ep.9 旅立ちの日に
「うーん、行き詰まってるなぁ。」
2週間前、食事情革命を完遂した俺だったが、その後順調に建築物の強度の上昇、衛生環境整備、用水路の建設などと、改革していったのだが…
「素材が足らないなぁ。」
そう、素材が足りない。
ここは辺境。辺境であるが故に食物の種類も少ないし、建材、文化もない。現に料理大臣も米や小麦がないため、活動が停止している。あとは、俺たちは外の世界が現在どうなっているのかも全くわかっていない。だからこそ、
「そろそろ、外に出てみるべきなんだろうなぁ。」
何より、そろそろ人間に会いたい。いやモモも人間ではあるのだが、なんというかこう…純粋な人間に会ってみたい。そうと決まれば…
「モモ、装備を整えよう。」
「まあ良いですけど、どこで武器とか調達するんですか?」
「死刑囚の持ってた武器とかは…?」
転移刑は転移される前に武器をもらうはず。それがあれば良いんだけど。
「倉庫にならあるかもしれません!」
「よし、連れて行ってくれ!」
数分くらい歩くと小さめの倉庫にたどり着いた。
「…全然武器ないな。」
あったのはナイフ一本だけ。
「ベヒ・モース様が食べてましたからね、しょうがないです。」
おのれベヒ・モース。何かの因果でまた会ったら毒漬けにして殺してやる!
「仕方ない、とりあえずこれにしよう。」
「でも師匠、ずいぶんくたびれてますよ?」
「任せろ!【武器精錬Ⅰ】!」
「ナイフの刃こぼれが治った!?しかもめちゃくちゃ切れ味良くなってますよ!」
「よし、じゃあ次はエンチャントだ。」
スキル説明には、属性付与や、性質付与ができるって書いてあったな…じゃあ
「モモ、このナイフに隠蔽と認識阻害をつけてくれないか?」
「え?良いですけどそれだと1分で解けますよ?」
「全然良い!頼む!」
スキルによる隠蔽や認識阻害は効果時間は1分。スキル説明でそれは読んだ。ならエンチャントするとどうなるのか?やってみるしかないじゃん。
「【隠蔽】【認識阻害】!」
「【エンチャント】!」
さて結果は!?
「よし、成功だ!」
精錬されたナイフ
性質
【隠蔽】【認識阻害】
状態
【精錬】【隠蔽】【認識阻害】
現在状態にも二つのスキル名があるがこれは…
精錬されたナイフ
性質
【隠蔽】【認識阻害】
状態
【精錬】
1分後に解除されるよな。それに比べて、性質の方は消えそうにない、エンチャントすると、剥がれないと思えば良いだろう。
でも、隠蔽と認識阻害使ってるのに透明とかになんないし不良品だなこりゃ。
他には…試しに軽技つけてみるか。
「【軽技】【エンチャント】」
精錬されたナイフ
性質
【隠蔽】【認識阻害】【軽技】
状態
【精錬】
「特に変わったところは…いや、確かに軽くなってるな。」
他には何か…そういえば物質もつけれるって書いてたな。
「…きのみはどうなるんだ?」
攻撃の実をつけたらどうなるんだろう。
「とりあえず【エンチャント】」
精錬されたナイフ
性質
【隠蔽】【認識阻害】【軽技】【攻撃力+5】
状態
【精錬】
ステータスよりも数値が上昇してる!?なら…
「【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】!」
これだけつければ…!
『これ以上エンチャントできません』
くっそ、ちゃんと制限はあるのか。じゃあどうなったんだ?
