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【3話】如何にもなメモ用紙が落ちてりゃ、そりゃ拾う


 さて、ここで少し次代の聖女と呼ばれる娘さんについて話そうと思う。


 彼女は元々1年のほとんどを教会で過ごしており、この世に誕生してすぐに「神の祝福」を受けた紛うことなき次代の聖女様である。


 基本的に一生を教会内で終えるのが聖女認定された者の宿命であり、それは先代当代次代と関係が無い。


 ましてや彼女は教会生まれ教会育ちの為、本当の意味で教会の外に出た事も無ければ、出る予定も無かった。


 ところがだ。まぁ都合良くと言ってしまえば聞こえは悪いが、敢えて言おう。都合良く、具体的にはアメリアが伯爵家の子だと判明したらへんの時に、突然普段大抵の事ではうんともすんとも言わない神様が、とあるお告げをしたのである。


「聖女リヴィエール・シュネージュを現世の学び舎に通わせろ」と。


 本当はもう少し堅苦しい回りくどい言い方をしていたが、概ねこんな感じであった。


 そんな訳で、人生のほぼ全てを教会で過ごす筈の娘さんが、何故か全寮制のエステリア魔法学院に生徒として滞在しているのである。


 聖女ことリヴィエールは、虫にさえ慈愛の精神を持ち、身分関係なく誰であろうと分け隔て無く優しい。かつ「神の御心のままに」を、素で言ってのけてしまう娘さんであった。


 剣の訓練をしていた騎士団長の息子が誤って軽い怪我をした際には、目に涙を浮かべながら治癒魔法を掛ける程に素晴らしく心根の優しい方。


 等々、如何にも聖女様的なエピソードを上げたらキリが無い。


 と言う感じで、話はその件の聖女様探しに向かったアメリアの方に戻ろう。


 アメリアは疲れ果てていた。


 庭園に行った瞬間に囲まれたからでは無い。廊下で突然、恒例行事になりつつある、王子様の婚約者の高笑いを聞かせられたからでも無い。


「聖女様見付からないんだけど……」


 恐らく学校中を見て回った筈なのに、聖女の姿がどこにも無いのだ。

 所属クラスにも居なかった。まぁこれぞ聖女!的な人が、所属クラスにずっと居るとも思えないのだが。


 教会側たっての要請があり、特例として彼女の制服だけやたらと真っ白い。なので下手したらアメリアよりも、王子様の婚約者よりも目立つ筈なのに全く見付からない。


 礼拝堂にも居なかった時は、流石に次代だろうが聖女なんだからそれっぽい所に居ろよとつい思ってしまった。


 そうして聖女探しに疲れたアメリアは、仕方が無いので図書室に戻ったのだが……。





 アメリアは、拾ったばかりのメモ用紙と睨めっこをしていた。


 見た事が無いのに何故か読めるこの世界独自の言語で、


「エステリア魔法学院創立書と、猿でも分かる薬草と毒草の見分け方の間にある取っ手を3回引っ張る」


 と書かれた紙が、図書館の奥まった所の床にポトリと落ちていた。


 そんな如何にもなメモ用紙が落ちていて、内容も如何にもな感じだったのならば、中身地球産のアメリアは無論「とりあえずやるだけやってみるか~」とかなっちゃう。


 メモ用紙の通りに、「エステリア魔法学院創立書」と「猿でも分かる薬草と毒草の見分け方」と言う、相互性も何も無い。普通同じ本棚、ましてや隣通しになんか置かないだろこれ!と、ツッコミたくなる様なタイトルの本の間を見た。


「ほんとにあるんですけど……」


 そうしたらきちんと取っ手があるものだから、アメリアは絶句する。


 こんなあからさまな装置なんて、気付かない方がおかしいくらいだった。


 それでも恐らく、魔法やらなんちゃらが掛かっていたのだろう。


 何故ならばアメリアは何度も何度もこの本棚の前に来ていたのに、今の今までこんな仕掛けがあるだなんて気付かなかったからだ。


 逆に魔法やらなんちゃらが掛かっていないとすれば、それではアメリアがただの鈍感ちゃんになってしまう。そう、乙女ゲームのヒロインみたいに。


 それは全力で否定をしたかった。


 向いていないからこそ、もっと向いている人に押し付け様としているのだ。


 それなのにヒロインらしい鈍感ムーブを出してしまえば、ようこそヒロインへ!と、進みたくもない道に誘導されてしまうではないか。


 本末転倒もいい所である。もっとしっかりしなくてはいけないなっと、アメリアは心の内で誓った。


 ジャンルもてんでバラバラ。ましてや2冊目のタイトルなんかは、読み手に喧嘩売ってるの作者?!とでも言いたくなる高圧的なタイトル。


 その2つの本の間にある、取っ手を3回引っ張る。


 数秒後、アメリアはメモ用紙通りに素直に動いた自分を、それはもう心から責めたくなった。

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