猫の秘密は
「俺が、世界を救う会……これからはSSと呼ぶが、これを設立したのはある組織に対抗するためだ。その組織は……まぁ、簡単に言えば世界を終わらせようとしてるやつらで、じゃあSOとでも呼んどくけど、今回の猫もそいつらが仕組んだことだ」
一旦立ちあがり、隣室からあの猫を連れてきた。
「こいつの……えーっと……」
猫の首の辺りを何やら探る。
「あぁ……。これを、回収したかった」
ほんの少し得意気にも見える様子で顔の前に持ち上げたのは、超小型の黒くて薄いチップだった。
「情報が正しければ、この中に強力な爆弾の設計データが入ってるはずだ」
なんだって!? 爆弾の設計データ? 急に現実味がなくなった。それに、入ってるはずだって誰情報なんだよ。
「ほんとですか?」
鈴音もっと半信半疑で尋ねる。彼は肩をすくめた。
「俺も疑ってるよ。でも確かめなきゃいけないしな。中身を見てみようか、用意するからこいつを逃がしてやってくれないか?」
無造作に差し出された猫入り袋をおずおずと鈴音が受けとる。
「逃がしちゃっていいんですか?」
私が問うと、
「一応GPSを付けた。そいつが素直にボスんとこに帰ってくれれば、やつらのアジトが分かるかもな」
とニヤリと笑った。さすが、抜かりない。
言われた通り猫を逃がして帰ってくると、五十嵐は隣の部屋で1台のコンピューターの画面をじっと見つめていた。
「どうでした?」
声をかける。
「ん……。実用化は難しいが……よく考えられてるよ。恐ろしい発想だ。莫大な資金と技術があれば、もしかしたら……。これが現実に作れれば、確かに地球の半分くらいは吹き飛ぶかもしれない」
そんなに恐ろしいものだったのか……? 信じ難いので画面を見てみるが、訳のわからない図形と数値、細かな専門用語がゴチャゴチャと書き込まれているだけで凡人には理解が出来ない。
「これを早期に入手出来たのは大きい。こっちも対策を立てれるからな……」
呟き、私達をちらりと見た。
「とにかく任務成功ってとこだな。誉めといてやる。よくやった」
鈴音は笑顔でありがとうございますなんて言っているが私はあまり嬉しくない。あまりに上から目線なのでむしろムッとしそうになる。
「……あっ」
さらに彼が何か言いかけたとき、鈴音が小さく声をあげスマホを取り出した。
「ごめん、お母さんから。ちょっと出てくる」
早口に言い残し小走りで部屋を出ていった。その後謎多き男と2人残されてしまったことに気づくがまぁ私ならいいだろう。
「大変だな……」
他人事感満載で呟いてから五十嵐はじろりと私を見下ろす。
「……何ですか?」
「言っておこうと思ったんだが。お前が俺を信用していないように、俺もお前らを信じちゃいない。SOのスパイの可能性もあるしな」
私もとりあえず気になっていたことを尋ねる。
「私達が猫を捕まえられなかったらどうするつもりだったんですか」
彼は不敵に笑った。
「手は打ってあったさ。そもそもあの道に猫が入った時点で俺の勝ちは決まってた」
じゃあ私達の努力は無駄だってこと?あぁ、バカバカしい!
「次からは早めに任務内容教えてもらえます? こっちも準備とかしたいんで。あと、他に会員っているんですか?」
「そうだな……努力しよう。会員、というか仲間なら数人はいる」
へえ。よっぽどの物好きなんだな、きっと。
少しして戻ってきた鈴音が楽しそうに、
「五十嵐さん、今日暇ですか? 打ち上げ行きましょう?」
と無邪気に誘う。
「ちょっと鈴音! そんな勝手に……!」
私の心配をよそに彼女はひらひらと手を振った。
「だーいじょうぶだって! 楓もいるしって許可もらえたから!」
「そ、それは良かったけど。私への謎の信頼やめて?」
私の言葉はさらりと流される。
「で! どうですか、行きますよね? 勿論奢ってくれますよね?」
始めは嫌そうだった五十嵐だったが、目を輝かせる鈴音に押し負け、結局少し早めの夕飯を奢ることになったのだった。
世界をある意味救った私達だけど、五十嵐にしてもSSにしても未だ謎が多すぎる。鈴音はこれからも任務を遂行する気満々だろうから、私が彼女を守ってやらねば……! 何しろ鈴音に何かあったら、私だけじゃない、家族の生存に関わるのだから。……なんて大袈裟だけど、それくらい私は本気だ。鈴音も世界も、この私、夜城楓が救ってみせる!!