5.町を探索する1
レオンさんのお店を後にし、町中に出る。
廊下に出てみた光景だったが、道に降りて見てみると外観に見惚れてしまう。海外旅行に来た時の気分だ。それなりに人は多いが、人並みに巻き込まれる程の混み具合ではない。
1回転するように周り、後ろを振り向いた時、レオンさんのお店だけでなく見覚えのある小さな人物が目に入る。
「なんで、ルフがここにいるの?」
レオンさん夫婦の姿はないが、何故かルフが私の真後ろに立っていた。
「あ、案内して言われたから・・・」
いつの間にそんなこと言われてたんだ。それに、出口で言われた迷わないという言葉を今理解した。ルフを案内役にするから迷わないってことね。ようやく辻褄があったよ・・・。
「もしかして、めいわくだった・・・?」
うるっとしている、瞳でこちらを見てくる。
「迷惑なんかじゃないよ。ちょっと驚いただけ」
「なら僕が案内していくね」
そう言うとルフは私の前に出て、宿泊施設のある方に進んで行くので後ろを付いて行く。
街中を歩きながら、ルフが「このお店は、これが売ってるよ」と丁寧に説明してくれる。一緒に付いてきてもらって本当に良かったかもしれない。私一人なら確実に迷子になっていた自信がある。
案内してもらっていると、果物が並んでいるお店が目に入った。ルフにちょっと待ってと声をかけた。
「どうしたの?」
「あそこって果物屋さん?」
「そうだよ!お父さんもよくここで買ってる!」
多分だけど、フレンチトーストでベリーを使ったからここで買ったものなのかな? ここによっていいか、ルフに聞いたら快く付いてきてくれた。
お店に近づくと、柑橘系の香りが鼻に刺さる。
「いらっしゃい!おお、お前さんはレオンさんとこの子だな」
「アランさん。いつもお世話になっています」
かなり顔見知りの関係みたいでアランさんというらしい。
「ところでそこのお嬢さんは?」
「お店の前で倒れていたところを助けてもらったナギと申します」
突如にして無言になり、店主さんが驚いている反応を見て、私も口にしたことのことの重大さに気が付く。
「あ、えっと、迷子になっていて倒れてしまって、今この子に案内してもらっているんです」
日本ということを口にすると、さらに話がややこしくなりそうなので、丸く収めようとする。その行動に察しがついたのか、分からないが店主さんも深くまで聞かないでくれた。
「じゃあ、今日はおつかいじゃないんだな」
ルフは頷く。おつかいとかもしてるから、その年で街の案内ができるのだと、心の中で納得する。
「まぁ、好きに見て行ってくれ」
そう言い残すと、レジらしきところに戻っていった。
10種類ぐらいの果物が並んでいる。 リンゴ、オレンジ、レモン・・・など、見覚えのあるものから、全く見たこともないもの。少し形が変わっているが似ているようなものもあった。
ルフが言うには、この辺りにあるお店の中でも特に果物を多く扱っているお店らしい。そして鮮度も良いそうである。これは、フルーツ系のお菓子を作るのもありなのかもしれない。リンゴでタルトタタンとか、ミカンはジャムにしてもいいかもしれない。その逆パターンも美味しそうだ。
頭の中で妄想が進んでいる中、先ほどの店主さんが再びこちらにやってきた。そして、小さなミカンらしきものを差し出してくる。
受け取ってみてみると、見た目的にきんかんのようだ。
「皮ごと食べられるから食べてみてくれ」
「良いんですか?」
どうやら、農家さんが新種として持ってきたそうだ。美味しければ、お店に出すらしい。いわゆる味見のような感じだ。
頂いたきんかん(らしきもの)を食べると、やはり味も変わらずにきんかんである。皮から溢れる酸味と甘みが口に溢れて美味しい。ルフも美味しそうに食べている。
「二人とも、美味しそうでなによりだ。お店には、出しても大丈夫そうだな」
子供たち二人の反応で良いのか不安に思う。でも、意外とお店的には、子供たちの方が味には素直な気がするので逆にいいのかもしれない。大人ならお世辞が入り、何事にも良いと言いがちである。それも円滑なコミュニケーションとしては必要だが、善し悪しが存在すると思う。
売り場を見ていると、柑橘類の中に目立った大きさのものが目に入った。黄色っぽく、レモンのような色をしているが、レモンの形ではなく丸っこい。それにサイズは手のひらぐらいある。
どことなく見覚えがあって、気になったのでアランさんの所に行って聞いてみる。
「それは、晩白柚だね」
名前は聞いたことはなかったが、どことなく見覚えのある理由はすぐに分かった。
「ザボンって言われる品種一つだね」
ザボンという言葉なら聞き覚えがある。お菓子なら、砂糖で煮詰めたザボン漬けが有名だ。皮の旨味とその側のグラニュー糖味が合わさって何とも最高である。
それに、お風呂に浮かべるザボン風呂も有名だね。食べれなくはなるけど、香りを楽しむことが出来る。どこかのニュースで温泉に浮いているのを食べたという話を聞いたことがあるが・・・。私は勿論食べたことはない。・・・少し投げたり、ドリブルのようなことをした記憶が脳裏を過ぎったが忘れておこう。
私はこれで見覚えがあったのだろう。でも、この晩白柚はあくまでザボンの一種であって、ザボン風呂に浮いていたものほど大きくなかった。
個人的もザボン漬けを作ってみたかったので、買ってみることにする。ついでに近くあったリンゴもセットでレジに持って行った。
財布を取り出して、ふと思い出す。あれ、通貨が違わないかな。財布を開けてみると、見たことのある硬貨とお札が入っているが、どうも絵柄が似ても似つかない。しかし、色と書かれている数字だけは、日本のものと一緒だ。これは、日本と同じ感覚で払って大丈夫なのか・・・?
とりあえず、アランさんに言われた額を差し出してみる。
「ちょうどだな。ほれ、さっきのも少しだけどサービスしておいたぞ」
やはり日本の硬貨と支払い方法は変わらないみたいだ。おまけにきんかんまで貰えてしまった。また買いに来よう。
「ありがとうございます!」
ルフとお店を後にする。
貰ったきんかんを取り出し一口つまむ。ルフにも、勿論のことながら渡す。
「食べていいんですか?」
「うん。お菓子に使うとしても、ちょっと量が少ないからね」
袋の中には、6個入っていた。少ないが、サービスで貰ったものなので仕方ない。寧ろ嬉しいほどである。なので、今回はおやつに食べることにした。
道中に商店街やギルドなどがあったが、今回は一旦スルーしてきた。
ギルドという現実では聞きなれない言葉に少し驚いたが、ルフも入ったことがないらしく、詳しくは知らないそうなので今回の所はお預けしてきた。
ギルドから少し歩いた先に、少し頭の抜けた高い建物が見える。あれが宿泊所にみたいだ。
カピバラがザボン湯に浸かってる画像が、可愛らしくておすすめしたい・・・。