後編2
切るところがなくて長くなってます汗
よろしくお願いします。
「アル?どうしてそんな・・」
なぜ幸せそうじゃないのだろうか。いやわかっている。ここにきてわかってしまった。
・・皮肉なものだ。アルが幸せなのを確認するために来たというのに。アイナさんと幸せそうにしている姿をみたら、そんな想像をして覚悟してきたのに。
「はっ!自分の従者に縋るとはみっともないな。」
「・・・いいえ、今のアルヴィンは私の従者ではありませんわ。」
「そうですよぉ!フレドリックさまぁ、私が・・怖かったけど、頑張ってアルヴィンさまを悪役れいじょ、コホン、マリアナ様から解放したんですぅ。」
「そうだったな。」
誇らしげに、嬉しそうに、周りの男たちに言うアイナさんをフレドリック殿下をはじめとした全員が褒める。・・なんだこれは。わたしは!わたし、が、何の為にアルをアイナさんに託したと、
私といるとアルが幸せになれないっていうから。アイナさんがアルを幸せにしてくれると言ったから。信じて、希望をもって託したのに。
・・・ふー。落ち着くために一度深く息をついてからアルを後ろにかばうような体制をとってアイナさんに向き直る。認めたくないが分かってしまったのだからしょうがない。アイナさんは自分を可愛がってくれる、愛してくれる男たちで作られた逆ハーレムの中にアルをいれたかっただけだ。そしてアイナさんは・・・・、『転生者』だ。さきほど私をマリアナと呼ぼうとして『悪役令嬢』と言いかけたから間違いない。悪役令嬢なんて単語、この世界の人の口から出てくる言葉じゃない。
考えれば私という転生者がいるのだから、ほかに転生者がいたってなにも不思議ではない。それに私はもう前世のことは前世のこととして整理をつけて完全に今の自分とは分離させているがどうやらアイナさんはそうではないようだ。
別に前世を切り離せと、今世は今世として生きろと、いうつもりなんてさらさらない。そんなのどうするかは自分で決めることだから。・・・でもはっきり言って私が理解したとおりだとしたら、アイナさんは最悪だ。
私を悪役令嬢と呼んだこと。アルへの扱いがまるで奴隷だと言ったこと。大勢の前で私につっかかってきたこと。見目がよくて位の高い男性たちでつくった逆ハーレム。いくら私でもわかる。縁がなかったおかげですぐにはピンとこなかったがこれは・・・アイナさんが主人公の『乙女ゲーム』。私からアルを手に入れ、殿下たちに私を悪役だと認させたことで余裕ができてぼろがでてきたのだろう。
・・それが分かったなら絶対に、絶対に。アルをアイナさんのもとから連れ戻す。アルを逆ハーレムの一人になんてさせてたまるものか。こんな前世のことを現実に混同させて、まるでゲームのように楽しんでる人のもとになんて絶対にやらない。私はどうなってもいい。絶っ対に、連れ戻してやる。
「アイナさん。」
「きゃ、・・怖いですぅ。」
「大丈夫だよ、アイナ。安心して?」
「お前先程はアイナに様付けしておいて改めるとは。やはり虐めていたようだな。」
「アイナさん。私は悲しいですわ。」
うるさい取り巻きたちは無視してアイナさんだけに話しかける。
「な、なんでですか?」
「アイナさんに嘘をつかれたからですわ。」
「嘘・・?」
「アイナさんは私に言いましたよね?・・アルを私が幸せにするんだと。」
「勿論です!私が今までマリアナ様に虐げられてきたアルヴィン様を幸せにするんです!」
「さすがアイナだな。マリアナと違って本当に誰にでも天使のように慈悲深い。」
こいつらはいちいち私を引き合いに出して貶さないと話せないのだろうか・・?でも今のアイナさんのセリフでアルを取り戻す糸口は見えた。・・・私がこの部屋に来てからずっと暗い瞳をしたままで、アルは一言も話さない。でも大丈夫。大丈夫だから。すぐに私が幸せになれるようにしてあげるから・・。だから待ってて。
「ええ、私もその言葉を信じていましたわ。だからこそアイナさんに言われるままにアルを託したんですもの。・・でもそれは嘘だったようですわね。」
目線を下げ、扇で口元を隠したうえでわざとらしくため息をつく。残念だ。悲しいと言わんばかりに。
「そんなっ!ひどいですっ!自分からアルヴィン様を取られたからって私に八つ当たりするなんて!」
「取られた、という言い方はアルヴィンがもののようで不愉快ですわ。・・それで?アイナさんは今の私の言葉がただの八つ当たりからくるもので、真実ではないと思っているということかしら?」
「はあっ?そうに決まってんでしょ・・、コ、コホン。私にはなぜマリアナ、様が私を嘘つき扱いするのかわかりません。」
私が怒りにまかせるわけでもなく、ただ淡々と話すのに苛立ったようにアイナさんの口調が少し乱れ始める。でも、もうちょっとぼろを出していただかないと。
「私には恋人が常にほかの殿方を近くにおいているなんて、アルにとって幸せな環境とはとても思えませんわ。」
「え?・・何言ってんの?」
「アイナ、どういうことだ?」
「マリアナ、貴様の言い方はまるでアルヴィンがアイナと恋仲であるようではないか。」
「あ、あのちょっと待って、」
私の言葉にアイナさんを囲んだ男たちが眉をひそめだす。また、アイナさんが焦りだすがやめてあげるつもりはないので畳みかけるように話し続ける。
「はい。そう思っていましたが違ったでしょうか?アイナさんは私にアルが自分を想ってくれているのだとおっしゃいましたわ。そしてそれを踏まえた上で、自分がアルヴィンを幸せにする、と。つまりアルの想いに応えて二人で幸せになるのだろうと私は理解したつもりでしたが間違いだったのですか?
