後見人として実権を握る、典型的な権力掌握術だ』


秀吉が、仁斎の計画通り、悲痛な表情で反論する。

「柴田殿のお言葉、ごもっとも。なれど、嫡流であられた信忠様の跡目を継ぐべきは、そのご嫡男・三法師様をおいて他にありましょうか。血の正統こそ、織田家の根幹!」


案の定、議論は「家の安泰」か「血の正統か」という二元論に陥り、平行線を辿る。

その時、沈黙していた丹羽長秀が、汗を拭いながら重々しく口を開いた。

「…双方の言い分、よく分かる。ならば、信孝様と三法師様を共に立て、我ら宿老が合議で支えるという形はいかがか」

『共同経営体(Co-CEO)案。最も無難な妥協点。だが、これでは柴田の影響力を削げない。ここが、仕掛けどきだ』


仁斎の合図を待たずして、秀吉が動いた。この天才的役者は、最高のタイミングで脚本のクライマックスを演じ始めた。

秀吉はやおら立ち上がると、広間の襖を開け放った。

そこにいたのは、乳母に抱かれた、幼い赤子――三法師、その人だった。

秀吉は、その赤子を恭しく抱き取ると、会議の席の中央に進み出た。そして、涙ながらに、三法師を高く掲げてみせた。

「皆様方! このお方こそ、上様と信忠様の血を継ぐ、唯一の正統! このお方を蔑ろにして、誰を織田家の主君と仰ぐのでございますか!」


その光景は、もはや理屈ではなかった。

亡き主君の面影を宿す幼子。その存在は、絶対的な「正義」として、その場の空気を支配した。

仁斎の脳内スクリーンが、スイング・ボーダーたちの数値を更新する。


【対象:丹羽 長秀】

**ステータス:**中立 → 羽柴秀吉への支持に傾斜(80%)


【対象:池田 恒興】

**ステータス:**日和見 → 羽柴秀吉への支持に傾斜(85%)


『落ちたな』

仁斎の読み通り、丹羽、池田の両名が、次々と秀吉への支持を表明した。議決権は、秀吉派が【45%】となり、勝家派の【30%】を圧倒。残りの者たちも、長いものに巻かれるように雪崩を打った。

勝家は、顔を憤怒に歪ませ、唇を噛むしかなかった。


結果、清洲会議は、仁斎の描いたシナリオ通りに幕を閉じた。

織田家の後継者は、三法師。

『名目上の幼児CEOを立て、その権限は**後見評議会(Regency Board)**に議決権信託。評議会の筆頭に秀吉が就く。これで、実質的な経営権は我々の手に渡った』

そして、山崎の戦功として、秀吉は大幅な領地増を獲得した。


会議を終え、城の廊下を憤怒の形相で去っていく柴田勝家を、仁斎は冷ややかに見送っていた。

彼の【査定】スクリーンが、勝家の新たなステータスを映し出す。


【対象:柴田 勝家】

負債・リスク(Liabilities & Risks):

対秀吉(新経営体制)への敵対リスク:90%


『株主総会は終わった。だが、反対派大株主(柴田勝家)の排除は避けられない。次のディールは、旧取締役会の解体だ』


仁斎の視線は、すでに次なる戦場――賤ヶ岳へと向いていた。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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