1話 黄昏の騎士
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夢見たの内容を物語にしてみたいと思ったのがそもそもの始まりです。
良かったらページ下までお付き合いして下さい。
かつて、辺境の小さな村が野良神機に襲われた。
召喚神機とは召喚師と呼ばる者が自ら魔力や代償を用いて契約する戦争兵器である。
戦争の直後ならば契約者が戦死した為に統率を失った召喚神機が人や村を襲う事は珍しくない。
しかし、ここ何十年間はどこの国も戦争を行ってはいなく、突破的に発生した人為的災害と片付けられていた。
GUWAA~
獣の四肢に禍々しい蛇の頭部した牙狼型が7機、4メートルを超す巨体に,猛々しい牛を模した頭部の砲撃型が1機、計8機の群れを成して村に攻めて来たのである。
辺境の小さな村には警備のために皇国の兵隊は僅か10人しか配備されておらず。ガイーシャ皇国では召喚神機の1体は人間の10人分の戦力とみなし、野生神機の討伐でも必ず召喚師を組んだ部隊編成をする。
辺境の村にとってはまさに天災であった。しかし、その天災は一人のある老人によって人知れず未然に防がれた。
老人の名はマーカスと言い、享年63歳で俺の祖父に当たる。
いつも「夕飯はまだか~?」と言っていただけの、普通の老人と思っていた。昔は皇国の凄腕の召喚師だったと言っていたが、戦争をしらない子供たちは誰も祖父の召喚した召喚神機を見たことがなかった。
子供たちは皆で祖父の事を法螺吹きと馬鹿にしていた。
俺自身も最初は祖父を召喚師と本当に信じていたが時が経つにつれて俺自身も祖父の事を法螺吹きと諦めていた。
当時の事はあまり覚えていない。
村人はただ逃げ惑うしかなかった。
少年も父、母ともに逸れてしまい好奇心が大勢だった俺は野生人機を見たいがために一番危険な村の城門まで見に行ってしまった。城門はまだ破られてはいなく、皇国の兵隊は村人が避難する時間を少しでも稼ぐために絶望的な悪足掻きしようとしている。
「くっそ、射撃訓練をしっかりやってれば良かったぜ!」
「隊長、後10分ほどで野生神機と遭遇します。」
伝令の言葉を聞いた隊長らしき中年は部下達に対して「絶対に生き残るぞっ!」と短く宣誓した。
隊長格の男と目が合う。
「早く逃げなさい、ここはもう直に戦場になる。危ないから、さぁ、逃げなさい。」
優しく背を押す手は、ゴツゴツと硬たかったが暖かかった。
子供の俺は祖父が召喚師である事を思い出した。
祖父は召喚師ではないのか、そうだ祖父の召喚神機があれば村を助けれるのではないか。
今まで村の子供たち共に散々に祖父を馬鹿にしてたのに危機が迫ると俺は祖父を頼ろうと考えた。なんて短絡的で滑稽なのだろうか、後にその時の選択を俺は一生後悔することになる。
城門から道をまっすぐ進み自宅に向かう。
村の中では一番大きな建物が俺の自宅である、祖父はいつも通り中庭の揺り椅子で暢気に昼寝していた。案の定、逃げ遅れているのが幸いした。
「じぃちゃん、助けてよ?村が野良神機に襲れているんだっ。」
呼吸を整えていると、祖父から返事は返って来ない。
「はえぇ、何だって?」
「だから、村が襲われてるんだって!」
俺の必死な物言いも祖父には通じない。
「はえぇ、ご飯の時間なのかえ?」
後悔した年寄りの法螺を信じるんじゃなかった。
期待した俺が馬鹿みたいだ、最後の最後に自分の祖父が本当に召喚師だと信じたかった。
幼少時代を思い出だ…。
同年代の子供たちに祖父が法螺吹きと馬鹿にされ、嘘を証明するために祖父に召喚神機を見せてくれと懇願した時の記憶だ。
「じぃちゃんは、凄腕の召喚師なんだろ?召喚神機を見せてくれれば皆に皆に馬鹿にされないのに何で見せてくれないの?」
「すまんのぅ、もう見せれんのじゃ……。」
「何でだよ、何で見せてくれないんだよ。これじゃ、本当に法螺吹きじゃないかっ!」