・・・それともアルの想いを知っていてアイナさんはそれに答えずにそばに置いているのですか?幸せにすると言っていただいたのですからそれはないだろうと私は思っていたのですが・・。ああ、アルがアイナさんに受け入れられなかったけどそばにいるだけで幸せだと言ったのですか?それならいいのですが。自分の想い人がほかの殿方とともにあろうとそばにいるだけでいいと、そうアルが言ったならいいのです。」
「ちょっと勝手な事いわないでよっ!!」
「アイナ?・・・どういうことか説明してもらおうか。」
思わずといった具合に私に反論したアイナさんが、はっとしたように口を抑えるがもう遅い。フレドリック殿下が厳しい目つきで問いつめる。ほかの人たちも同じで眉をひそめている。自分たちが慕っていた相手が実はアルヴィンと想い合っているいるような発言をしていたと知ったので当然の反応だと言える。そうじゃなかったとしてもそれはそれでアイナさんがアルヴィンを弄んでいるような印象を受けたのだろう。
この世界では愛人文化はあまりよく思われていない。あることはあるのだが、この世界で好ましいとされるのは一途な関係性であり、愛人を持っているひとは多情でふしだらとされている。それもここにいるのは貴族の中でも高位に位置する人たちばかりなので余計によく思わないだろう。
「違うのっ!違うの・・」
「何が違うのですか?アルを幸せにするといったことですか?アルと想い合っているということですか?
これに関してはアイナさんが大勢の生徒の前で私に進言してくださったので証人は大勢いますわ。」
「っ!ね、ねぇフレドリックさまぁ、エドワードさま、」
「悪いが私の納得のいく説明をしてもらうまでは君を信頼できない。」
「すまないが、僕もだ。」
「そんな、そうだ!ジョナス様とスチュアート様はそんなひどいこと言わないですよね・・?」
「ごめん。今はアイナのことよくわからないよ。」
「私はまだ、私にもチャンスがあると思っていたのにもともとアイナにそんな気はなかったのか?」
「そんな!みんな誤解なの!・・そう、そうなの!!みんなマリアナが私を嵌めようとしてこんなことしてるんだから!」
「悪いが今はマリアナがアイナを虐めていた件に関しても信用ができなくなってきた。その件に関しては遅くなったが皆の前で発表する前に再度調査を行うことにする。」
よかった・・・。腐ってもこの人たちは高位の貴族だ。一般的なモラルもあるしフレドリック殿下も完全に恋に浮かれているわけではなく、きちんと勤めを果たしてくれそう。まあ本当に遅いんだけどね。今まで思いっきり私は罵倒を受けているわけだから。それにフレドリック殿下においては婚約者や、ほかの生徒の前でアイナさんとイチャイチャしてたわけだから私との婚約の件も危うくなるだろう。ほかの人たちもだが、特にフレドリック殿下は殿下なわけだから婚約破棄までいくかもしれない。私は全然かまわないし、むしろうれしいくらいだけどね。
「は、はは・・、なにこれ?おかしくない?なんでこんな簡単に逆ハーが崩れるわけ?みんな私のおかげで存在してるくせに!!」
「アイナさん。あなたは転生者なんですよね。」
壊れたように笑い出したアイナさんはもう貴族令嬢としての礼儀もなにもない。おかしいおかしいとただ繰り返すだけだ。
「なに・・?やっぱりあんたも転生者だったのね!?ならわかるでしょ!?私がヒロインなの!!あんたなんか、悪役令嬢なのに、ふざけないでよ・・!」
「これはゲームなんかじゃない。みんな生きてる人間だってわからないの?あなただって同じ。一人一人に人間として向き合わないからこんなことになるの。まるでゲームをプレイするみたいに生きるからこんなことになるの。」
なんでわからないのか。けがをしたら血だって流れるし痛みだって感じる。殿下たちとすごして胸をときめかしたならそれだって生きてるって証なのに。
ふらりとよろめいたアンナさんはテーブルに手をついた。その拍子に傾いたテーブルの上でガチャンと音を立ててティーカップが割れる。
「絶対許さない・・、あんたなんかこの世界にいらない。私の世界にあんたなんかいらない!」
「えっ」
「マリアナ!」
一瞬でアイナさんが目の前まで距離を詰める。振り上げた手には割れたティーカップの破片が握られていて、殿下の慌てるような声が聞こえるが体が固まってしまって動かない。・・・刺されるっ!
