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絵馬に願いを  作者: ニコル
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第2章 月明かりに照らされて

 子供の頃からこの道は存在していた、子供の頃から歩き慣れたこの道、この道が広いのか狭いのか、そんなことを考えたことなど今まで一度もなかった。

この道を大人になってしまった僕たち6人が横一列になって歩くことはもう出来ない。

そのことを強く願った人々は、彼らを照らしながら暖かく見守っているに違いない。


「さすがに酒を飲んでいるとき車を運転するのだけは、俺のプライドが許さないぜ」

徹にしては珍しく良識的な発言に、(こいつもやっぱり大人になったんだな)と友弘は口元を緩ましかけてが、

「前に乗っていた、親父のクラウンをここの電柱にぶつけて、こっぴどく怒られたんだろ?」と言いながら清治は、無数の傷とペンキの着いた電柱を蹴り付けた。

「まあ、おかげでGT-Rを買ってもらえたのだから、終わりよければ全てよしだな。」

徹はやっぱり徹である。

「何はともあれ、たまには歩くのもいいことだ、僕も車を買ってからあまり歩いたりしていないからな。友弘は向こうの町では車は乗っていたのか?」輝也の質問に対して友弘は

「いいや、車を買おうと思ってお金を貯めていたんだが・・・・・」そこに努が口を挟んで。

「なにも現金一括でなくても働いていたのなら、ローンで買えたのだろ?」

「それをするには親の印鑑がいるから、自立するにはそういったことから、自立しないと。」

友弘のこの意見に対しての反応はそれぞれ違っていた。

「そうだよなあ。」とうなずく輝也。

「金を貯めている間に、もっといい車が出るかもしれないしなあ」と努は腕を組む。

「親に甘えられるのも、親が生きている間だけなんだから、印鑑ぐらい。俺なんかは”親の跡を継ぐ”という親の引いたレールの上しか走れないのだから、自立なんて出来やしない」徹は少し感情的である。

好仁は無反応である。

「十人十色でいいんじゃない?」と清治が話を締めくくったのは目的地であるコンビニが目の前に現れたからである。

 「へぇ-、こんな所にコンビニが出来ていてのか。この町にもやっと文明開化到来だなぁ」友弘のシンミリとした発言を他の5人は呆れた様子で「はいはい」と流している。


 コンビニの内装は全国共通でほとんど同じであるため、初めて入店した友弘にも、どこの棚に何があるかはすぐに分かった。

 清治と友弘の2人は「これは旨い」、「これは不味い」とスナック菓子や惣菜を選別しながら、好仁の両手にぶら下げられた買物籠に情け容赦なく放りこむ。

 徹は徹でレジに立った目当ての女の子をくどこうとしているが、傍から見ればどうみても相手の女の子にうっとうしがられている。

 勤と輝也は2人並んで雑誌の立ち読みに夢中になっているところへ、買物の選別を終えた友弘達3人がニヤニヤしながら近付き、5人で何やらヒソヒソ話をはじめる。

 やがて、話が終わるとそれぞれが作戦行動を開始した。

好仁は両手にぶら下げた買物籠を友弘に渡し、他の3人と共に外に出る。

友弘は好仁から受け取った買物籠を持ってレジへ向かい、買物籠をカウンタ-の上に置いた。

 レジの女の子は「いらっしゃいませ」と笑顔で友弘が置いた買物籠の中の商品をレジに打ちだす、その笑顔の50%はビジネス・スマイルで残りの50%は徹の口説きから逃れるきっかけが出来たからであった。

 呆気に取られている徹の肩をポンと叩いて「後はよろしく!」と言い残して友弘も後の4人を追って外に出ていく。


 徹は結局レジの女の子を口説く事に失敗し無念と釣銭を財布に仕舞い込み、買物袋を両手にぶら下げて仲間5人の後を追って外に出るのであったが外に出たときに周りの異変に気付いた。