「本当に、すまんのぅ。」
「法螺吹き、嘘つき、今まで騙して、くそぉぉぉぉぉっ。」
俺は祖父から逃げように走り去り、すれ違い際祖父の本当に辛そうな顔を一生忘れないだろう。以降は、法螺吹きと祖父の事を思い込み信じられなくなった。
「わかった、俺だけ村を守りに行くよ。じぃちゃんは危ないから逃げてくれ!」
庭に掛てある鉄鍬を握り締め走り出す。
「俺が村を守るんだ。」
※
「もう、いいじゃろて……。」
走り去る孫の姿は、昔の自分たちを見てる様で眩しかった。
召喚神機は人間には倒せない。
それがわかっているから皇国で身分の高いものは皆召喚師である。孫が向かった所で、召喚神機に無惨に殺されるだけであろう。
「どっこいしょ。」
昔に比べて身体は鈍く、最近では歩くのもこの杖がなければ不自由に感じる事の方が増えた。
「孫に相棒を見せてやれるのもいいだろうて、聞いてるのう相棒や?」
誰に向かって話したのだろうか、老人は何事もなかった様に杖を片手にゆっくりと立ち上がり自室へ足を運ぶ。
「どこ、じゃったかのう?」
大事に閉ってある木箱から、ただの村人が着るには惜しいほど豪奢な青と白の礼装を手に取り老人は物思いに更ける。
この礼装は皇国で高位の召喚師しか袖を通す事ができない。
かつて幾度となく相棒と修羅場をくぐり、命を危機に晒して戦う時には常にこの礼装を着て挑んだ。
この礼装に袖を通すと言う事は覚悟をしなければならない。
もう10年近く、召喚師として戦う事から離れていたからだろうか覚悟が鈍る。いつまでも来なければ良いとは思ってはいたが、孫の命が懸かっているとなれば諦めは出来る。
「召喚師になったは良いが、つくづく波乱に満ちた人生だったわい。じゃぁ、孫に良い所でも見せてやろうかのぅ、相棒や?」
また、独り言だろうか?
先ほどとは違い、どこからともなく古びた歯車が軋む音色が静かだった室内にこだまする。
GIIIIIIIIII~
言葉に反応するように老人は会話する。
「相棒もやる気で何よりさね、さぁ戦争の時間じゃのう。まずは、礼装を着ないと始まらないのぅ。どこに袖を通すのじゃったかのぅ?」
GIIIIIIIIIIIIII
「相棒よ、ボケてなどないわい!」
GIII~、GIIIII~
「着方をど忘れしただけじゃて、暫く会ない内に性格が悪くなったんじゃないかのう。」
Gi~
まるで恋人かまた兄弟か、身近な者であるかな様に会話が続く。
※城門前では
「くそ、ツイてないぞ。」
警備隊長であるボブ・ロックは自分の運のなさを嘆いていた。
彼は元々は都心部の出身である。
何故、こんな辺境にいるのかと言えば自分の上官が町娘に悪戯しようとしたのを殴って辺境に左遷されただけである。
しかも、辺境での任期が残り1ヶ月だと言うタイミングで野良人機が群れを成して襲って来るほど凶運の持ち主である。
そんな彼だが正義感溢れる姿勢は部下達から絶大なる支持がある。
「隊長、敵影補足しました。数は牙狼型3機、いや、後続が4機で計7機であります。」
その数を聞いた瞬間に勝てるのかっと思うしまう。
「誰でも逃げれるものならそうしたい。」
だが、こんな辺境に野生神機が現れるはずがない。基本的に召喚神機は召喚師と契約をして初めて異界から地上に現界が可能になる。
野生神機がどうして生まれるのかは簡単だ。召喚師が何らかの事情により死亡した場合に、契約が継続されたまま現界し、魔力を補給するために生物で一番に魔力の保有率が高い人間を襲うのだ。
ブルリと震える……
野生神機に人が襲われた事を想像して欲しい。
文字通り人間を食らうのだ、食らわれた人間は悲惨である、生きながらに自分の身体を噛み砕かれるのだ。
堪ったものではない。
「よし、セオリー通りに対神機銃の
迎撃で城門を守るぞ。運良く、牙狼型は分散している。我々は先行する敵に対して集中放火による各個撃破する。な~に、この人数で守りきれば我々は英雄だぞ!」
