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5)「そいつ」の出現

 

「どうした!?」

 霊安室に飛び込んだランドックは、その様子を見て仰天した。

「ルドリア!?」

 遠巻きに囲んだ数人の警備兵を押しのけてみると、その中に頭に包帯を巻いたルドリアが立っていた。だが、その顔には生気がまったくなく、瞳孔も開いたままだ。

「ま、まさか……」

「隊長……生ける屍(ゾンビ)です!」

「……あいつかッ!!?」

 とっさにマーシアを思い浮かべる。

 が、怒ってる間もなく、ゾンビの爪がランドックへと伸ばされた。ランドックはとっさに飛びのいて避ける。

 警備兵たちも悲鳴を上げて逃げ惑った。

「ルドリア、俺だ! 正気に戻れ!」

「無理です、隊長! 副長はもう死んでるんです!」

 空振りした屍の腕がテーブルを叩き割り、椅子が転げまわった。

「くそっ……!」

 ランドックが腰にしていた小剣を抜く。右手で正面に構えると、一気に振り上げた。

 だが、小剣は屍の頭部で寸止めしてしまった。親しくしていた福隊長の頭を叩き割ることに、躊躇を覚えてしまったようだ。

 ランドックの動きが止まる。

「危ない!」

 グロリオがランドックを突き飛ばす。そして身代わりとなって毒爪を受けてしまった。

「ぐぁぁぁっ!」

「グロリオ!?」

 悶絶するグロリオを横目に、ランドックはもう一度、小剣を構えた。

「ちくしょう……ちくしょう!」

 屍は白目を剥いて、口から粘液を飛び散らせながら襲い掛かってくる。

 ランドック、悲壮な表情で自分に言い聞かせる。

「こいつはルドリアじゃない……生ける屍(ゾンビ)だ、ただの『物』なんだ!」

 心を決めると、

「うわぁぁぁぁぁっ!」

 と、悲鳴とも雄叫びともつかない声を上げて ルドリアの屍を肩から斜めに叩っ斬った。

 しかし両断されても、そいつはまだ床を這いつくばりつつも襲ってこようとうごめく。

「うわぁっ、うわぁぁぁっ!」

 ランドックは狂ったようにそれを切り刻む。やがて他の兵士たちも加わり、耐え難いという表情を浮かべつつ、小剣や戦斧でその作業に加わった。



 頭部を破壊されてようやく動かなくなった死体の破片群を前に、全員が激しく肩で息をしている。

 すると、グロリオが泣きじゃくりながら叫んだ。

「隊長……隊長! 早く、自分も斬り刻んでください!」

 その顔は青黒くなっている。

「グロリオ! お前、爪を受け……」

生ける屍(ゾンビ)になるなんて嫌だ! 早く、早く殺して……!」

 ランドックの目に涙が浮かぶ。だが他に方法はない。

「……許せ!」



 壁に拳を叩き付け、ランドックは息を整えている。右手の小剣からは鮮血が流れている。グロリオの血だ。

 警備兵たちも沈痛なムードとなっている。バラバラに破壊されたルドリアやグロリオの遺体に目を向けるものはいない。

 小剣の血をぼろ布てぶ拭き取っていたランドックは、とつぜん何かに気付いて走り出した。



 地下牢に、マーシアの姿はすでになかった。



 [つづく]

 

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