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7)それの出現

 

「こっちへ!」

 マーシアに促され、ランドックは彼女の後を追って走り出す。

「国王陛下は!?」

「混乱にまぎれて逃げたわ!」

 安心とともに疑問もわいてきた。

「マーシア、なぜ俺を助けた!?」

「一度、助けられてるから」

「!?」

「取り調べてくれたでしょ、いきなり処刑しないで」

 マーシアが振り向いてウィンクする。不気味なペイントをされた顔なのにキュートなしぐさが不思議とマッチした。

「おかげで、貴重な死体の大盤振る舞いになったけどね」



 だが、駆け込もうとした警備隊本部の門が見えてきたところで、横の道からアルディリアス司令が飛び出してきた。

「逃がすか、バカ者!」

 マントも長剣もボロボロ、楯代わりに傷だらけの頭部ガイコツを手にしている。相当の激戦を繰り広げてきたことは想像に難くない。そして後ろには、やはり激闘の後をうかがわせる近衛騎士と警備兵たちが数人。

 ハッとしたマーシアがランドックに叫ぶ。

「護符を返して! 竜の護符を、早く!」

「ダメだ、あれは証拠の……」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」

 マーシアは振り向きざまにランドックに飛びつき、押し倒して服の中に手を突っ込んでまさぐりだした。

「待て、マーシア! こら、やめっ、うわっ、ひいぃぃ、そこはっ!」

 ランドックの服が脱げかけ、二人はまるでいちゃついてるような体勢となる。



 その様子を呆然と見ていたアルディリアスだが、

「……ふざけとんのか、キサマら!」

 怒って長剣を振り上げた。


「あった!」

 マーシアの手に、竜の護符。

 マーシアは飛び離れて建物の壁際に立つと、護符を高く掲げて何か呪文のようなものを唱えた。

 やがて、ザザザーーッ……、と低い音が空から聞こえてくる。


 一同が驚いて見上げると……巨大な黒い影が夜の空をさらに暗くするように覆っていた。

「まさか……!」

 やがて黒い影は地に降り立つ。人間の十倍以上の身長の物体の、その重量で周囲の建物が崩れ落ち、そこから発せられる悪臭はその場の一同に一瞬、正気を葦なわせるほどのものだった。

「こ、こいつは……」

 鼻と口を抑えながら呆然としているランドックへ、マーシアが自慢げに言う。

「死んでまだ半月経ってない竜の屍(ドラゴン・ゾンビ)よ」


 竜の屍は、腐りかけた死肉と悪臭を振りまきながら周囲を破壊しはじめた。瓦礫が飛び散り、近衛騎士も警備兵も逃げ惑うのみとなる。

 マーシアは瓦礫を避けて走り出しながら命じた。

「そのまま王宮へ! 敵は全部蹴散らせ!」

 竜の屍は、町を破壊しながら王宮へむかって進んだ。門の前まで来ると、口からは腐汁を吐き門を溶かた。

 飛び散った腐肉と腐汁で気も狂わんほどの悪臭が漂うが、マーシアは気にしてないし、ランドックも対抗心で必死に耐えている。

 竜の屍の後ろからは、骸骨兵士(スケルトン)生ける屍(ゾンビ)といった死に損ない(アンデッド)軍団が続きそのまま王宮へと乱入した。

 王宮を占拠していた「叛乱軍」はたちまちパニック状態となった。


 ランドックが我に返ると、アルディリアスが混乱に乗じて逃げようとしていた。

「待ってください、アルディリアス司令! 反乱罪は死刑です! でも降伏すれば、僕が弁護……」

 アルディリアスは振り向いて激怒の表情を見せる。

「いまさら、命乞いなどできるかァ!」

 そう叫んで長剣に接吻する。

 ランドックは驚いたが、すぐ小剣グラディウスに同じことをした。

 これは騎士の決闘の作法だ。必死ゆえの無意識だったのか、アルディリアスは正式な作法に基づいてランドックと命のやりとりをしようとしたのだ。騎士志願者のランドックもこれにはつい応じてしまった。騎士扱いされた嬉しさもあったのかもしれない。

 構えを取ったアルディリアスに、ランドックは間合いも計らずに突進した。

 魔導戦士のアルディリアスに呪文を唱える時間を与えたらまずい……そして間合いが遠ければ長剣の方が有利だ。ここは飛び込んでの速攻しかない。

 ランドックは息もつかせぬ乱撃を食らわす。しかしアルディリアスはそれを受けきっている。

 やがて鍔迫り合いとなり、ランドックはアルディリアスを壁に押し付けた。

 アルディリアスが不敵な笑みを漏らす。

「腕を上げたな」

 が、アルディリアスはランドックの腹を蹴飛ばした。前蹴り(プッシュキック)でランドックを弾き飛ばしたのだ。後方に倒れ掛かったランドックにアルディリアスは

「惜しい奴だが……今度こそさらばだ!」

 と止めを刺すために長剣を構えた瞬間、腐肉片が飛んで来た。あばれている竜の屍からとびちったものだろう。それがアルディリアスの顔にべちゃっとぶつかった。

「ぬっ!」

 熟練した戦士は一瞬の隙も逃さない。ランドックの小剣は、この僅かな間にアルディリアスの胸を貫いた。



 [つづく]

 

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