暴かれる隠し事
猫を五十嵐に引き渡し、まず洗面所を使わせてもらった。もちろん鈴音を連れるのも忘れない。
無表情で傷を水で流していると鈴音が心配そうに言う。
「それ痛くないの?」
「痛くないこともないけど、それほどじゃない。もう少し分厚い服を着てくるべきだったな……反省」
鈴音は少し黙った。
「……かえで、それも大事だと思う。けどさ、もう少し可愛い服とか着たら良いのに」
「えぇ、いいよそんなの。彼氏が出来たら考える」
服なんて利便性が一番大事だ。特に鈴音と行動するときは非常にそう思う。全く、何度危なっかしい鈴音をすんでのところで助けてきたか……。
「逆に鈴はもうちょっと安全を考えて? せめて肌は隠して」
鈴音はぷっと頬を膨らませた。
「やだよー。こんなことになるなんて思わなかったし。まさか猫と――」
「そんなことで世界を救えるのか?」
唐突の声に2人とも凍りつく。
いつの間にかドアが開いていて、廊下に立った五十嵐がふてぶてしく笑っていた。
「いつからいたんですか?! 猫は? 私達の話、聞いてたんですか?」
私の続けざまの質問に彼はあからさまに嫌な顔をする。
「大分前からいたよ。猫は向こうで保護してるし、聞きたかった訳じゃないけどまぁ聞こうとしたのは事実だな。」
相変わらず不機嫌そうに、それでも全ての質問に答えてくれたことに驚いた。この人……冷たいように見えて、もしかしたらその顔が通常なのかもしれない? それなら、単純に見た目で判断するのは失礼な話だ。私もよく「怒ってる?」なんて言われることがあって心外なように、表情の微妙な変化に私が気づけていないのかも。
そう考え五十嵐をじっくり観察していると、不意に彼が私を見たのでバッチリ目があってしまった。なんて鋭い目付きなんだろう。ところが彼は衝撃なことを口にした。
「なんでそんなに、反抗的な目をするかな……」
そして何を思ったか徐に右手を持ち上げこちらに伸ばしかける。
ほとんど反射的に片足を引き、軽く腰を落として構えた。彼の手がぴたりと止まる。
「近づかないでください。……それと誤解があるようなので言っときますけど、別に反抗してる訳じゃありませんから。これが普通です。でも反抗的に見えて、それで不快な思いをしたのでしたらそれは謝ります。」
軽く首をかしげた五十嵐はやがてふっと笑った。
「お前は、鈴音のボディガードってわけか?なぁ、めい?」
……うわぁ。バレてんじゃんか。私は長い長いため息をついた。
「……なんでわかったんですか?」
目を丸くした鈴音が無邪気に尋ねる。
「……とりあえず戻るぞ。」
薄笑いで五十嵐は音もなく廊下を歩いていった。