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彼女が欲しいと言うから世界征服に付き合う事にした

作者: 七部学

「退屈ね」

彼女はよくそう言った。

昔から退屈そうな顔をしていた。

どんなに甘い菓子を食べても、どんなに高級な服を贈られても、どんなに美しい宝石で身を飾っても彼女は満足しなかった。

何もかもが満たされている彼女にとって金で手に入るものに価値などはないようだった。

数多の国の貴族から贈られてくるプレゼントは全て金銭に替えられて慈善団体へと流れていった。


恋をしてはどうか


昔、私は彼女にそう言った。

彼女は私の言葉を受け入れたのか、言い寄ってくる男たちと次々に夜の街に繰り出した。

しかし男たちは彼女の身を満たしても心を満たすことは出来なかったらしい。

彼女は男を一晩ごとに変えた。彼女は恋というものに不向きな性格だと自覚するのに3年弱かかった。


起業をしてはどうか


振った男の数が食べた食パンの枚数より多くなった時、私は彼女にそう言った。

彼女は私の言葉を受け入れたのか、服のブランドを立ち上げてあっという間に大成功した。

しかし、彼女は飽きた。

最初の数年は夢中で服を作り、世界中を飛び回っていたが、ある日女の子に言われた。


この服、かわいくない


その一言で彼女はその日のうちに作り上げたブランドを他人に売った。


さてさて私は困った。

このままでは彼女はまた心を閉ざしてしまう。

この世界はつまらないと呟く彼女を見るのは私とて愉快ではない。

そんなある日、彼女は突然私に言った。


「世界征服をしない?」


どうやら彼女はこの世界全てを欲しくなったらしい。


わかった


私は大して考えずに返した。

彼女はどうやら本気のようだった。

幸か不幸か彼女は親から受け継いだ財産と自ら稼いだ莫大な金があった。

私は全てを彼女に任せ、神輿の上に腰を下ろした。


彼女は自分の親から引き継いだ領地を少しずつ拡げることから始めた。

並行して時の権力者に自らの身を投げ権力を動かす力をつけていった。

私はすっかり安心した。

これなら彼女はしばらくは退屈せずにすむだろう。


どうやら彼女は扇動者の才もあったらしい。

この国の国民はすっかり彼女の言うことを信じるようになってしまった。

私は彼女に引っ張り出され、昨日は何処何処でA国の外相と会談、今日はB国の大統領と懇親会、明日はC国の国王の誕生日会に出席、分刻みの予定に右往左往するしかなかった。

彼女はどこぞの帝国の鉄血宰相よろしく外交で周りの国を少しずつ味方につけていった。

気付けば大陸の大半は彼女の意のままに動くようになっていた。


まだやるのか


私は彼女に聞いた。

過去の例を見てもそろそろ限界が近いような気がした。

彼女はケラケラと少女のように笑った。


「まだ満たされてない」


彼女は大陸を形だけの共和国とし私を一応の国家元首とした。

就任パレードで祝福の花で埋もれる私の横で彼女は高らかに笑っていた。


彼女は海の向こうの大国に宣戦布告をした。

大戦争となった。

数えきれないほどの犠牲の果てに彼女は海の向こうを手に入れた。

もうこの世界の果てはない。

彼女に逆らうものは居なくなった。


世界は1つになり、平和になった。


そして私は怖くなった。


彼女がまた退屈しないかと。




「退屈ね」


彼女はある朝、食パンにブルーベリージャムをつけながら私に言った。


さてさて私は困った。

このままでは彼女はまた心を閉ざしてしまう。

どうしようかと考える私を彼女は見つめてこう言った。



「あなたを殺しに行ってもいい?」



わかった


私は大して考えずに返した。


彼女は私に宣戦布告をした。

世界中に私を殺す事を宣言し、軍を挙げた。


誰も彼女に味方をしなかった。


彼女は私に権力を与え過ぎた。

私はいつの間にか世界の独裁者となってしまっていたらしい。

操り人形を操るのは彼女でも観客が見ているのは彼女ではなく操り人形だった。


彼女は瞬く間に孤立し、私の指揮下の軍に隠れ家を包囲された。


私は軍を説得し、彼女と1人で会った。


ここで私を殺さないか


私は彼女に提案した。

そうすれば少なくともこのまま私に捕まるよりは退屈せずにすむ。


彼女はケラケラと少女のように笑った。


「またね」


それだけ言うと彼女は懐から出した短刀で己の喉を突いた。







さてさて私は困った。

己の生きる意味を失ってしまった。


世界はいよいよもって平穏無事。

みんながみんな私の顔色を伺う。


私は退屈になってしまった。


そこでワインに毒を入れて飲む事にした。


私が居なくなっても世界は回るが、彼女が居なくては私の世界は回らない。


またねと彼女は言ったが、私はもう待てなかった。









「せっかちね」


彼女は私を見つけて目を丸くした。


私は元気かと聞いた。


「ちょうど退屈してたの」


私もだと言うと彼女はケラケラと少女のように笑った。


「また世界征服でもしない?」


わかった


私は大して考えずに返した。





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