第二話 感じたいもしもの日常
「おはようございます」
朝起きたら清美が俺の目と鼻の先でのぞき込んでいた。これは、あれか幼馴染が起こしに来る定番の・・・ってどうやって入ったんだこいつ?
「おはよう。ババアに入れてもらったのか?いや、そんな訳ないか」
俺の祖母は老人のくせに夜行性だ。朝は昼まで寝てて夜は元気に街をうろついている。そして、両親は行方不明(年に数回の恒例なので心配はない)で妹は寄宿所。入れるわけがない。
「どうやって入ったんだ」
「えぇ、鍵を」
小さい頃も含めてこいつにかぎなんて恐ろしいものを渡したことはない。朝起きたらどこか改造されていたなんてオチになりかねないから。
「このアームで」
袖からなんか機械のアームが数本出てくる。うん、気にしてたらこいつの幼馴染はできないことを改めて思い出した。
「禁止な」
好きな相手とはいえ家を勝手に入られると命がいくつあっても足りはしない。
「そんな・・・毎朝行信さんの顔が見られると思ったのに」
そのままよよよといったような効果音をつけながら泣き崩れていく。うん、嘘なのはわかる。ってか隠す気もないなこいつ。
「うん、絶対禁止」
「ハァ、こんなかわいい幼馴染釜一に起こしに来てくれるんですよ。不法侵入の一つや二つ男がけち臭いこと言っちゃだめですよ」
「お前の場合どんどんエスカレートするからな」
「失礼な子供のころと一緒にしないでください。ちゃんと、無茶はしないつもりですよ・・・・死なないように」
「病院にも入りたくはないからな」
「わかりました。その代り条件言ってもいいですか?」
「机の一番右下にある引き出しの本。捨ててくださいね」
「お前いつから部屋探ししてた」
いや、違うな。今度盗聴器やカメラがないか調べておこう。見つかるかどうかはわからないけど。
「すてて・・・くださいね」
有無を言わさない笑顔。逆らうのは無理だろう。
「さてと、ではそろそろ起きてください。食事作ってありますので」
勝手に人のうちの台所をいじりはじめた。幼馴染とはいえかえって二日目の人間がやることか。こいつにとってはやることか。
「新薬実験には付き合わねぇぞ」
数々のトラウマだ。爪の間から植物が生えたときは二週間引きこもった。
「ですから、子供のころと一緒にしないでください。少なくても今はこういうの楽しみたいんです」
それが今限定じゃないことを切に願いたい。
食事自体はオーソドックなものだ。ごはん。味噌汁。焼き魚。味付けは本当にこんな素朴なものでこんな味わいがと思えるほど絶品だ。まともに作ればそこら辺のシェフよりもうまい。
「行信さんの味の好みが昔と変わってないようで何よりです。お昼も弁当作ってありますので・・・・逃げたら酷いですよ」
「なんでそんなことするんだ?」
「そんなこと決まってるじゃないですか。行信さんが好きだからですよ。それにお弁当は小さい頃もよく作っていたじゃないですか」
確かに作ってもらっていた。ただ、あの時は小学生だからお弁当なんて必要とする日はめったにない。そして、うちの母親の料理は料理じゃない。だから、作ってもらっていたのだ。
「あれ~、私今告白したのにノーリアクションですか?」
こちらの顔を覗き込む。残念ながらまともに答えるつもりはない。本気ではないからだ。
「何を焦っているんだ?」
直感だ。幼馴染とはいえ考えを隠すのがうまい清美の考えをすべてまでは理解できない。しかし、朝のやり取りだけでなんとなくそう思える。
「聞きたいのですか?」
「いや、いい。お前に振り回されるのは悪くない。ただ、手遅れになる前に頼れ」
話したくないのには理由があることはわかっているつもりだ。それに、おそらく俺の手には負えないと確信してるから俺に話さない。
「さてさて、学校に行きましょうよ。初登校ですよ。二人で手でもつなぎながら」
「絶対に手は繋がねぇ」
周囲にみられるのは拷問過ぎるだろう。
「いやぁ、二人の登校っていいですねぇ。結構緊張しますねぇ」
絶対緊張してなさそうに感じるが。たぶんそれを隠すためにこういう風に言っている。
「そして、この後は同じクラスで。机を隣の席で」
「マテ。お前今日が初登校だろう。なんでクラスが一緒とか席が隣とかわかるんだよ。ってか俺の隣にはすでに人がいる。確か丸山君」
「違います。烏丸君です。駄目ですよ。ちゃんとクラスメートの名前覚えないと」
だから、何で知ってるんだよ。賄賂でも送ったかこいつ。いや、弱みで脅迫の萌芽しそうだな。
