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戦国M&A ~織田信長を救い、日本という国を丸ごと買収(マネジメント)する男~  作者: 九条ケイ・ブラックウェル
第二章:世界展開編
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第四十四話:マニラ陥落

水平線の向こうに突如として出現した日本の大艦隊。

そのあまりに異質な光景に、マニラ港を守るスペイン兵たちは一瞬思考を停止させた。

そして彼らが我に返り狼狽した次の瞬間、日本の旗艦「安土」の側面から、凄まじい轟音と共に複数の黒い点が放たれた。


それは彼らの知るいかなる大砲とも軌道が違った。

山なりに放物線を描いた砲弾は、マニラの石造りの堅牢な城壁の遥か上空を飛び越え、その内側へと吸い込まれていく。

そして、炸裂した。

凄まじい爆音と衝撃波が、城壁の内側から堅固な石の構造を破壊する。

「妖術だ!」

「石の壁が内から爆ぜるなど、人の為せる業ではない!」

スペイン兵たちは生まれて初めて体験する理解不能な恐怖に叫び声を上げた。

信長の「影の研究所」が生み出した炸裂弾。それはこの時代の城という概念そのものを、過去の遺物へと変える圧倒的な技術的優位性だった。


『圧倒的な技術的優位性。これこそが新規参入者が既存の市場マーケットを破壊するための、最も有効な手段だ』

仁斎は遠眼鏡でその成果を冷静に確認していた。


「――かかれ!」

海上からの完璧な援護射撃の下、総司令官・島津義弘の獰猛な号令が響き渡った。

上陸用の子舟が波を切り裂き、マニラの浜辺へと殺到する。

先頭の船から飛び出した島津の兵たちは、まさに鬼神のごとき勢いで、混乱するスペイン兵の陣地へと突撃した。

マニラの守備隊は、本国から派遣された少数の正規兵と、現地で雇われたフィリピン人傭兵の混成部隊だった。彼らは石造りの城壁を頼りに必死の抵抗を試みたが、頭上から降り注ぐ炸裂弾に混乱し、統制を失っていった。

島津の兵たちは、その混乱に乗じて一気に城門へと殺到し、散発的な抵抗を圧倒的な数と勢いで蹂躙していく。

守備隊の大半を占める現地傭兵たちは、故郷を守るためではなく金で雇われた身。圧倒的な敵を前に、次々と武器を捨てて逃走した。


戦闘はもはや一方的な蹂躙だった。

半日でマニラの市街は完全に制圧された。

スペイン総督は、その宮殿で降伏文書に震える手で署名をした。


捕虜となったスペイン人の士官は後にこう証言している。

「我々は本国に増援を要請していた。だが、反乱諸州オランダの反乱鎮圧に忙しい母国が、この東の果ての小さな交易拠点に、貴重なテルシオを送ることはなかった。我々は商人と宣教師、そして現地で集めた傭兵だけで、あの悪魔のような軍団と戦わねばならなかったのだ」


しかし仁斎の本当の恐ろしさはここからだった。

「一切の略奪を禁ずる! 違反した者は理由の如何を問わず斬り捨てる!」

島津義弘が仁斎の命令を忠実に実行し、占領下のマニラに厳格な軍律を敷いた。

そして兵士たちと入れ替わるように上陸してきたのは、石田三成が率いる小柄な男たちだった。

彼らは甲冑ではなく動きやすい簡素な着流しに、腰に算盤と帳面を差している。豊臣政権の中核をなす文官テクノクラートたちだ。

彼らは戦闘の喧騒などまるで意に介さぬ様子で、港の税関、商館、そして教会の全ての資産と文書を、驚くべき速さと正確さで接収し、その目録を作成していく。

それは野蛮な侵略ではなく、企業の資産を保全するための、極めて整然とした買収アクイジションプロセスだった。

捕虜となったスペイン人の士官は、そのあまりに異様な光景をただ呆然と眺めているしかなかった。

(我々は…蛮族に敗れたのではない。我々は…何かの巨大な商会に、買収されたのだ…)


マニラ総督の執務室。

仁斎は主のいなくなったその椅子に静かに腰を下ろし、接収したばかりの貿易台帳を検分していた。

そこへ、影の部隊長・桔梗が、音もなく、現れた。

「宰相様。報告。新大陸よりイスパニアの宝物船一隻、予定通りこの海域へ向かっております」

その報告に、同席していた島津義弘が獰猛な笑みを浮かべた。

「ほう、獲物が自ら罠にかかりに来よったか」

全ての視線が仁斎へと集まる。

仁斎はゆっくりと顔を上げた。その瞳には何の感情も浮かんでいない。

彼はただ事実として、次のディールが始まったことを告げた。


「船を出せ。我々の新しい“料金所トールゲート”の、最初の客人を、お迎えするのだ」


『マニラ買収、完了。これより、この太平洋航路という巨大なキャッシュエンジンの、本格的な運用フェーズへと移行する』

日本の世界に対する、最初のそして最も鮮やかなM&Aが成功した瞬間だった。

最後までお読みいただきありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
支払いが鉄量で精算されたからM&Aにはなんだか違和感が。TOBの方が腑に落ちます。 M&Aの形態の一つだと言われればそうなのかもしれませんが。
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