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第六話

「ハンス、これは一体どういうことですか?」


「はい? よく分かりませんが、騙せていたとは思いますよ。いや~~、ゾクッとしましたよ。お嬢様が僕の考えたセリフを仰るのって、何か僕が殿下を誘惑してるみたいで」


「バカ! そんなことを聞いているのではありません。何でウォルフ様の態度が急変したのかを聞いているのです!」


 困りました。

 ウォルフ殿下の意図を推し量るために「魅了魔法」にかかったフリをしてみたのですが――ますます殿下の考えていることが分からなくなってしまいました。

 私の演技が下手だったのではありません。

 少なくとも、ウォルフ殿下に変化が見られたということは、彼は自分の呪術がかかったと思い込んでいるのは間違いないと思います。


 しかし、その行動は意味不明でした。

 甘い言葉をうわ言のように囁やき、熱っぽい視線を私に向けて、常に紳士的な行動をするウォルフ殿下は不気味な存在だったと言わざるを得ません。


 一体、彼はあのような行動をとってどうするつもりなのでしょうか。



「やっぱり、シャルロットお嬢様のことがお好きなのでは? 魅了されたと思って安心して本心が現れたのでしょう」


「本心が現れた? それでは、まるでウォルフ様が私のことをずっと好きだったみたいではないですか」


「ですから、そうだと申しております」


 ウォルフ殿下が私に好意を持っているというハンスの見解は最初から彼が主張しているものでした。

 納得は出来ません。意中の人間と婚約したのならば、突放そうとするなんてあり得ないからです。

 どう考えても、彼の言葉や態度は悪意がありましたから。


「ハンス、私にはそうは思えません。魅了魔法がかかっている私に好意があるという可能性はありますが、私自身のことはやはり嫌悪しているのでしょう」


「そういうものですかね。答えはシンプルだと思うんですけど」


「政略結婚を持ちかけるような貴族の娘を煙たがるのは、ある意味では当然ですわ。私だって家の為だと割り切った部分がありますもの。でも、ウォルフ様とは正面からぶつかろうと思っていました。そうすれば、いつかは私のことを好いてくれるかもしれないと」


 ウォルフ殿下の気持ちは分からないでもありません。

 親同士が決めた婚約。そこには自分の意志はない。

 でも、だからといって、そこから始まる何かがあるかも知れないと私なりに歩み寄ろうとしました。


 全部、空回りでしたが……。


「理由はどうあれ、呪術を使って人の感情を操作しようというのはやり過ぎだと思いませんか?」


「う~~ん、やってることは眉唾もの噂の実践なんでなんとも。もちろん、お嬢様の立場だとドン引きレベルかもしれませんが。ですから、そろそろ殿下と腹を割って――」

「そうですわ! この機会にウォルフ殿下にちょっとした仕返しをしましょう!」


 今、ウォルフ殿下はスキだらけです。

 こうなったら、殿下の日頃の行いと呪術をかけようとされたことに対して仕返しをしてやります。

 ちょっとは反省してもらわないと、私の気が済みませんから。


「し、仕返しを? 待ってください、シャルロットお嬢様。仕返しなんてしたら、ウォルフ殿下の怒りを買ってキャメルン家は終わってしまうんじゃ……」


「そんなヘマしませんよ。絶対に気付かれないようにしますから」


「うーん。イマイチ不安です。何を企んでいるのですか?」


「そうですね。ハンス、あなたにも手伝って貰いますから、お教えしましょう」


「猛烈に嫌な予感がします……」


 ウォルフ殿下、私が魅了魔法にかかっていると思い込んで、きっと自分に逆らうことはないとお考えでしょう。

 その甘い考えを打ち破って差し上げます。ちゃんと、私のことを見ようとしなかった罰なんですから……反省してもらいますよ。

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