普通の武器では異界鋼で覆われた召喚神機の装甲は貫けないが、破壊した召喚神機の残骸から造り上げた銃弾であれば効果はある。
それに篭城し数以上の優位が取れ勝算ある。
「「「「おおおおお。」」」」
士気も十分に高い。
「一発、一発では効果が弱い。なら一斉に1機だけに集中放火をあびせる。まず先行している3体の内、一番右から、次に中央、次に左だ、各員、打ち方用意ぃ~!」
兵士、一人一人が狙いを定め、今か今かと隊長の合図を待つ。
「まだだ、まだだ、よし今だ。各員、撃てぇ!」
ほぼ一斉に一番右の先行している牙狼型に集中放火を浴びせ10発中5発を命中させ爆散させる。
粒子となり消滅したのを確認する前に、隊長は次の命令を下す。
「次点用意、中央撃ち方用意ぃ~、撃てぇ!!」
一子乱れぬ射撃は中央の牙狼型を見事に捉え、ほぼ全弾命中し爆散させ錬度の高さが窺える。
「次点用意、撃ち方用意ぃ~、撃てぇ!!!」
一番左の牙狼型は前の2機が破壊されたの知覚していたため、回避する事が出来たが、四肢のうち2本を破壊され身動きがとれず無力化される。
流石に、兵士たちも自信が付いて来たのか彼から笑みが零れ油断してきたところを隊長が叱咤する。
「油断するなよ、まだ終わってないぞ。」
3体目を倒した直後に兵士の一人がが叫ぶ。
「敵映捕捉、数は1機が此方に来ます。」
後方を見ると、重量を感じさる巨体が一歩一歩と歩みを進めるたびに地面がズシン、ズシンと軋むのである。
ズン……
ズン……ズン……
その足音は、村から非難をしている村人全員が耳にする。
「あっあれって、大型級じゃないのか?しかも砲撃仕様…。」
近くにつれて外見がはっきりする。
4メートルを超す体躯に闘牛を彷彿させる頭部、右肩に長距離用の砲台らしき装備が黒く不吉に光りる。
対峙するすべての者に恐怖を感じさせ、その姿が不自然に前進する事を止め停止した。
「逃げぇ……ろっ!」
危険を察知し、叫びはしたが声は届かずに爆音と共に櫓にいた2人の兵士は砲撃型からの砲弾により一瞬にして死体に変わる。
ーー!?ーー
それは見た仲間の兵士の叫び声を合図に、戦場が地獄に変わる。
「姿勢を低くしろっ!!!連射は出来ないかもしれない。」
人間と召喚神機との戦力差がはっきりと証明さるてしまう。指示を見越されている様に砲撃型から数秒感覚で砲弾が連射され、城門は一瞬にして半壊する。
「「うわぁぁぁ~。」」
叫び声の方を確認すれば、砲弾が直撃した城門の亀裂を食い破らんと牙狼型が城門に張り付き穴を広げる。
「城門を死守しろ!そこが破られたら一貫の終わりだ。」
隊長の命令は効果がなく、一体、また一体と亀裂に城門に張り付く牙狼型は増える。対神機銃では威力が大きく城壁の上からでは城門ごと破壊しかねない。
もう駄目かも知れない、兵士全員が覚悟したその時だ。
Gyawwwn
亀裂に張り付いてる一機の牙狼型が吹き飛ばされる。
「えっ、援軍なのか?」
その姿は、この戦場に置いて異質であった。
先ほど追い返した少年が今度は農具で武装し、城門の内側から野良神機を吹き飛ばしたのだ。
それを、隊長は見逃さなかった。
チャンスとばかりに、吹き飛ばれた牙狼型に狙いを定め、対神機銃で頭部を撃ち抜き破壊する。
少年と隊長格の男は互いに黙って頷き隊長は味方を鼓舞する。
「まだ終わってない。心強い援軍が来た諦めるなよっ!」
「「「おぉぉぉ。」」」
心折れかかった兵士達は落としかけた武器を拾い上げ、まだ戦えるとばかりに雄叫びを上げる。
兵士たちは少年の働きに呼応されるように士気を取り戻す。
ズガーン、ズガーン
砲撃型がそんな彼らの足掻きを笑い飛ばすかの様に攻撃を再開する。
ズガーン、ズガーン
「隊長、この砲撃じゃ狙いが定まりません。」
「見ろ?牙狼型たちにも砲撃が当たって同士討ちしてるぞ。」
数発の砲弾に捲き込まれ様に牙狼型が爆散する。
