電信柱の張り紙は
「世界を救う!?」
思わず大声を出してしまい教室中の皆の視線が痛い。私は声を抑え親友の正気を確認した。
「えーと、自分の名前、言える?」
親友であり幼馴染みの如月鈴音は微笑む。
「大丈夫だよ、別に変になった訳じゃないって」
そういう彼女の目をよく見てみるがいつにも増して自信に溢れているだけで特におかしくはない。気がする。
「もう1回説明してくれる?」
話の内容をいまいち飲み込めていなかった。鈴音は人目を気にすることなく楽しそうに語る。
「昨日、電信柱の張り紙を見つけたの。それによると、この町に世界を救う会の本部が設立されて、今会員を募集してる。だから申し込みに行くんだよ!」
「本気?」
「当たり前でしょ。私が本気じゃないことなんてあった?」
確かにそうだ。後先を考えず突っ走る鈴音に付き合わされる私の気にもなって欲しいが、とにかく何事にも本気で取り組んではいる子だった。だからこそ不安でもあるのだけれど。
「……その会は大丈夫なヤツなの? 怪しい宗教団体だったり、お金巻き上げられたりしない?」
いまどき電信柱に張り紙とか、その時点で既に怪しい。
「大丈夫でしょう。そんな人は世界を救うなんて言わないよ」
「いや言うよ? ん……むしろ怪しまれるから言わないかもしれない」
鈴音は頭はいいくせに楽観的すぎるし、興味のあることには猪突猛進、周りを見ない。簡単に言えば容姿だけいい変なヤツ。一方私、夜城楓はどこにでもいる平凡な高校生だ。そんな私たちがどうして親友になったのか、私にもよく分からない。
「それに、そういう時のために楓を誘ってるんじゃん」
変な信頼を寄せられている……。
「分かった、付き合うよ……。でも1つ、なんで急にそんなこと言い出したわけ?」
私が何を言ったところで鈴音の気は変わらない。そう判断し、今回もこの子に付いていてあげようと心を決めた。
「面白いと思わない?」
唐突の質問に首をひねる。
「こんな小さな国の小さな町で、どうやって世界を救う気なのか。私すっごく興味があって」
鈴音は可愛く笑う。まぁ、確かにその気持ちは分かる。
ただ、私は本当に救う気なんかないと思う。鈴音のようなバカをおびき寄せる誘い文句だろう。
「さ、早く行こ。」
私が何も言わないでいると肩をすくめ、さっさと教室を出ていった。残された私は皆の好奇の目に晒される。
「楓、頑張って!」
誰かからの声援(冷やかし? )を背中に受けつつ、先行く鈴音の後を追ったのだった。