【2話】1学年だけでも属性過多過ぎやしないか?
魔法学院での生活は、まぁ驚く事が多かった。
1年生クラスに途中編入した形になったのだが、なんか同級生の面々が凄かった。
とりあえずアメリアの隣のクラスには、正真正銘の【王子様】が居たし、その王子様の所属クラスには、都合良く眼鏡を掛けた如何にも【側近】みたいな人が居た。
ちょっと離れた教室には次代の【聖女】様と呼ばれる娘さんが居たし、もっと言えばアメリアのクラスには、彼が卒業する頃と同時期くらいに魔王が復活しますよ~とか言う可哀想な予言を使命にされ、不憫な卒業先を決定されし、あだ名が【勇者】の男も居た。
なんで学院に通ってるんだ、大人しく冒険者して経験値貯めとけば良いものを。
他にも最年少で王宮騎士団に入る事が既に決まっている騎士団長の息子とか、やたら縦ロールがお似合いになる高笑いを好む王子の婚約者とか、歴代最高の魔力を持った極端に表情筋が死んでる男とか。
そんな奴らがごろごろ巣食っていた……1学年に。
ここだけでもおかしい事この上ないのに、1年上とか下にもなんか妙にキャラが濃い連中がいっぱい居た。
勿論、教師も鞭を常備している変わった人とか、頗る女性寄りの男性教師とか。あと年齢非公開のどう見ても幼女な先生とか、そんなんばかりが蔓延っていた。
アメリアはそれはもう悲観に暮れていた。なんせ安らげる場所が無い。
ただでさえ途中編入して来た平民出の光属性特化の魔力持ちってだけで悪目立ちしているのに、気になる事が多過ぎて精神的に疲弊する。
だからって疲れても保健室には近寄らんどこ的な無意識のセンサーが発動して、寮に篭もりっぱなしも考えたが、限りなく寮母に近いロボットぽい何かが怖くて無理だった。
それから、やたらと知り合う男と言う男が軒並みストーカーの如く付き纏って来る。あるぇ~魅了魔法って光属性だったっけぇ~?とか、脳内お馬鹿にならないと気が休まらない。
控えめに言ってもしんどかった。交代出来るものならばそうしたかった。
ちょっと周りを見渡しただけでも、個性的な面々が居るじゃないか。何もヒロインが私じゃなくてもいいじゃないか!、そんな事を考えていた。
◆
入学してから数日が経ち、アメリアは図書室に入り浸る様になっていた。
大前提として、静かだから。
僅か数日しか経っていないのに、アメリアは既に自分の諸々の境遇にうんざりしていた。
特に嫌だったのは、やはり少しでも隙を見せると、見知らぬ男達に囲まれてしまう事だった。
しかしアメリアは気付いたのである。
やたら剣をぶん回しがちの如何にも脳筋タイプに該当しそうな男達は、頭を使いそうな場所にはあまり近寄らないと言う事を。
そう言う意味で、図書室は唯一にも等しい落ち着ける場所であった。
と言っても油断は禁物。時間帯、ポジション、読む本等々、注意しなければインテリタイプとか無駄に色気のある教師に捕まってしまう。
あからさまに自主勉強等以ての外だ。ひとたび悩んだ素振りを見せたら最後、わらわらとどこに潜んでいたんだお前達と言いたいレベルで囲まれるのだ。
高い所にある本に手を伸ばしてもいけない。瞬く間に背後を取られて、頼んでもいないのに恩着せがましく本を差し出される。
と、色々と対策をしなければいけないが、総合的に見て1人になり易い格好の場所なのは確かだった。
授業は楽しかった。結局中身が地球産なので、魔法とかファンタジーちっくな内容は毎回ウキウキしていた。
座学だけだがある程度勉強してしばらくすると、アメリアはふと疑問を持つ様になった。
アメリアは光属性特化の魔法使いだと鑑定されてはいたが、1年生の序盤故に授業は基礎知識からスタートだった。故にまだ属性魔法の実践だったりはしていない。
なので魔法に関して諸々の判断は、前の知識ーー前世で読んだ小説とか漫画に倣うしかなかったのだが、
「(光属性ってヒールとかそんなやつだよね?ヒロインが光属性だと聖女にされ易いのが乙女ゲーム……)」
しかしアメリアの所属クラスからちょっと離れた教室には、次代の【聖女】と謳われる娘さんが居る。
関わった事は無いが、人伝に聞いた話では「これぞ聖女様!」と言う見た目かつ、性格もまんま聖女なのだと。
在学中、しかも1年生の時点で既に聖女認定されている女の子。悪い噂は今のところ一切無い。
仮にこの世界が乙女ゲームだとして、ヒロイン以外の聖女が居た場合、もう少し本人か或いはその周りが突っかかって来るのがセオリー。
ある程度時間が必要だとしても、何かしらのイベントがあってもおかしくはない。
現に王子様の婚約者で無駄に縦ロールがお似合いになる頻繁に高笑いをするお嬢様は、入学してから2日目辺りで「あらやだ下賎な民がいらっしゃいますわぁ~」的な、如何にもな話題を聞こえよがしに他のご令嬢と話していた。
しかし現状聖女一派については、そんな事が一切無いどころか、寧ろ挨拶すら交わした事が無い程に接触が皆無だった。
アメリアの事を周りが「聖女」だと呼ぶ事も無論、無し。
と言うか廊下とか庭園とか、他のクラスの生徒と遭遇しやすい共有部分に、彼女はほとんど現れないのだ。
そうして脳内で得たピースを一つ一つ当て嵌めて、最終的に出てきた答えにアメリアは満面の笑みを浮かべた。
「私よりヒロインに向いてる子居るじゃん!」
ヒロインが聖女認定されている子に自分から接触するのは、ちょっとした博打だとも思ったが、多少のリスクを犯してでもヒロインの座を押し付けたい基、向いてる人が居るのならば変わって欲しいアメリアは、さっそく意気揚々と次代の聖女と呼ばれる娘さん探しに向かったのだった。