野生神機も徒党を決して組んでる訳ではないく、これならば勝算はあるだろう。不安を誤魔化す様にお守り代わりに内ポケットに仕舞い込んだ町娘から手紙に触れる。
「手紙の返事を出すまでは死ぬに死にきれない。」
「絶対に村は守ってみせる、僕は召喚師の孫なんだ。」
少年のやる事は簡単だった。
城門の内側から勢い乗せ亀裂を食い広げている牙狼型を城門から吹き飛ばすのだ。鋼鉄より硬い、異界鋼の装甲は異界の物質である為非常に軽い。
1メートル前後の牙狼型でも重量は30kgぐらいしかない。
そのため、子供でも勢いを付けて突進すれば傷つける事は出来ないまでも吹きとば事ぐらいは出来るのだ。
「うっりゃー、村から出ていけっ!」
少年は高揚していた。
兵士たちと一緒に戦い、頼もしい援軍と呼ばれた自分は英雄にでもなったような気がして恐怖を感じないほどに酔っていた。
ーー!?ーー、世界が白一色に染まる。
ズっズガーーーーーーン
耳鳴りが続き、今もまだ何も聞こえない。
視界が戻った時には城門は見事に崩れ落ち、砲弾の余波に捲き込まれた兵士たちは未だに起き上がる事が出来ず、地面投げ出されている。
「何がどうなって、僕は召喚師の孫で特別なんだ…うっうえェ~。」
先程までの高揚感は一瞬にして無くなり、血との砲撃特有の硝煙の匂いで思わず嘔吐してしまう。
「うぁ~、足が足がっ。」
「くそっ、来るな俺は餌じゃないぞっ。」
「助けてくれ~、痛てよ。」
散々たる地獄絵図である。
現状を引き起こした砲撃型は、この結果に満足したのか、鼻、背中の排気口から大量の熱を放出しする。それは次の砲撃をするために必要な動作なのか徐々に、砲口に粒子が収縮していき光が次第に大きく膨らむ。
「また大きいのが来るぞっ、少年、城門から離れろ!」
隊長の言葉、少年には届かなかった。
「早く、逃げろっ。何してる逃げろよ?」
少年は目尻に涙をいっぱいに貯め首を横に振る、恐怖による震えなのだろう指一本動かせていない。
「くそっ、待ってろ俺が助けにいく。」
子供を自分より先に死なせたとあっては先に死んだ部下達に会わせる顔がない。ボブ・ロックは平民の出身であり、子供の頃に大空を駆ける召喚神機の召喚師に命を救われ自分も召喚師になりたいと憧れた。
だが現実は召喚師に必要な魔力量が既定値を下回り、仕方なく軍人になったのだ。だからと言う訳ではないが、俺も誰かを救える様な人間になりたいと渇望した。
「間に合ってくれ!」と心の中で呟きながら少年に向かって必死に駆ける。
ズっズガーーーン、バラバラ
間一髪であるが隊長は自分の身体を使い少年を包み込むようにし転がった。奇跡的に少年の身体には思い立った大きな怪我を追わなかった。
「だ、大丈夫か、少年?」
「だっ大丈で…す。えっ!?」
少年の外傷がなかったは彼が身を呈して庇ったからだ。
庇たった代償に隊長の右目には大きな縦の傷が深々と切り刻み込まれ、左腕は墮らしなく垂れ下がり、背中には木材の欠片が複数刺さり、まさに虫の生きである。
「お、おじさん。僕を庇ったせいで…。」
「少年、気にするな。子供を守るは兵士の義務ってもんだ。でも、痛ぇっ。」
カラっした笑みを向け、それが逆に少年の恐怖を一瞬和らげた。
「おじさん、動ける?逃げようよ…。」
隊長は歯を食い縛り体を起こす。
立ち上がろうとするが途中で諦めて、後ろを振り返り首を横に振った。
「少年だけ先に行けっ!決して、後ろを振り返えらずまっすぐに走れ!」
「何でさっ?おじさんも一緒に逃げよう。」
「俺はこの警備隊の隊長だ。隊長が部下より先に撤退していいはずないだろ?それにな、動ないんだよ右足が…。」
「ぇっ、僕のせいだ。」
ズドーーーン
爆発音と共に牙狼型が、負傷してる兵士に次々と飛びかかり、動けない獲物を楽しむ様に貪り虐殺を開始したのである。
「うぎゃぁ、助けてくれ。」
「死にたくない、死にたくない。」
「今、助けにいくぞっ、うっうわぁこっちに来るな!」
まさに生き地獄である。
