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7.初めてのお仕事をする

 

 館の外周を1周して、再びメインストリートまで戻ってきた。建物の中も気になるが、基本的に入ることはできないそうだ。市民でも何年かに1回だけ庭に入れる時があるそうだが、以前庭で暴れまわった人物がいたらしく、永く開いていないそうだ。安全のためにも、そうしてしまうのも分からなくはない。

 でも、花道を見てみたい気持ちはある。いつかは入れる日が来るといいね。


「ちなみにルフは入ったことはあるの?」

「5才の時にありますが、覚えていないですね」

 5才なら覚えていないのも仕方ないだろう。自分の5歳のころ記憶に残っていることを思い出そうとして、ほとんど思い出すものなんてない。興味を示さないと覚えていることなんて少ないだろう。


 牛乳屋さんの前まで来て、店内に入る。

「いらっしゃい。ルフイルじゃないか」

「こんにちは。牛乳を買いに来ました」

「あいよ。ちょっと待ってな」

 そう言って、お店のおじさんは奥へと消えていく。ここの店主の人もルフの名前を知っているってことは、よくおつかいに来ているお店の一つなのだろう。ここまで一人で買いに来る10歳はなかなかの頑張り屋さんだろう。私なんて家でお菓子作って、材料は母親に買ってきて貰っていた。今覚えば、自分でもスーパーまで買いに行けたから我儘なことだったかもしれない。

 ガラガラと音を立てながら、巨大な瓶に入った牛乳を乗せておじさんがやってきた。少なくとも私は今まで見たこともないサイズだ。業務用サイズとはまさにこのことなのか・・・。

「いつもありがとね。はいこれ」

 台車ごとルフに渡す。

「所でお前さんは見ない顔だね」

 初めてきましたから見たことないのも、当然である。

「初めまして、ナギと申します」

「ナギか。俺はソラだ。新しいバイトかい・・・?」

 バイトではないけど、お店にしばらくいうことになりそうなので頷く。

「そうかい、そうかい。なら、頑張って働くんだぞ」

「はい。頑張ります」

 泊めさせて貰っている間はお店の手伝いをすることにしている。宿泊代の話をしたら、受け取らないと言われたから、せめてもの話で手伝いをするということで同意してもらった。


 お店の中を見た時に気になった商品があったので聞いてみる。

「これってチーズですか」

「そうだぞ。色々と種類があるけどな」

 やはりチーズであっていた。料理にもお菓子にも使えるのでとても有難い。

 陳列ケースの中から、クリームチーズに近い商品があったので、ついでに購入してみる。


「じゃあ、いつも通り台車はお店の脇に置いておけばいいからな」

「はい! ありがとうございます」

 ルフはお店から出て行こうとする。あれ何か足りないような。私は立ち尽くす。

「どうしたの・・・?」

「いや、あの、代金は?」

 よくよく考えると、一度も支払いをしていなかったのだ。

「あー、それは月初めにまとめて貰ってるからな」

「そうです。料金は払っているので必要な時取りに行くということなっているんです」

 つまり、サブスクみたいな定額制サービスみたいな感じってこと? 確かに大量に消費する場合、メリットはでかいのかもしれない。日本では、食品の使い放題はなかなか聞くことがないだろう。まさかこんなところで、見つけるとは思わなかった。


 牛乳を受け取った私たちは、レオンさんの所まで戻る。もう町並みは、薄暗くなっており街灯も火が灯っている。

 建物の中に入って、冷蔵倉庫に案内される。中には、食品や飲み物らしき瓶が多数並んでいた。見た目的にワインのようだった。


 私が買ってきた果物とチーズは、二階の冷蔵庫を使うように言われたので、先にしまって1階に戻った。

 レオンさんは1階でディナーの準備を進めている。

「私も手伝いますよ」

「良いのか?部屋で休んでても良いんだぞ」

 恩返しの気持ちとしてやりたいという気持ちを伝える。

「そうか。ありがとう。なら、とりあえずテーブルクロスを掛けるのを手伝ってくれ」

 私は、素早くレオンさんの指示に従って動く。

 一度も現実世界で、バイトもアルバイトもしたことがないのでこれが初めての社会経験だ。まさか異世界ですることには思わなかった。


 店員さんのルネさんと一緒に、フロア業務を担当した。

 会計に向かったお客様の居たテーブルに残ったお皿を片づける。

「新しいバイトさんかい」

「期待の新人なんですよ」

 レジからルネさんがお客さんと話している声が聞こえてくる。期待の新人と聞こえたが私のことを言っているような気がするが、気にしないでおこう。


 実際に働いてみると、時間は一瞬にして過ぎて行く。ラストオーダーを迎え、すぐに閉店時間を迎えた。

「おつかれさま。2階に飯用意してるから食べておいで」

「私はまだ1時間あるので先に良いですよ」

 片付けまでしようと思っていたが、ルネさんのお言葉に甘えて食事を頂くことにする。


 2階に上がるのに、どうにも足が痛い。正直、心当たりしかない。

 日中、街を散々歩いた挙句、長時間立ったままお手伝いをしていた。今までこんな歩いて立ち続けた経験は恐らくないだろう。

 後でお風呂を借りて、もみほぐしておこう。あれ。そもそもお風呂あるのかな。シャワーぐらいはあると思うから、後で聞いてみよう。


 リビングにはすでに、ルフとミフィさんが席についている。どうやら聞くに私を待っていてくれたらしい。

「いただきます」

 ルフの発した言葉に、ミフィさんが驚いている。理由は昼間のことだと分かっているのですかさず説明する。

「そういう文化があるのね」

 ミフィさんも真似て、手を合わせる。真似しなくてもいいのに。


 仕事と言えるほど、大きなことはしていないけど、働いた後のご飯はどこか格別な気がした。そもそも、レオンさんの料理が格別な気がするので、そう思うのも仕方ないのかもしれない。


 食事も食べ終えるとお風呂に案内された。浴槽付きなのでゆっくりと足を伸ばすことが出来る。

 しっかりと足をもんで今日の疲れを癒す。恐らく明日は筋肉痛だろう。


 みんな寝るようなので、私も部屋に戻る。

 ベッドに入って、改めて現実を思い出す。爆発で死んだはずが、生きていて、魔法や転移門など現実でありえないものが次々と出てきた。これからこの異世界で暮らすのだろうか。


 でも、この生活の方が、現実より楽しいのかもしれない。何時に起きるか分からないが、瞼を閉じて眠りに付く。

ようやく1日目が終わりました。(7話で約2万文字)

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