伝説級のナイフ
性質
【隠蔽】【認識阻害】【軽技】【攻撃力+50】
状態
【精錬】【宝具】
なんか、宝具になってる…でもあんまり俺はナイフ使わないし、これはどうしたもんかねぇ。
「モモ。」
「はい、どうしました師匠?次は忍術を付与するんですか?」
「いや、そういうのじゃなくて…」
不良品を押し付けるみたいで申し訳ないが…仕方ない。
「これは、モモにあげるよ。」
軽技と攻撃力+50ついてるしまぁ、ないよりはマシって感じの一品かな。
「え、良いですか?」
「うん。あと、」
いくら不死身でも痛みは一応感じるらしい。モモの現在の服装はノースリーブとロングスカート、靴は履いていない。これから冒険に出るのなら靴は必要だろう。
「【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】」
靴
性質
【素早さ+100】
「これを履いときな。」
「え、靴…ですか?」
「岩場を通ったりするか盛りれないからな、痛かったら困るだろう?」
「でも、私はダメージ受けませんし…」
「だったとしても、だ。貰ってくれないか?」
ダメージを受けなくても痛い、逆に言えば即死級の技でも死なないんだから余計に苦痛だろう。今までもそうやって辛い思いをしてきたということが指南の効果なのか、モモからヒシヒシと伝わってくる。
「ありがとう、ございます。でもだったら師匠はどうするんですか?」
「俺は今履いてるから大丈夫だろ?」
「そうじゃなくて、武器の話です。」
「…あ。」
すっかり忘れていた。もう倉庫には武器が置いてない。
「…俺は素手で戦うさ。」
「でも辺境の外にはアビューズヘッヂホッグがいるって言ってましたよ?針が鋭くて、素手なら死亡回避不可避です。」
詰んだ…
「…モモさんや、そのナイフ、わしに返してくれんかのぉ?」
「残念な話があります。盟具設定しちゃいました。」
盟具とは、盟友に武具を掛け合わせた言葉である。盟具設定すると生涯を共にする武具となり、その武具のステータスが上昇する。さらに壊れなくなるとかいう素晴らしいおまけ付き!ただし、他人への譲渡はできなくなってしまうのだ!
つまり、リグアルテレス(旧 田中史郎)は詰んだ。
「終わった…俺の人生二周目、追放されてなんかクソでかい魔族倒して、チートスペックになって終了…」
「まぁまぁ、落ち着いて、これで良ければ使ってください。」
手渡されたのは、少し立派な剣だった。
「…これは?」
「前に、私の家に飾ってたやつです。家が燃えた時、それだけは残ったんですよねぇ。」
「…【鑑定】」
伝説級のロングソード
「伝説級!?」
所々刃こぼれしているが、精錬すれば使えるだろう。
「【精錬Ⅰ】!」
それにしてもロングソードかぁ、できたら刀が良かったなぁ。
「し、師匠。形変わりましたけど、これも精錬の効果なんですか?」
「え?」
見てみると、刀に変わっていた。え、ドユコト!?まさか俺が刀を連想させたせいで…
「申し訳ございませんでした…」
「別に良いですよ!でも、刃が片方にしかなくなりましたよ?」
「それで良いんだよ。さてとあとはエンチャントだな。」
…もう適当に軽技と攻撃全振りでいいや。
「【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】【エンチャント】」
素が良いからか、結構エンチャントできたな…どれどれ
no name
性質
【軽技】【攻撃力+150】
「??????????」
「どうしました?」
「え、武器名がno nameになった…」
なんか、質が下がったっぽいけど…
「す、すごいじゃないですか!」
「なんでだ?no nameって一番下の位じゃないのか?」
「no nameって、古代遺物級ですよ!しかも最上級の武具にのみ与えられる等級です!no nameは、師匠が名前を決めてないからですよ!」
「古代遺物級…!」
一度聞いたことがある。古代遺物級、絶対壊れないし所有者に絶対の忠誠を誓う武器だと聞いたことがある。現在発見されてる古代遺物級はたったの3つと聞いたが…
「え、これで4つ目ってこと?」
「そうですよ!ていうか早く名前つけてあげてくださいよ!」
名前、名前って言われてもなぁ…no nameか…
「よし、お前は今日から【無銘】だ。」
「そのままですね。」
「そ、そのままで良いんだよ!変に変えるとダメって俺の婆ちゃんが言ってたし。」
嘘である。
「名前が思いつかなかっただけなんじゃないんですか〜?」
「う、うるさい!」
「ふふふ、別に良いと思いますよ。師匠に名付けられてその剣も嬉しそうですし。」
「これは刀って言うんだぞ。」
『武器に名付けをしました。性質が変容します。』
「え、変容!?」
変容ってなんだ!?性質が変わる!?どう言うことだよ!
妖刀【無銘】
性質
【魔力吸収】【攻撃力+200】【早業】
なんか妖刀になったし…
「まぁ、とりあえず武器とかは揃ったな。あとは、食料だが…」
「テレス様、言われたものを持ってきました。」
「おぉ!」
ちゃんと3日分の食料を持ってきてくれた。ついでに鍋や包丁も…!
「ありがとな!じゃ、そろそろ行ってくるわ。ちゃんと何か収穫あったらゲートで転送する!」
「わかりました。気をつけて行ってきなさいませ。」
「モモ、行くぞ!」
「はい!師匠!」
そして、俺たちは辺境を後にした。
一旦史郎視点終わりです。
次からは勇者編やぁ。