10名いた隊長の部下達は死体すらも残らず全て野生神機に食い殺されてしまった。
残った野生神機たちは少年と隊長を取り囲む様にし包囲する。
まるで砲撃型の到着を待ち、餌として献上するための贄であるかの様だ。
二人は動く事が出来なかった。
目の前で繰り広げられる悪夢に目を背けたくても、兵士たちの叫び声が、牙狼型が何かを噛み砕く音と共に聞こえる水しぶきが彼らから動く事を放棄させるには十分であった。
ズン・・。
その歩みは死神の足音。
ズン・・。
その歩みは止まらず、決して人類には敵わない強者だと思い知る。
ズン・・。
聞こえるはずの足音が止まる。
…………。
援軍が来たと誰も思わなかった。
この状況で覆る戦力はこの辺境に存在しない、自分の判断がこの少年を巻き込んでしまった事だげが心残りだと後悔し瞳を閉じる。
カツ・・カン。
絶望の象徴であった足音に代わり、静寂に不可解な福音は響く。
カツ・・カン、カツ・・カン。
それは確かに人間の足音だった。
ゆっくりと確かな歩みで杖をついているためか、これ以上の速度で歩く事が難しいのだろう。
少年は涙を抑える事は出来なかった。
「じぃ、ちゃんが来た。」
目の前に現れた老人の姿に自分の目を疑った。
見間違えではない。
いや、あの老人が着ている礼装はガイーシャ皇国が誇るの最高峰の召喚師しか袖を通す事が許されない皇国近衛騎士の制服だ。
「ギリギリで間に合ったようじゃの。」
彼がやって来ただけなのに誰もが動く事が出来ない。
それほどまでに彼が出す重圧波は凄まじく牙狼型の若い個体だけが凄まじさを理解できずに飛び掛かる。
「じぃちゃん、危ないよ。」
次の瞬間、少年は目を潰り自分の祖父が牙狼型に食い殺される姿を想像したが結果は違った。
飛び掛かった牙狼型は運悪く満足な食事が出来なかったため、上位個体に餌を献上しなければならない現状に、いたく不満があったのだろう。新たに現れた餌ならば自分が食べてもいいのだろうと、そう判断したのだろう。
牙狼型が新たに表れた獲物に飛び掛かかる、魔力が滴る血肉を噛みしめる未来を想像し口元から涎を零す。
ガッキィィーーーーーーーーン。
衝撃が止むと、そこにはバラバラと音を立てて粒子となり、現界を終える牙狼型の姿があった。
「いったい、何が起こったの?」
少年には聞こえた、軋むように動く歯車の音とが……。
「せっかちじゃのう、食事の時間かぇ!」
老人は幾度なく唱えて来た契詞を唱える。
幾億万の縁から、自分の相棒をこの世に現界させるために、
~ 深海の渦より生まれし我が縁よ ~
祖父の周りに青白い契約陣が3つ浮かび上がる。
~ 汝は我が剣、我が盾、鎖に縛られぬ自由を糧に解き放つ ~
徐々に契約陣の光を激しく灯す。
~ 封印の鎖を解き放ち、ここに顕現せよ ~
隊長が懐かしい名前で呼んだ。
「黄昏のきみ……。」
光の粒子を散りばめて、顕現したのは全長5メートルの体躯を翻し、硬い銀色の鋼殻に覆われた一角銀鮫である。
全体的に無機質で滑らかなフォルムではあるが、可動部からあがる蒸気にも似た異界臭を噴出しながら空宙を旋回する様は、まるで生き物の様に美しい。
GIIII~
一角銀鮫は優雅に祖父の周辺を旋回し守護するように敵に目掛けて威嚇する。これに対して牙狼型は威嚇の意味を込め遠吠えを上げる、続いて別の個体が2回目の雄たけびを上げようとするが、それは叶うことはない。
前方に白銀の衝撃が走る。
牙狼型の個体の1機は突如、首から先が切断され現界を静かに追える。
「えっ、何が起きたの?」
少年に見えたのは、召喚神機が空宙を優雅に旋回している状態で牙狼型を切断したと言う結果だけが理解で来た。少年の言葉を聞いた隊長が私も良くわからないが、これだけは知っていると先程まで瀕死だったのに今では息を吹き返したように興奮し補足する。
「あれが、ガイーシャ皇国が誇る最強の盾にして、最強の矛である皇国近衛騎士団だ。」
