ep.10 南下政策①
現在、俺たちは辺境から南下していた。
「師匠、もうそろそろ夜ですね。」
「そうだな、ここらで野宿するか。」
辺境を出て、半日ぐらいが過ぎた。足場が非常に悪く、モモに靴をプレゼントして良かったと思う。
鍋を出し、モモに火魔法で火をつけてもらう。昼ごはんの時は危うく火加減を間違えて鍋を溶かしそうになったからか、火加減が丁度良い。尚溶けかけた鍋は、武器精錬で直した模様。ほんとに便利だなこのスキル。
「今日はカレーかな。」
こう言っているが実は素材的にカレー以外料理のレパートリーがないのだ。
「やったー!師匠のカレーなら1年中食べていられます!」
まぁ、モモが良いなら良いけどね。
カレーを作った後モモと一緒に食べるが、余分に作り過ぎてしまった。
「どうしよう…」
「私なら、もっと食べられますよ!」
モモがそういうなら…いや、待てよ。
「カレーは寝かせるほど美味い。」
「え?」
「つまり、カレーは1日置いておけばもっと美味しくなるってことだ!」
「おお!師匠!それじゃあ寝かせましょう!」
「よし、そうと決まれば【真空武具】!」
小さな穴を少し開けた感じの蓋を鍋につける。これでヨシ!
「朝ごはんはカレーで決まりですね!」
「だな!」
モモはどうやらカレーが好きになったらしい。
「さてと、そろそろ寝ますか。」
「見張り番、私がしましょうか?」
「ん?俺が別にするけど。」
「いや、私が。」
「いや、俺がするよ。」
この後5分ぐらいこれが続いた結果、交代でやることになった。それにしても…
「モモって、綺麗だよなぁ。」
横で寝ている姿を見ているとつい口から溢れてしまった。綺麗な桃色の長髪が月光を反射し綺麗に輝く。もうね、天の川ぐらい輝いてるんすわ。まさか元がスライムだなんて誰も思わないだろう。
「そう考えると、ずっと近くに人がいるっていうだけでも前世よりかは幸せだなぁ。」
そろそろ時間なのでモモを起こして、眠りについた。
翌朝、朝食にカレーを食べて出発した。朝食にカレーって思うけど、結構重いよね。
足場の悪い場所を抜けて、森の中を進んでいると…
「おいテメェら、こっからは俺たちアビューズヘッヂホッグのナワバリだぜ?」
魔物に絡まれました、はい。総勢20匹以上はいるな…群れか?今の俺は辺境の統制者の効果か、魔物ヲ統ベルモノの効果かは知らないが、魔物の話している言語を理解できるようになったし、言語を話せるようにもなった。ここは交渉に出てみよう。
「俺たちは辺境から来たんだが、生憎近くの村までの行き方を知らなくてな。通してくれないか?」
こんなところだろう。アビューズヘッヂホッグは相手が格下だと思った瞬間、全員で寄ってたかって襲ってくる。だからあえて敬語とかは使わない。
「テメェ、御頭になんて無礼な態度を…!ブチ殺してやる!」
あ、交渉決裂っすか…
「待て、コイツは俺様の言葉を理解し、使ってもみせた。相当な奴だぜこいつ。」
お?流れ変わったか?
「良いぜ人族。通っても良い。」
「ありがてぇ、それしか言葉が見当たらない。」
「ただし、」
「ただし?」
「この俺様を倒してからなァァァァァ!」
結局こうなんすよね〜。とりあえず鑑定。
アビューズヘッヂホッグLV70
…あれ?弱くね?
「オラっ!」
動きも遅いし…それにしてもこいつ1匹だけで他は見守ってるな。なんでだ?
「御頭が自ら手を下しに行ったぞ!俺たちが行っても邪魔になるだけだ!」
「さっすが御頭!あの人族も防戦一方だぜ!」
うーん、バカw!
アビューズヘッヂホッグの恐ろしいところは針でも爪でもなく、集団戦闘を仕掛けてくる点。王国騎士団でも少し苦戦するぐらいには強い。だが個々としての戦闘力はヒジョーに弱い。つまりあいつらは邪魔になるだけだとか言っているがむしろ逆、集団でやらないとあいつらは負ける。
「この程度か?」
「へっ、防戦一方のクセによく言うぜ!」
あともう一つわかったこと
こいつらすぐ調子乗る。生存本能薄いんすかね…
「…試し斬りするかぁ」
鞘がないから腰に巻きつけている無銘を抜く。
「うーん、とりあえず【ケンドウ-ツキ-】」
ドスッ
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
アビューズヘッヂホッグがこう叫び出した瞬間、アビューズヘッヂホッグの体がミイラのように干からび始める。
「お、御頭ぁ!」
どうやら魔物は体内から魔力を吸われると干からびちゃうらしい。残ったバチクソグロいアビューズヘッヂホッグだったモノを見て魔物相手にこの刀は基本使わないことを心に刻んだ。
「これじゃあ試し斬りじゃなくて試し突きだよ…」