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6)三つ巴の死闘

 

「止まれ! 非常事態だ、検問する!」

 ランドックの指揮する警備兵小隊が、戦斧を交差させ立ちふさがって、街中を走ってきた馬車を止めた。

 その馬車から顔を出したのは……

「エルリーネ!!」

「ああ、ランドック!」

 安堵の表情を浮かべるエルリーネに、ランドックは畳み掛ける。

「何があったんだ?」

「王宮で、近衛兵の叛乱が……」

「何ッ」

 王宮の方を振り向いたランドックを、エルリーネが呼び止める。

「屋敷まで送ってくれないの?」

 ランドックはしばらく苦渋したが、心を決めて言い放つ。

「…………気をつけて帰ってくれ!」

「ランドック!!」

 もう呼びかけには答えない。ランドックは部下たちを置いたまま王宮に向かって走り出した。



 王宮の門では、警備兵よりも重武装の近衛兵が戦斧を交差させ、ランドックの前に立ちふさがった。

「許可の無い者は通さん」

 焦って城壁を見上げると、門の向こうからは剣戟の音や喚声が聞こえる。

 ランドックの後ろには、3名ほどの警備兵がついてきていた。

「隊長……」

 ランドックは少し思案すると、

「……帰るぞ」

 ときびすを返す。

「本気ですか?」

「王宮には秘密の通路があるはず……それを探そう」

 小声で会話しながら、夜の細道を歩く。両側の建物が暗く聳え立ち、夜空がとても狭く見えた。

「秘密の通路、ですか……」

「そうたとえば、こういうところに……」

 ちょっとした広場に出ると、その中央にレンガ造りの水場があった。

「まさかこんな水の中に……」

 警備兵がせせら笑ったとたん、突然にざばっと水が盛りあがる。

「!」

 異変を見て思わずランドックは腰の小剣に手をかけた。

 が、水の中からは人の姿ががあらわれた。次から次へと、五人もがびしょ濡れで水場から広場へと出てきた。最初に出てきた人影は、立派な顎鬚を生やした体格の大きな男だ。その男が低い声で話しかける。

「そなたたちは?」

 そのとたん、ランドックは相手が誰かに気づき、あわてて跪いた。

「国王陛下!」


 着の身着のままの姿の国王とその家族を護衛して夜の街を進む。城壁沿いの人通りの少ない路地を選び先導しながら、ランドックは口を開いた。

「警備兵本部へ行けば馬車もあります」

「うむ、ならば脱出できるな。よきにはからえ」

 緊急事態にも落ち着きを失ってない国王に頼もしさを感じ、ランドックは心の中に大いなる昂奮を覚える。

「陛下と家族の救出……これはでかい手柄だ。確実に騎士に……!」

 思わず口元にも笑みが漏れた。

 だが……路地から広場へ出ようとしたとき。反対方向から武装した近衛騎士や警備兵たちが現れ、たちまち横陣を作った。中央で指揮してるのは、ランドックもよく知ってる上司だ。大喜びで声を上げる。

「アルディリアス司令! 国王陛下を保護しました!」

 だが、返ってきた返事は予想もしていないものだった。

「斬れ」

「……は!?」

「斬れ、と言ってる」

「国王陛下をですか!?」

 振り向くと、濡れネズミの国王は緊張して体を硬くしていた。警戒の目を向けてくる。

 アルディリアスが続ける。

「血統から言えば、本来は現宰相のカーナヴォン殿下こそが王位を継ぐべきなのだ」

 しかしランドックには、自分が護衛してきた対象を命令ひとつで斬れる冷徹さがなかった。

「国王陛下に大きな失政はありません!」

「だからなんなのだランドック。そいつを斬れば、お前の手柄だぞ? 叙任どころかカーナヴォン殿下からの恩賞だってあるだろう。そうなればわが娘、エルリーネとの結婚にも何の問題も無くなる……」

 国王一家は互いに抱き合いながら脅えた目を向ける。

 ランドックは、彼らとアルディリアスの間に困惑の視線を行き来させた。その手は小剣グラディウスの柄をギュッと握っている。

 どちらの味方をするべきか? 国王一家を護っているのはランドックと数人の警備兵。アルディリアスが引き連れている人数はおよそ一個中隊……60人から100人はいそうだ。

 国王に味方したところで、圧倒的な戦力差をどうにもできないだろう……ならばここは。

 ランドックの手が動き、小剣の刃が鞘から現れてくる。

 王妃か王女のものと思われる嗚咽のような声が漏れ聞こえた。


 が、彼が小剣を抜き終えた瞬間。

 アルディリアスの後ろに列を作っていた警備兵たちからも悲鳴や絶叫が響いた。

 突如……本当に突如、隊列の後ろから襲い掛かった者たちがいたのだ。

 ぷんぷんと不吉な悪臭を振りまき、腐った筋肉か骨しかない四肢で、ただの棍棒や壊れかけた小剣を振り回す彼ら。

 生ける屍(ゾンビ)骸骨兵士(スケルトン)食屍鬼グールといった死に損ないの怪物(アンデッドモンスター)たちの一群だった。


 予想外の奇襲に、敵も味方もたちまち大混乱となった。

 生ける屍に爪を立てられてこの世のものとは思えない悲鳴を上げる近衛騎士がいた。

 腕を食屍鬼に噛み付かれて泣き喚いてる警備兵もいた。

 アルディリアスも自ら抜剣し、手近の骸骨兵をを叩きのめす。

 死に損ないは敵味方関係なく襲い掛かってきた。ランドックは行きかがり上、国王一家の護衛という役目を続け、小剣を振り回して死に損ないや敵側の警備兵たちと戦う。

 戦いながらも、視線を周囲に走らせた。予感がしたからだ。


 やはり、いた。

 城壁の上で呪文を唱えている、異国風の装束の影が。

「マーシア!」

 思わず叫んだランドックの声が聞こえたのか、死霊術師マーシアはニッ、と笑みを漏らす。

 国王も倒れた近衛騎士の剣を奪い取り、死に損ないや警備兵たちとと闘いながら家族を守ろうとしている。国王も、多少危なっかしいながらもそれなりに剣の腕前があると見える。

 ついに活路を開いて、家族を逃がせそうな局面に持ち込めた。

「逃がすな!」

 警備兵に向かって叫び、国王の前に出ようとするアルディリアス。その長剣を受け止めたのは、ランドックの小剣だった。

「陛下、お逃げください!」

「私に逆らうか、ランドック!」

 アルディリアスは小声で何か唱えた。

 一瞬遅れ、ランドックは閃光と共に吹っ飛ばされる。魔術を使ったのだ。アルディリアスは魔導戦士であった。

 石畳に転がるランドックに歩み寄り、アルディリアスは剣を振り上げる

「いずれ俺の片腕にとも思った人材だったが……さらばだ!」

 が、そのとたん、横から生ける屍がアルディリアスに飛びついた。絡みつく腐りかけた肉と骨は痛みを感じないから、振りほどくのも容易ではない。

 この隙にランドックは石畳の上を転がってアルディリアスから離れる。立ち上がろうとしたとき、その腕を掴んで助けたのはマーシアだった。



 [つづく]


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