店の外には仲間5人を含む7~8人の首がまるで戦艦の砲塔ように、一点に集中されてた、徹は彼らの視線をなぞりそのタ-ゲットを補足することに成功した。

 彼らの居るコンビニから道路をはさんだ向には知弁学園の校門がそびえ立っていてそこから山の頂上にある校舎に向かってアスファルトで舗装された坂道がうねっていた、その坂道の上で事は起こっていた、必死で逃げ登ろうとする1人の人影その髪の長さからおそらく女性のものだと思われる。そして彼女に襲いかかろうとする5、6匹の野犬の姿。

 1匹の野犬が背を見せて走る彼女の足に飛びかかった、女性は寸前のところで左足を軸に振り向き際に右足で勢い良く野犬の鼻を蹴り付け、第1激を返り討ちにあわすことに成功したが、バランスを崩し倒れこんでしまった。

 そこへ二匹目の野犬が女性の喉元めがけ飛び掛かった、今度は左腕を盾に致命傷こそは受けなかったものの、野犬の牙は女性の左腕にしっかりと突きささってしまった、今度は彼女が悲鳴をあげた、そして右の手の平を野犬の顔にあてたその瞬間、彼女の手の平かそれとも野犬の顔かどちらかは解らないがそこから電気溶接の様な青白い光が放たれ、次の瞬間野犬は4、5メ-トル後方に飛びのき他の野犬たちと体制を立て直す、その隙に彼女はよろめきながらまた走りだす。

 これはきっと俺の見間違いだろう、本当はただたんに飼い犬が主人と戯れているだけでしかないはずである、仮に本当に襲われていたとしても俺達には全く関係の無いことである、俺は事無かれ主義なのだから厄介ごとは後免だ!。

 徹の思考とは裏腹に輝也と友弘はそれぞれ大げさな行動を取りはじめた。

友弘は「助けに行くぞ!」と一言いい残し知弁学園の中へ走り去っていった。

輝也はコンビニの前に設置された公衆電話の受話器を取り、落ち着いたしぐさで”1”、”1”、”0”のプッシュボタンを押して警察に通報していた。

 徹、清治、好仁、勤の4人は電話をしている輝也の周りに集まりそれぞれの思いを旨に電話に応対する輝也の言葉に聞き入っていた。

 「・・・ですから、ここは冬野のコンビニで」

 「・・・知弁学園で女の人が!犬に襲われているのですよ!」

 「・・・怪我の具合は?ったって、近くで見ないと解りません!」

 「・・・こちらの電話番号って、公衆電話ですから解りません」輝也はすこしずつイライラしはじめている。

 「・・・で?、結局何分ぐらいで、こちらに到着するのですか?」輝也は怒りを押さえるのに必死であったが、それも限界を越えてしまった。

 「30分近くかかるだと!、さっきからどうでもいい事ばかりクドクド聞いている暇があるなら!すぐに警官を出動させるべきだっただろう!、30分間も待っていてあの女の人が死んでしまったら、あんたら警察はどう責任取るのだ!」勢い良く受話器を叩きつけた。



 確か犬の習性は、「自分たちより多数の人間には攻撃を仕掛けてこない。」誰に教わったかまでは覚えていないが、野犬の数は多くて6匹、こっちは6人で助けに行けば7対6で勝敗は目に見えている。

 坂道を駆け上がりながら友弘は圧倒的勝利を確信していた、しかしながらその勝利を勝ち取る要素が満たされていないことに気付いたのは、ふと下のコンビニに目をやったときであった。

 輝也たち5人はコンビニの駐車場の車輪止めに腰を駆け、おのおのアイスクリ-ムやジュースを口に運びながらこちらに目を向ける様子もなく、笑顔すら浮かべて何やら話し込んでいた。

 暗黙の了解のもとに勝利は約束されていたが、暗黙の裏切りによって敗北が約束されてしまったのである。

 行くか戻るか?

