8.職人の朝が早いのか、私の方が遅いのか・・・
「・・・おはようございます」
「起きて下さい・・・!」
うっ。体に一気に重みがのしかかる。
「ルフやめて、まだ夜でしょう」
窓の外に目を向けると、まだ朝日すらも昇っていない時間だ。この部屋には時計がないので、時間は分からないが朝の4時ぐらいの予感がする。
「もう朝ですよ!」
乗っかったルフの体を回転して落とし、毛布を再び被る。
しかしその毛布をルフが引っ張る。そんな攻防が繰り広げられる。
私が完全に毛布にくるまるとルフは引っ張るのを止めた。
「買い物一緒に行きませんか・・・?」
「えっ・・・。今から?」
まだ日が昇っていないというのに、買いものに行くの?
でも、そういえば日本でも、市場の朝は早いって聞いたことがある。自分には無縁だと思っていたことが、まさかの現実になってしまった。
「果物だったり、お魚も出ますから付いてきませんか」
興味はあるので、渋々起きることにする。体を上げ、背筋を伸ばす。
「20分後には出ますからね」
そう言ってルフは部屋を出て行ってしまった。20分後って言われても、この部屋は時計ないからわかんないんだけどね。
このまま寝ても良いだけど、市場は正直見てみたい。昨日街で見たのは、一部だったし魚を一度も見ることがなかった。なので、今回ばかりは起きることにする。
部屋で着替えを済ませ、リビングに行くと朝食が用意されていた。私が昨日座っていた席だけに料理が置かれているので、恐らくみんな食べてしまったのだろう。
それに先ほどから、1階でガサゴソとした物音やオーブンの音が聞こえてきている。恐らく仕込みなんだろうけど、この時間からするのは流石である。
20分ぐらい経っただろうか。2階にルフが戻ってきた。
「準備できましたか」
ご飯も食べ終えたので、私も頷き席を立つ。
1階に降りると、レオンさんが待っていた。
「それじゃあ、行くぞ」
どうやらミフィさんはお留守番のようだ。私も明日はお留守番させてもらおうかな。
市場はこの街から、離れの方にあるらしい。昨日、ルフが話していた畑などがある所の近くとのことだ。30分ぐらい歩くことになるらしい。
昨日の歩いた距離と痛み的に、筋肉痛がなっていると思ったが、案外そんなことはなかった。私ってまだ若い・・・?
通りを歩いていると続々と人が集まってくる。最終的に市場に着いた時には、かなりの行列になっていた。
屋根だけが付いているような建物で、近くには海があるとのことだ。風が強いのは、その潮風によるものだろう。
「それじゃあ、見て行こうか」
レオンさんが先陣を切って前へ行くので、ルフと一緒に着いて行く。密集度が高いので、迷子になってしまうリスクが高い。なので、ルフと手を繋いで歩いた。
先に野菜・果物がカゴに入ってずらりと並んでいる場所に着く。
「もし買いたいのがあったら好きに持ってきて良いからな」
代金は払いますよと伝えたが、断られた。しかし、新しい条件を持ち掛けられた。
「お店用にお菓子を作って欲しいんだけど良いかな」
どうやら昨日食べたフレンチトーストがよほど気に入ったらしく。お店でも出したいと思ったそうだ。
「だから、果物とか使うものがあったらどんどん行ってくれ」
「ありがとうございます!」
私としても、お菓子販売は現実世界でも長年してみたかったことの一つなので、依頼を受けることにした。
売り場にめぼしい物はたくさんあるのだが、今買ったとしても使い切れる気がしない。あまり日持ちしない果物が多いので、作るものを決めた気に買いに行くことになった。
昨日既に、りんごとチーズを買っているので今日はそれを使って作る予定だ。
なので、今日は特に何も買ってもらうことはなかった。
レオンさんが野菜の商材を買いこんでいる間に、待ち合わせ場所を決めてルフと魚を見ることになった。
「お魚さん泳いでる」
バケツに入ったお魚をルフが興味津々に見ている。
どうやら、お店では扱っていないらしく。移動距離の都合上鮮度が下がるということで、街にも極々一定数しか出回っていないそうだ。
「ナギちゃんは魚料理できるの」
「ほとんどしたことがないかな」
そもそも、私は魚全般が苦手なので、料理で滅多にすることがない。焼き魚ならほぼ大丈夫なので、本当にごくわずかの処理の仕方しか知らない。三枚おろしできるのかな。もうかれこれ3年はやってない。
アジのような魚が並んでいたので、今度買ってさばいてみるのもいいかもしれない。
ちなみに、お刺身も限られたものしか食べれないのでしたことがなかった。
時間的にそろそろ集合場所に戻ったほうが良さそうだったので、2人で戻る。
すると、重そうに袋を両手に持ったレオンさんの姿があった。
「大丈夫ですか・・・?」
「このくらい平気さ・・・」
「どう考えても平気そうじゃないですけど」
すでにへとへとに息切れをしている。このまま街に戻ると、倒れてしまいそうな状態だ。
私が袋を一つ受け取る。重いが別に持てなくはない重さだ。むしろ、学校に行くバックの教科書の重い気がする。なので、別に大したことはない。
「なにも買わなくて良かったのか」
確認で聞かれたので、頷いておく。
「そうか。毎日あるから、気になったのがあれば言いな」
「毎日は行かないですけどね」
二人から驚かれたが当たり前である。こんな時間はまだ寝ているか、起きていたとしても、徹夜した時くらい。来ても週一が限界だろう。
そのことを二人に伝える。
「まあ、ルフも毎日来ているわけじゃないからな」
どうやらルフも朝は多少苦手らしく。今回はレオンさんから起こされて起きたそうだ。そして、私を呼んでくるように指示したらしい。
レオンさんは毎日行くらしいが、週・月によって全然違った商材が並ぶらしい。帰りながら、これからお店のお菓子で使う材料もあるので、週一ぐらいに来ることを約束した。
市場からお店まで戻った頃には、空が薄く明るくなってきていた。一体何時は私は起きたのだろう。
ちなみに、私朝にはかなり弱いです。
次回更新予定が1日ズレて、3日後の25日となります。よろしくお願いします。