ep.5辺境にて③
本日は2本立て
おかしい、見回りはまだのはず…
「とにかく隠れねぇとなぁ。」
現在いるのは食堂。隠れれる場所といえば…
「シンクの下の引き出しぐらいか…?」
ここなら十分な大きさがあるし、確認されることはないだろう。
「申し訳ないけど隠れさせてもらおう。」
開く時に軋む音がしてびっくりしたが、幸いそんなに響いていないらしくてよかった。
「とりあえず、じっとしてるか…」
3分後
「外は今どうなっているんだ?モモは無事か?」
正直まだ3分しか経っていないのに15分ぐらい経った気分だ。
「せめて、モモの状況でもわかったらなぁ」
と思った瞬間
「うお!」
脳内にたくさんのデータが流れ込んでくる。
「これは…モモの視点?」
今起こっていることが何かわからず混乱していると、目の前にとてつもなく大きな口を持った化け物が目に映った。モモがスライムからか下から見ている構図になってしまうので、その巨体っぷりをより強く感じた。
「人間がここにいるらしいじゃねえか?ええ?」
「人間なんて知りません!第一私たちはちゃんと転移された囚人を殺しています!」
「そうです!私たちはちゃんと業務をこなしていますよ!」
「根拠がない話を持ってくるんじゃねぇ!」
「やかましい!お前らからなぁ、ふわふわした雰囲気を感じるんだよ!まずこの時点でいつもと違う!そしてなぁ、そこのピンクの穀潰し!お前の種族からも聞いてんだよ!てめらが毎日毎日人間に食べ物を分けているってな!」
「そうです!ベヒ・モース様!こいつ、いっつも人間と行動してるんです!」
「裏切り者に鉄槌を!」
「こいつを食い殺してください!」
「そんな…」
「前までは仲間だったから許してやってたけどよお、裏切りは許せねえよなぁ!」
「ひっ!」
「モモに触れるなぁッ!」
考えることもなく、体が動いていた。第6感がここで見殺しにするな、とそう言った気がしたのだ。
「し、ししょー!?なんでここに!?」
「大切な弟子がピンチな時に駆け付けない師匠なんてあるか!」
「ブン、ブンブンブ!」
馬鹿野郎、隠れてろって言っただろ、と言っているように聞こえた。たしかに馬鹿だ。でも、本当にダメな気がする。たとえここから逃げ出せてもダメな気がする。この後一生後悔する気がしたんだ。
「貴様が最近来た人間か?」
「そうとも、我が名はリグアル・テレス。リグアル家の長男である!」
まずは名乗りだ。名乗ることによって骨のあるやつだと認識させる。
「ほう、リグアルの子か。だが何故ここにいる?リグアルの子ならば今頃世継ぎの準備とかをしているだろうに」
「…」
「ほほう、なるほどなぁ。大方魔法の才能がなかったか、加護がゴミだったかだろう?いやぁあの家は厳しいからなぁ。哀れ哀れ。だが俺様は慈悲深くないからなぁ、ここを知ったからには死んでもらはねぇとなぁ。」
「…俺が死んだらモモ達は助かるのか?」
「ああ?なにバカのこと言ってんだよ!皆殺しだよ、皆殺し!俺に逆らう奴ぁ皆殺しだ!」
この世界に来て分かったことがある。クズというのはお金や種族によってできるのではない。根っからのクズだということを。そして、クズは救いようがないということを。
「なら勝負だ!ベヒ・モース!お前を俺が倒したらモモ達を解放しろ!俺がお前を倒せなかったら好きにすると良い!」
「俺になんの得がある?」
「得?何を言っている?喰らうことができるってことは勝てるんだろ?まさか怖いのか?」
「ほおう、弱小の落ちぶれた貴族のくせに言ってくれるな。ならお前の魂まで喰らい、永遠に暗闇に囚われ続けると良い!」
「交渉成立だな。」
「ししょー…」
「全員でかかってこい!なん人でも相手してくれる!」
そう言ってベヒ・モースは立ち去った。
「勝算はあるんですか…?」
「全員で協力すれば…ギリギリいけると思う。」
さっき見たベヒ・モースのステータス…
ベヒ・モース Lv236
体力15346/15346
攻撃1596
防御2007
魔力1799/1799
素早さ178
スキルポイント0
-スキル-
火魔法Ⅰ 水魔法Ⅰ 風魔法Ⅰ 土魔法Ⅰ 雷撃魔法ⅩⅩⅣ
-称号-
辺境の統制者 十六大厄災 賢者の帰還を待つ者
見た感じ毒耐性は持っていない。なら…
「アサシンビー、ベヒ・モースに毒針を刺せる?」
「ぷよ、ぷよよ。」
「ブン、ブンブン…」
「できないことはないけど、隙がない…と言ってます。」
「隙なら俺たちで作る。」
「ぷよ。」
「ブン…ブブンブン!」
「分かった、やってみる!って」
「ならあとは、コボルト。君たちは隙を見て攻撃を。」
「ぷよ、ぷよよ。ぷよぷよ。」
「ガウガウ!」
「分かった!って言ってますけど。ししょー、メインは誰が…」
「俺たちだ。」
「ええ!?わ、私たちですか!?」
「元はというと俺のせいだし、モモにはやって欲しいことがある。今のモモなら大丈夫だ。」
「で、でも私みんなの中でも一番レベル低いし…」
「モモ、レベルは関係ない。大事なのは戦術だ。その戦術にどうしてもモモが必要なんだ!」
「ど、どうしてもって言うならしょうがないですけど…」
「よし決まりだ。前線は俺が行こう。この戦い、耐久し切った方の勝ちだ。」
そうして俺たちは、ベヒ・モースのところまで向かった。