「王国近衛騎士団、じぃちゃんが言ってたことは本当だった。」
頬が赤く熱くなる。
少年は興奮していた初めて死を覚悟した体験よりも、憧れていた召喚神機の美しさに見惚れていた。
祖父の号令と共に、銀鮫が空を泳ぐかのように突き進む。
「キャンキャンと、五月蠅いのう。喰い散らかせ、一角銀鮫!」
牙狼型が逃げようと走り始めたが、後方から突貫した白銀の一角に胴体を串刺しにされて砕け散る。
瞬く間に形勢を崩され逆転せしめた強者の登場に砲撃仕様は初めて恐怖した。あの召喚士され居なければ何とかなるのではないかと思考しすぐに行動に移す。
ズッガーーーーン
少年と隊長の顔が絶望に変わる。
城門をも破壊せしめる砲弾に人間など耐えれるはずはないと普通は考えるだろう。
しかし、爆炎から現れたのは無傷に見える祖父の姿であった。
旋回している一角銀鮫と祖父とは距離が離れており牙狼型を1体、また1体と確実に殲滅しつつある。
「何で無傷なのっ?」
俺の質問に祖父が嬉しそうに答える。
「お前にも見えるじゃろうって。よう、しっかり見てみい。」
「何も見えないよ?」
本当に何も見えなかった。
祖父は戦闘の最中に何か伝えようとしているのだろう。
もう一度見えないと俯くが祖父は優しく笑い導く。
「何か、聞こえるじゃろう?」
「何にも見えない、何にも聞こえない。」
「よう、耳を済ましてみい?」
自分の周辺に何か感じるものがあった…。
その時、俺の中で初めて歯車が動きだす感覚が動き出す。
変化は突如あらわれた。
「聞こえる、音が聞こえるよ!」
今度は歯車が軋み回る音と、鎖の擦れる音が聞こえると言うと語弊があるが……しっかりと感じるのだ。
祖父の周辺から鎖の擦れる音が微かに聞こえ、本能に従い自分の瞳を閉じる。再度を瞳を開けば祖父を中心に円錐形の様に鎖が流動し主人を守るかの様に守護している。
「凄い、凄いよ。鎖が見えるぐるぐる回っている。」
ズドーン、ズドーン
砲撃型が祖父に向かって連射で攻撃するも、未だに傷一つない姿に痺れを切らしたのだろう。物凄い質量を持って直接攻撃するために祖父に向かって突進し振り上げた剛腕が肉薄する。
ドーーーン
僕の直ぐ隣を砲撃型の肘から先が、まるで鋭利な物で切り裂かれた様に切断され吹き飛ばされる。
「うわぁ~。」
「相棒よ、孫を巻き込まないでくれるかのう?」
GIIII~
まるで笑って誤魔化している、そんな鳴き声である。
鎖の守護も突き破りそうな砲撃型の一撃は、祖父の一角銀鮫の一角に切断された。
最早、攻撃手段を全て失った砲撃型は本能に従い負けを認めて不様に退却する。
ぎっギギギ……
不自然な事に砲撃型は反転すると一向に微動だにしない。
「無理じゃよて。いくつもの鎖が身体に巻き付いて身動き出来んようにしておる、儂らは不可視領域と呼んでいる終わりにしようかの。 やれっ、一角銀鮫。」
祖父の号令を受け一角銀鮫が頭上をまるで告死鳥のように空宙を優雅に旋回する。砲撃型は僅かに動かせる首を動かし頭上から一直線に突貫するのをただ見詰め事しか出来なかった。
砲撃型が粒子となり、現界を終える。
昇華とは、顕現した召喚神機がこの世で蓄積させた魔力を異界には持って行く事が出来ないため……地上に返還する時に起こる現象である。
この光景を見た幾日もの賢人たちは皆、口を揃え言う。
魂の昇華と……。
人間の魔力や生命力を糧に顕現する召喚神機の昇華とは目に見える形で人間の魂が知覚出来る奇跡である。
「ぐすん、ゴメンな。皆、助けてやれなくて…、うわぁああああ。」
この場合は野生神機に殺された兵士たちがまるで天に登って行く隊長にはそう思えてならないのであろう。
「うわぁー、綺麗だ。」
召喚神機の粒子が、キラキラと夕日に向って昇華する様はまるで、流星が流れる様に一瞬で刹那的である。
「やっと……、終わったかのう。」
Ggii~
「今まで本当に良く尽くしてくれた……。才能ない儂の契約に従い50年、変な縁ではあったがのう。」