その2つの選択肢は、ただ単に自分の足をどちらに向けて進かというあまりにも単純で日常的な行動によって決定される。だが、それによってもたらされる結果はあまりにも非日常的であった。

 坂道を下れば、全てを見なかったことにし、家に帰りみんなで宴会の続きをすればいい、そして今夜ここで野犬に襲われて人が死んだことを後々の話の種にすればいい。

友弘はその選択肢を放棄した、道端の花壇に刺された杭を引抜き左手でそれを脇腹に抱え込みながらまた坂道を登りだした。

 「僕もあの娘と一緒に死ぬのだろう」

 彼から”戻る”の選択肢を奪ったのは裏切った友人たちに対する嫌悪感か、それとも両親の死によって、生に対する執着が薄れたからなのだろうか。



「この力は使ってはいけない、人に見られてはいけない」

杉本理恵は、襲いかかる野犬をかろうじては払い除け坂の頂上にそびえる校舎の入口付近まで辿り着いたが、その身体は「無傷」という言葉とは全く無縁な状態であった。

 そして、坂道を掛けのぼった事と、”力”を使ったことによる過労で息も荒々しく立って歩くのも生一杯で、校舎のガラス張りのドアのノブにもたれこんだ。

 しかし、決して野犬の群れから理恵は逃れ切ったわけではなかった、背後から低いうなり声が迫っていることを聴覚が知らせている、彼女はゆっくりと振り返り、そして右手の手の平に再び気を集中さしながら、野犬達の攻撃に備えたとき状況の変化に気付いた。

 彼女の視野の野犬の後ろに人影が写ったのだ、その人影は身長180cm位の男性のもので歳の頃は二十歳前後、そして何より彼の手には木の棒が握られていた。

彼の登場に対して対応に迫られたのは理恵ではなく、野犬達の方であった、しかし野犬たちはその対応を間違えた。

 それは野犬たちは彼の方に振り向き低く構えながらうなり声をあげ威嚇したことであった。そう、この時すでに友弘は捨身でいたからである。

 友弘が振り降ろした杭は一番手前に居た野犬の頭部に命中し、頭蓋骨が割れる鈍い音と「キュウ!」という野犬の断末魔が校舎の壁に響きわたった、残された5匹の野犬たちは一時的に戦意を失い後退りしながら左右に散らばってゆく、

「怪我はないですか?」友弘は両手で握り締めていた杭を再び左手で抱え込み、空いた右手の手の平を少女に差出してから、自分の発言のおかしさに気付いた。

 なぜなら、目の前にいる少女の手足には野犬達の爪や牙の痕がくっきりと刻まれており、そこから流れだす血液は彼女の白いワンピースの所々を赤く染め直していたからであった。

 友弘の発言は言葉としては欠落していたものの、彼女を気遣う意志の表れとしては十二分に効力を発揮していた。

 今さっきまで恐怖と緊張に硬張っていた彼女の顔はほどけ、代わりに笑顔が表れ、その口元から、

「おかげさまで、嫁入り前に傷モノにならずに澄みましたわ。」と冗談が吹き出された。

 その言葉を切っ掛けに友弘自身も、緊張と恐怖が沈静化していくのを感じ取り、そして、多分きっと、口元に笑顔がもどっているのだろう。彼は精一杯の暖かい目を作り、そして精一杯の暖かい言葉を彼女に対して投げ掛けようとしたものの、どういう言葉を投げ掛けるべきか、その言葉は二十歳を越えたばかりの彼の思考ル-チンにはまだインストールされてはいなかった。

「また襲ってくるかもしれないから、中に入ろう。」

ガラス張りのドアを空けてから、少女に肩を預けた、その動作は一見ぶっきらぼうで、少女の血液で自分の着衣が汚されるとを懸念するがごとく思われるが、本当はただ単に女っ気のない環境で育ったために女性と密着することに対して抵抗を感じているだけであった。

(僕はただ単に、怪我をした人を助けているだけで、別にやましい気持ちなど持っていないんだ)それは、こういうときに徹が側にいれば必ずするであろう冷やかしに対する言い訳であったが、今回はその冷やかしてくる人物はいないのである。その事実は彼にとって決して喜ばしいことには成り得なかった。

 とにかくこの子を安全な所に連れていかなくちゃ、ここは学校なのだから保健室に行けば手当てが出来るだろう


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