「・・・?」
痛みが襲ってくると思っていたのに、いつまでたっても何も起こらないので思わずつぶっていた目を恐る恐る開けていく。
「・・アル?」
きらきらとした銀髪が目に入る。押さえつけたアイナさんから破片を奪って床に叩きつけると、私をかばう様に立っていたアルがこちらに振りかえった。
「無事ですか?お嬢。」
「アル、アル!あなたこそっ!ケガは!?刺されなかった!?・・そうだ、破片を握ったでしょ?私に見せて・・」
「はいお嬢。」
素直にうなずいて私に差し出してくれた手をつかんでひっくり返したりしながら細部に至るまで慎重に調べる。そして傷がないのを確かめると安心して息をついた。
「くすぐったいですよ。」
困ったような笑顔を見せてくれるアルが愛しくて、近くで顔を見せてほしくて頬に手をのばす。するとアルは心得たという風に軽くかがんでくれた。
「アル・・」
自分でも恋人に向けるようではないかと思うほど甘ったるい声で名前を呼ぶと、私の大好きな青の瞳を甘く細めてくれる。
「お嬢。無理させましたね。俺のために頑張ってくれてありがとうございます。」
「そんな、いいの。いいのよ・・。私がしたくてしたんだから・・。」
「怖かったでしょう。もう大丈夫ですよ。俺に全部任せてください。・・俺が拗ねたのが悪かったんです。」
「拗ねた・・?なんで、」
「俺を簡単にアイナ嬢に渡したでしょう。」
「だって!」
あなたに幸せになってほしかったから、そう続けようとしたときに小さいうめき声がしてアイナさんが起き上がった。こちらを睨みつけるがアルをみると希望を見つけたというように顔を輝かせる
「アルヴィン様!マリアナのもとになんていなくていいんです!私があなたを幸せに、」
「アイナ嬢。申し訳ありませんが俺はあなたに幸せにしてもらうつもりはまったくありませんし、なんとも思っていません。」
「そんな、そんなの認めない!」
「アイナ!やめろ。」
アルの拒絶にまた暴れだしたアイナさんをフレドリック殿下がすかさず押さえつけた。暴れ続けるのを拘束してこちらに向き直る。
「マリアナ。・・すまなかった。この件は私が責任を持って処理する。」
「殿下、」
「お前はその従者ともっとよく話をした方がいいようだ。」
自嘲するような笑いを浮かべた殿下がアイナさんを連れて部屋を出ると、ほかの方々も私に謝罪を入れ部屋から出ていく。残ったのは私とアルだけだ。静寂が流れたが、少ししてアルが口を開いた。
「お嬢。俺はなぜお嬢が、アイナ嬢に俺を渡したかは分かってます。でもただ悲しかったんです。俺の為とは分かっててもお嬢は簡単に俺を手放してしまうんだと思って。」
「別にアルをどうでもいいと思っているわけじゃないのよ!軽く見たりなんかしてないの。ほんとよ。」
「大丈夫です。小さいころから口癖みたいにアルを幸せにするの!って言ってたお嬢を疑ったりなんかしません。ただ、今度は、今は、俺の意見を聞いてくれますか?」
「!!」
そうだ・・。私はアルの意見を聞いてなんかなかった。アルの幸せにためと思って全部勝手に決めてしまった。アルの人生なのに・・。
「俺はお嬢に幸せにしてもらわなくてもいいんですよ。俺はお嬢といるだけで幸せなんですから。・・腐ったようなところでゴミみたいに転がってた俺を、お嬢が拾ってくれた時から・・。お嬢は俺のために泣いてくれて、俺のために笑ってくれた。
・・俺の世界にお嬢が現れたときからずっとずっと、俺は『幸せ』です。」
「っあ、あぁ、」
あぁ、あぁ。なんてこと。今まで一人よがりに頑張ってきたのがバカみたいだ。アルはずっと幸せだったなんて。ただただ自分の使命であるように、アルを幸せにしようと思っていた私は愚かにもアルのことを見ていなかった。
だって、私がずっとずっと見たかった、ずっとずっと焦がれてた、心から幸せそうな笑顔がそこにあるのに。
「っふ、」
ぼろぼろと涙腺が壊れたみたいに涙があふれる。アルが幸せなのが嬉しくて、ただもう嬉しくてたまらない。
子供みたいにひとしきり泣いた私に一歩アルが近づいてきた。そして涙をぬぐいすぎてびしょぬれになった私の手を取る。そのまま引き寄せられてそっと抱きしめられた。
「俺はこれからもお嬢のそばに居ていいですか。」
「もちろんよっ!そばにっ居て、」
「これからは、俺がお嬢を幸せにしていいですか・・?」
「!!」
「いいですか?お嬢。」
「うんっ、うんっ!」
「俺が望むようにしていいんですね・・?」
「いいわっ、全部全部アルの望むように。」
全部許そう。だって、私はかわいいこの子の為ならばなんだってできるのだから。
おろしたままだった腕をアルの背に回す。上を向くと私の大好きな笑顔がある。アルの体温があったかくて心地よくて。
あぁ・・、私は『幸せ』だ。
これで本編は完結とさせていただきます。ありがとうございました。




