Full Service 01
世界保健機関によると、
33秒ごとに、誰かが心血管疾患で亡くなっている。
30秒ごとに、誰かが糖尿病関連の合併症で亡くなっている。
12秒ごとに、誰かが肺の病気で亡くなっている。
6秒ごとに、誰かが癌で亡くなっている。
そしてもうひとつ、どの病患でも遥かに伝染力が強くて、回避不可能のほどの致死性を持っている。それは……
画面からまた連絡が入ってきた。鳴り止むことは一度もないから、一定時間毎にその鈴の音楽を変えなければやってられないほど、鳴りつづく。
「はい、事務課です。はい、ただ今、『カード』の資料が入りました。拝見させて頂きます」
通話しながら、画面に移してる資料を丁寧に見ていて、事務課の職員たちは"適合性"を見定めていて、どの"空き穴"を埋めるのかを判断する。
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『カード』
案件番号 #065760840
名前:田中守
年齢:45歳
職業:なし(親と共住み)
犯罪履歴:両親への暴行(証拠あり、被害者は告訴撤回)。公益活動で知り合った女性への性的暴行(捜索中、立案可能)
プロフィール紹介は以下を参照:
典型的な引きこもりニート族です。若い頃、彼にも未来への憧れや夢がありました。高校卒業後、普通の大学に入学しましたが、学業のプレッシャーや社交の悩みから次第に心身が疲弊していきました。大学卒業後、数回職場に挑戦しましたが、その度に失敗に終わりました。
最初は、自分に言い訳をしていました。「この仕事は自分に合わない」「会社の文化が合わない」「もっと時間が必要だ」と。しかし、時間が経つにつれ、自信は徐々に失われていきました。両親は彼が家に引きこもっているのを見て、励まし続け、いくつかの仕事の機会を手配しましたが、毎回何らかの理由でうまくいきませんでした。
両親の目には、田中守は「家の廃人」に映っていました。毎日の生活は、部屋でネットサーフィンやAV鑑賞、またはゲームをすることです。彼は次第に社会から遠ざかり、友人たちも次々と離れていきました。このような生活に彼は罪悪感と自己嫌悪を感じましたが、現状を変える力はありませんでした。深夜になると、彼は非常に孤独と絶望を感じました。
ある日、彼は偶然にも引きこもりニート族についての報道を目にしました。その記事には、彼と似た境遇の中年男性が、家族の助けを借りて再び社会に出て、自分の価値を見出したという話が書かれていました。この報道が彼に希望を与えました。それをきっかけに自分の未来について考え始め、変わる決意をしました。
しかし、変わることは容易ではありませんでした。試みるたびに、多くの失敗が伴いました。新しいスキルを学ぼうとしましたが、途中で挫折しました。社交活動に参加しようとしましたが、いつも浮いている感じがしました。これらの失敗は彼をさらに落胆させましたが、彼の心の中にはまだわずかな不満が残っていました。
両親も徐々に忍耐を失いました。ある家庭の集まりで、父親が怒りを爆発させました。「お前はこのまま一生を無駄にするのか!一体どうしたいんだ!?」この言葉は刃のように彼の心を刺しました。彼は自分の人生が日に日に浪費されていることに気付き、変わる必要があると痛感しました。さもなければ、この人生は本当に無駄になってしまいます。
そこで、彼は小さなことから変わる決意をしました。毎日早起きをし、学習計画を立て、自信を取り戻すよう努力しました。彼は少しずつ公益活動に参加し、同じ志を持つ友人たちと出会いました。前途は依然として困難で満ちていますが、彼は続ける限り、いつか新しい生活が訪れると信じています。
今までずっと、彼は自分自身への失望と未来への恐怖のループに翻弄されていました。しかし、彼は変わった。もう昔の自分じゃないと彼はそう思いました。
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無駄に長いプロフィール紹介はいつものことだ。そして、その"適合性"もまあまあなほどありふれているのだ。
「はい、ご視察の通り、問題ありません。適合性は完璧です」
電話を切った後は、紙面作業をしながらの隣席とのおしゃべり時間だ。それだけがここの職員たちにとっての唯一の休憩タイムなので、職務怠慢とか言われるとマジキレなレベルだ。
「視察課は相変わらずいいモノを見つかったね~」
「そうですね~そのありふれた"適合性"、本当に最高です!こちらの審査の手間もハブられますので、助かります」
「ところで、先電話した相手って視察課の柊さんだよね~いいな~私もイケボ聞きたい~」
「え~先輩~もう可愛い彼女いますから、ここは後輩に譲ってくださいよ~」
「はいはい~審査完了したら執行課に連絡してね~」
「はい~」
資料が入って、審査してから、今度は事務課から電話する番だ。その相手は執行課。名前通り、実際に"執行"する課のこと。それを持って何を執行するのかを言われると、もちろん"移り"なのだ。
「こちら事務課です。只今、案件番号 #065760840を移送しました。トラック暴走の"移り"をお勧めしますが、実際の勝手はお任せします。あ~はい、そうですね。念のため、"子供や女子高生を助けよう"という動機で死なせてもらえば助かります。はい~よろしくお願いします」
『カード』案件番号 #065760840 結案。
そしてもうひとつ、どの病気でも遥かに伝染力が強くて、回避不可能のほどの致死性を持っている。
社会に必要とされない人、普通に生活してる人、社畜で快楽を願うしかない人、学校で退屈だと感じた人、妄想に囚え何も用のない人、などなど、無差別に2秒ごとに必ず亡くなっている。
それは、異世界転生である。