Gi~gi~
「相棒との出逢いがなければ皇国近衛騎士にも成れん様な才能のないただの若者で生涯は終わっていたのじゃ。」
Gi~gi
「そうか、そうか。儂が人間でなければ添い遂げていたか…。このと歳になって求婚されるとは、いい土産話が出来たわい。なーに、覚悟は……出来てる相棒の手で一思いに頼む!」
Giii~gii~
まるで少女が泣き叫ぶような歯車の軋む音色を上げ、近付く祖父は昔を懐かしむ様に一角銀鮫の背中を撫でまるで最後の抱擁の様だ。
次の瞬間、俺は言葉にならないような声はあげた。
ーーー!?ーーー
一角銀鮫は後ろに後退すると、今度はそのまま前進すり。すると、自身を象徴するかの如く鋭利で美しい一角が祖父の心臓に目掛けて突き刺さる。
ー グシュ ー
地面に、ポタポタと赤黒い染みが出来るが、不思議と血は光の粒子となり昇華される。
「ぐふっ、かっぁ…相棒のう。心臓を一突で終わらしてくれると思っておったのだがのう。めちゃくちゃ、痛いのじゃけど。」
Giii~
心臓を一突きで終わらせようとしたが、最後の最後で手元が鈍ってしまった。彼女にはもう一度、老人に角を突きたて命を奪う覚悟はない。少しでも彼を苦しめないように彼女は突き刺した状態から動けない。
「何で、何でなんだ一角銀鮫?お前はじぃちゃんの召喚神機じゃないのか?」
普通の召喚神機は契約で縛られるので召喚師を襲う事は絶対にない。才能のないものは上位の召喚神機と契約するために、回数制限を付け、自身の魂、肉体、血、髪の毛一本まで捧げなければ契約出来ない程に彼は召喚師として欠陥があったのだろう。
「いいんじゃよ。これが儂らの契約じゃて、ここまで卑屈に成らねばやって行けぬ程に儂には才能がなかったのじゃよ。」
「じゃぁ、何で呼んだんだよ?呼んだら、死んじゃうんだぞ…。」
祖父は言わなかった孫の為に呼んだと、お前を助ける為にこの命を捧げたと…、少年にはその沈黙が何より堪えた。
「ゴメンなさい…ゴメンなさい。ずっと、法螺吹きと……信じられなくて、ゴメンなさい。」
「いいんじゃよ。最後にお前さんに召喚師としての儂の晴れ姿を見せれただけで満足じゃて。そうじゃ、儂の姿はカッコ良かったかのう。」
「カッコ良かった。俺も、じぃちゃんみたい……。みたいな召喚師になりたい。」
時間の残りが少ないと示す様に、傷口から溢れる昇華が増す。
「ぐふっ、時間が…時間がないのう。相棒、スマンがお前との縁が欲しい。」
Gii…
祖父の言葉を理解した一角銀鮫は最後の力を使い果たし白銀の粒子となり現界を終える。
「これを使えば相棒と契約出来る…、考えてから使うのじゃ…。あぁ~、祖母か迎えに来てくれたのか…わ、しは守った……。」
祖父の目から光が消え、身体から血に至るまでこの世にあった彼を残す証は事ごとく昇華される。
「行かないで……。あっ!じぃちゃんが消えちゃう。」
霞みを掴むように粒子に掴みかけるが手の隙間から溢れ昇って消える。
「うわぁぁああああ~。」
残ったのは穴が空いた青と白の礼装と、祖父の命を奪った白銀の一角だけである。
「召喚師になりたい、祖父のような立派な召喚師に……。」
この瞬間、辺境の村に一人の召喚師を目指す男が誕生した。
少年がどの様に召喚師として活躍してくかは別の話で語ろと思う。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
次回予告
召喚災害から6年。
15歳になった少年ルーカスは祖父の形見の白銀一角を携え、召喚師になるため皇国にある召喚師を育成する学院へ1人で旅立つ。
途中の道のりで、近くの都市に訪問に向う皇女様の一団と旅を共にしてしまい、何やら皇女様の命を狙う連中も現れ事件になる。
主人公は一角銀鮫と再会する事は出来るのだろうか?
次回、来い!アーケロン。
絶対見てくれよな?(戦闘民族風)
⬆本編とは簡潔ありません。