情報網の恐ろしさ
私はあまりにあっさり偽名がバレて、しかも1度も呼んでいない鈴音の本名まで知られてしまってむかつくのもあったが、むしろ落胆、自分の甘さに少々ヘコんでいた。
始めの無機質な部屋に戻ると椅子が2つに増やしてあって私達は並んで座る。
鈴音も私も黙りこくっていると五十嵐は相変わらず冷めた口調で語り始めた。
「如月鈴音、夜城楓。茜西高校2年3組。鈴音はあの如月社長の娘だな? 将来的にはかの東城くんの妻になるという話は本当か?(鈴音はこの質問は曖昧な笑みで回避した)好奇心は強いが楽観的、つまりは呑気。楓頼みってとこか。そして楓、お前はデータが少なかった……まぁ一般家庭なら当たり前か。分かったのはかなり慎重で警戒心も強い……が、まだまだ隙があるな。わりと雑学とか好きだろ。成績はずば抜けて言い訳じゃないが、知識はありそうだったし。……ビー玉はいつも持ち歩いてるのか?(鈴音に習い曖昧な笑みで誤魔化した)そして今彼氏はいない。恐らく今までも」
な……! すごく失礼なことを言われている! 今までもってなんだ? この短時間で私の何が分かったってんだ。
「私のことはいいんですよ。それより、なんで鈴音の名前が分かったんですか?」
鈴音も興味津々で頷いた。
「あぁ……。そんなこと? 猫捕まえてるときに1回めいって呼んだろ? “かえで”で調べたらヒットしなかったからおかしいとは思ってたんだが、この辺の高2でめいって名前でしかも楓の漢字の奴が1人だけいた。同じクラスに丁度鈴音ってのがいたからこいつらかと思っただけだ。鈴でりんって名前はそれほど珍しくないしな。偽名を名乗るなら本名を推測されないようにするべきだ。ま、実生活で使うことなんてほぼ無いだろうからしょうがないけど」
どうってことないって口調の五十嵐だが、そもそもこの辺の高校生の名前を検索できること自体普通じゃない。この男、やっぱり危険だ。ハッキングとかしてるんじゃないだろうか。
「……偽名に関しては再考します。本名で呼ばないよう鈴音にも練習させないといけないし」
ちらりと視線を送ると彼女は知らん顔でそっぽを向いた。
「そろそろ、あの猫のこと教えてもらえませんか?」
そう切り出すと五十嵐は思い出したようにそうだった、と呟く。まさか本当に忘れていたんじゃないだろうな……?
彼から聞かされたのは、にわかには信じがたい話だった。