LEGNA 五夜
獣人たちの規則。
凄い形相でヒメをブースに戻している愛理奈。
それを見て怯えているヒメ。
クソイヌめ。
さりげなくシンジ君を連れ出すつもりだったのに。
余計なことべらべらと...
駅に向かって歩いている三人。
前を見ながらロボに話しかけるシンジ。
「さっきの話...本当なのか?」
「嘘じゃない。世界中のほとんどの国家が受け入れている。」
ロボを見るシンジ。
「え、そんなに。」
「WHOやWWFってわかるよな?」
「生物心理学やってるから、当然だよ。」
シンジを見上げるロボ。
「人間を含めた生物の擁護を目的とする公的機関の代表が、ジュネーヴに1年前集まった。」
「獣化の拡散防止と根絶のための協力を、世界各国に要請するための協議だった。」
「その結果...」
1.セリアンスロピィゲノム(獣人)の発現者を隔離し、バイオハザードの拡散を防ぐ。
2.発現者またはその協力者が、意図的にバイオハザードの拡散を実行または企図しておれば、
ただちに身柄を確保する。それが困難であればそれらを排除する。
3.セリアンスロピィゲノムまたはそれに準ずる個体ならびに資料を保持している個人、法人、
その他団体に それらの破棄、提出、根絶のための協力要請を通告する。
4.通告に反した者にはそれらを強制的に没収、抵抗された場合には彼らを排除する。
5.特に注目に値するセリアンスロピィゲノム保有者は関連機関の監視下に置く。
最後の条項に怯えるシンジ。
「っ!」
「ふふ、察しはいいようだな。君はグローバルレベルで注目されている。」
ドッグカフェの前で微笑むロボ。
はしゃぐチェイニー。
「どうだい、スイーツでも?」
「ヤターっ!」
特大チョコレートムース三色クリーム添えをパクついているロボ
プリンパフェLサイズをうっとりしながら突いているチェイニー。
ロボの言葉にイチゴとクリームのせパンケーキダブルを、切り分ける手が止まるシンジ。
「愛理奈先生もガーディアンだぜ。僕たちと同じようにね。」
「え?」
「ガーディアン?」
クリームだらけの顔をあげるロボ。
「彼女もどこかに依頼されて、君を奪われないように監視しているんだよ。」
「...」
「あわよくば色仕掛けでも何でもいいから、君の『意思』で来るように仕向けろってね。」
憂鬱な表情でパンケーキを切り分けるシンジ。
「君は母さんと同じ会社のヒトだろ?」
「そうだ。」
「母さんの会社も人狼化の実験とかしてんの?」
「それはない。メジャーでグローバルな企業だぜ。」
「中国やインドじゃあるまいし、そんなリスクは取らない。
「僕たちは獣人の確保と保護を代行しているだけだ。」
パンケーキを口に運ぶシンジ。
「代行?どこ?」
「今は言えない。」
「愛理奈さんもそうなのか?」
「似たようなもんじゃないか?人狼化実験うんぬんは分からないけど。」
カプチーノのカップを手に訝しがるシンジ。
「シャノン...メディカルが獣化実験していないんなら、誰が君たちをそんなにしたの?」
複雑な表情で顔を見合わせるロボとチェイニー。
「...」
ナプキンで口の周りを拭きながら語りだすロボ。
「狼のDNAを使われて僕らは作られた。通称『ルー・ガルーゲノム』...」
「え、それって?」
「フランスでは人狼のことを『ルー・ガルー』って言うんだよ。」
パンケーキを口に運びながら話を聞くシンジ。
「6年前、ヴァチカン美術館を襲った窃盗団は綿密な計画を立てた。」
「美術館のキュレーターを仲間に引き入れ、自分たちの配下を潜り込ませた。」
椅子に寄っかかりながら話すロボ。
「その後、『ルー・ガルー』の妹を人質に取り、彼をオトリとして送り込んだ。」
「オトリって?」
「彼を暴れさせてるあいだに目ぼしい展示物を運び出す。」
身を乗り出すロボ。
「ところがそこにあの女が現れた。」
「蜥蜴女...」
「蜥蜴じゃない、古代の爬虫類だよ。」
唖然とするシンジ。
「古代の?恐竜ってこと!?」
「目撃者によれば『ジュラシックパーク』見てるみたいだったてさ。」
「その女がなんでそうなったかは、今となってはわかんないけどね。」
神妙な表情のシンジとロボを横目で気にするチェイニー。
「蜥蜴女との遭遇で『ルー・ガルー』は死亡したとされてたが、治療を受け生き延びた。」
シンジを睨め上げるロボ。
「しかし、両親、妹との生活の戻ろうとするが、人狼化実験に協力する要請が相次いだ。」
話を続けるロボ。
「関係者からしか漏れない情報だ。」
「金のためかは分からないが、彼を追いつめたのは親戚関係だった。」
ロボの話を聞きながら暗い表情でカップに口をつけるシンジ。
「彼はそれを拒否したが、家族をたてに取るような脅迫が相次いだ。」
「...」
ロボの話に慄くシンジ。
「苦しんだ彼が選んだ道は自殺だった。」
「っ!?」
規則って、縛り付けられるだけだろ?