「行信さん。理事長の名前言ってみてください」
「理事長ってあの禿か。知らねぇ」
「それは校長です。さすが、行信さん気づいてないんですね。ってか見もしなかったんですね。答え神崎由乃。私のお母さんです」
マジか。あの人の顔よく覚えているが学校で見たことねぇぞ。さすがに老け・・・
「行信さん。母は昔通り。不思議なくらい昔通りですよ。そして、母の暗黙ルール覚えていますね」
俺の記憶にある由乃さんは20代前半にしか見えない女性だ。さすがに、その頃よりはと思うが清美が言うならその通りだろう。自称年齢不詳。俺の母と同じ年なのにそれで押し通すつもりで。もし、一言でも口にしようものなら。清美の母親だと実感することになる。
「命は大切にです。私でさえ誕生日のろうそくは立てることができません」
「つまり、職権乱用じゃねぇか」
「その程度のこと職権乱用とは言いませんよ。職権乱用というのは娘の意中の人をたとえ不合格な成績でも無理やり入れてしまったりすることですよ」
ごめん満。お前が必至こいて付き合ってくれた受験勉強どうやら失敗に終わってたみたいだ。
「まぁ、そんなわけで行信さんのクラスになることは確定です。ついでに隣の席は実力で排除します」
「実力はやめておけ。オーケー。俺から話しつけておく」
仲良くもないし。むしろ怖がられてると思うから喜んで隣を譲るだろう。まぁ、いざとなれば俺が席を違うところに持っていけばいいだけの話だ。
「しかし、三人一緒になるのか昔みたいに」
「行信さん。二人っきりの時にあの女の話はやめましょう。噂をすると出てくるんですから。ホラッ」
清美が向けた視線には満がいた。やけに上機嫌をアピールしているような顔で。うん、絶対に何かあるな。
「おはよっ、行信。今日はちゃんと学校来たんだ」
キモっ。わざとらしく笑顔で話しかけてくる姿がすごい違和感あった。そして、それから首をゆっくりロボットのように向けながら。ゆっくり清美に手を差し出す。
「そっちの子は初めましてな・・・わけねぇよな」
やっぱりこうなった。差し出した手を思いっきり握り。清美の顔面に向かっていく。しかし、簡単に清美はそれをいなす。
「あはっ、ボケる振りがうまいですねぇ。本当にぼけたのかと心配しちゃいましたよ」
清美はそのまま腕をとって押さえつけようとするが。満が放った鋭い蹴りを見て瞬間的に離し。一歩距離を開ける。今のところ満の攻撃が上のように見えるが清美は全然本気を出していない。
「一発ぐらい殴らせろ。コラッ」
「あはは、満ちゃんに殴られたら。私のか弱い乙女の顔が台無しになっちゃいますよ。熊みたいな大女。一発で倒しちゃったんでしょ。試合で」
それはおそらく全国の決勝の相手だ。ということは遠くでこいつも俺たちのことを調べてたんだろう。
「満落ち着け。お前がおごるのはわかるが。オゴッ」
満に近寄った瞬間。鋭いひじが俺のあばらに刺さる。そのあと後頭部をかかと落とし。さすがの俺でも痛いぞ。
「お前はやっぱりこいつをあっけなく許すんだなぁ」
まぁなんとなくわかってたけどな。俺にも怒り向けているのが。そのままずごずごと学校にむかってしまった。
「満ちゃん相変わらずですねぇ」
「懐かしいか?」
「少しだけですか。なんだかんだいって数少ない友人ですから」
この二人はいつもよく喧嘩というよりは満が嚙みついてきて清美があしらっていたが、なんだかんだ言って仲がよかった。
「行信さんは満ちゃんが好きですか?」
「世話にはなってるし。嫌いではないが好きでもない」
「満ちゃんは行信さんのこと好きですよ」
知ってる。馬鹿だけどそこまで鈍いつもりはない。
「暴露すんなよ。勝手に人の気持ち」
「私がいなければきっと行信さんは満ちゃんとくっついたんでしょうね」
答えは返したくもない。らしくなさ過ぎてちょっと気持ち悪い。
「今は楽しむんだろ」
そういうと少し申し訳なさそうな表情をしてから困ったように清美は笑った。
「そうでした」
日常パート思ったよりお長くなっちゃいました。本来ならこの章で敵が出現する予定でしたが。おかしな日常を描いているのが楽しくなりました。次回はバトル・・・・メインは主人公じゃないけど。
皆様みていただきありがとうございます。そして、連日更新かと思いきやまさかの同日更新・・・ハイ零時をまたいでないだけです。ほぼ連日です。明日も更新できたらとも思います。頑張ります。勇者と魔王の世界征服のほうも・・・・頑張ります