次の任務へ
やっぱり、納得いかない。
「ねぇ、五十嵐のとこ行こうと思うんだけど、一緒に行く?」
昼休み、そう鈴音に声をかけた。あの猫捕獲任務の後、個人情報保護のために私だけ五十嵐と連絡先を交換していたが、あれから1週間何の連絡もない。
世界を救う任務なんてそうそうないだろうから特に待ってもいないが、どうしても気になることがある。このままでは埒が開かないので、こちらから乗り込もうというわけだ。
「うん、行く行く! 楓から会いに行くなんて珍しいね」
やけに楽しそうな鈴音は何か勘違いをしているのかもしれない。私は会いに行く訳ではなく、ただ確かめに行くだけだ。
放課後になってすぐ、五十嵐に連絡する。
『少し確認したいことがあるのですが、今日お時間ありますか?』
少しして返信があった。
『丁度次の任務がある。すぐに来い。』
なんというタイミング。その旨を鈴音に伝え、今度こそはちゃんとした格好をと念押ししてから一旦家に帰った。
再会した彼女の服装がまだまだ可愛さ重視であるとはいえ、一応長袖とスカートにタイツという前回よりはまだマシなものだったことにとりあえず安堵し、ボロアパートへ向かう。
「楓、五十嵐さんのことどう思う?」
歩きながら鈴音が尋ねてきた。
「……とにかく怪しい、かな。油断できないと思う。まだ向こうの目的も分かってないし、とりあえず疑わなきゃダメかな。鈴音も、自分の身は自分で守るんだよ?」
私の真面目な答えに、なぜか鈴音は首を傾げた。
「うーん……。そういうことじゃなかったんだけど、まぁ、いっか」
なんてぶつぶつ呟いている。
「そういうことじゃないって、じゃあどういうこと?」
別に流してもよかったのだが、なんとなく聞き返した。
「えっと……。もっと個人的な、人間的な部分について、どう思ってんのかなって」
あぁ、そういうことか。少し考える。
「あんまり詳しくは分かんないけど……。愛想がなくてマイペース、というよりは一匹狼? 人に合わせる気がない。多分頭はいいし知識も豊富そう。社交的なタイプじゃない。そんなに悪い人だとは思わないけど、かといって良い人でもなさそう。何考えてるか分からないから、より冷たく思えるのかも。……こんな感じで、どう?」
我ながらたった1日会っただけにしては分析出来ていると思ったのだが、またしても鈴音は首を傾げる。
「……うん。まぁいいや」
どうもはっきりしない。ではどうすれば良いのかと聞こうとした時だった。
「なかなか合ってるじゃないか」
背後から声をかけられビクッと立ち止まる。振り返るまでもない、五十嵐だ。
まだアパートまでは距離があるのに、なぜここに?
「……いつから聞いてたんですか?」
前を向いたまま静かに尋ねた。前回もこんな感じだったのを思い出す。これからは背後に気を配ろうと、固く誓った。
「大体最初から。気づかないお前らが悪いだろ。」
あなたの気配の無さが異常なんですよ。
「どうしてここに?」
「色々あってな。帰り道にたまたまお前らがいただけだ」
本当だろうか。私は小さく溜息をつく。
「鈴音、これからはちゃんと後ろに気を付けようね。やっぱ油断できないよ」
こそっと囁いた。鈴音もうんうんと頷く。
「さぁ、次の任務だ、早く行くぞ」
言いながらさっさと歩いていく。五十嵐メモに追加しておこう。
彼は神出鬼没、そしてせっかち。