第一話 再会
「つまらねぇ」
大欠伸しながら周囲を見る。周囲には三人ほど倒れており。そして、それの仲間だった奴は戦意をなくしてこっちをおびえた目で見ている。
「はぁ、喧嘩売ってくんならせめて遊び気分はやめろ。やる気が起きねぇ」
小さい頃から鍛えて喧嘩して鍛えて喧嘩してを続けてきたらいつの間にか。周囲から喧嘩最強のレッテルを貼られてしまった。自業自得な男。美和行信。
「すいません。すいません。最強のレッテルに面白がって挑んで。財布も差し上
げますから。これ以上は」
土下座で詫びを入れられる。
「はいはい。回れ右。財布もいらんから二度と喧嘩を売ってくるな」
喧嘩は正直好きだ。三度の飯よりも喧嘩なところがあった時もある。だけど、強者との戦いを楽しみたいのだ。ただ、いつの間にか相手になるやつが限られてきた。弱いものと戦うくらいなら鍛えていたほうがましだ。
(プロの世界に入るしかねぇかな。でもどれかの格闘技に絞るのものな。総合格闘技ってのもなんか違う気がするし。あんま負ける気しないんだよな)
「ゆ~き~の~ぶ」
よく知った声が耳に届くと同時に背後から木刀が振り下ろされる。
「ちっ」
その木刀横からはじいて。難なく直撃を避ける。
「風紀委員の仕事か満。言っておくが初めに喧嘩売ってきたのはあいつらで。必要以上痛めつけてねぇ。正当防衛。俺悪くない」
新城満。行信の幼馴染で剣道、空手、柔道の有段者でいずれも全国レベル。風紀委員なのだが。彼女の手にかかることのほうが深刻なのではないかと疑問視が上がるほどの体罰主義。
「あんな雑魚はどうでもいい。先日となりの葵町でK-1選手の荒木選手が野良試合で怪我したって話だけど?」
「うん?」
とりあえず無駄だと分かって首をひねってみる。
「犯人はタイガーマスクかぶってたって聞いたけど。確かあんた持ってたわよねぇ~~~~」
「うん?」
体でわからないとアピールするために。体ごと思いっきりひねってみる。
「ちなみに私荒木選手のファンなんだけど。一週間後の試合チケットこの恨みは誰にぶつけるべきかしら?」
いつも以上に怒ってることを確認し。もはや止まらないことを確信する。
「とりあえず、楽しめたよ」
あの試合はそこそこ満足できた。彼なら復帰した後世界を目指せるだろう。
「とりあえず死ね」
一撃一撃に殺意のこもった連打。怒りは込めていても。剣筋に乱れはなく。一撃
一撃か鋭く重い。
「つぅ、とぉ」
いくらさばいていても所詮は素手だ。木刀による一撃は蓄積していく。
できるだけ捌ききれるうちに距離を詰め反撃したいのだが。できない。主に精神的な理由により。女は殴れないというつもりはないが、できるだけ殴りたくないのも事実。ましては相手は数少ない友人であり。幼馴染だ。かつて、高校への受験のとき。担任に進路を相談したら。そっと小学校を紹介されたのは今でもトラウマだ。そんな行信を彼女は半年あきらめずに勉強を叩き込んできた。恩がある。
(だから少しの痛みを我慢しよう)
正眼から振り下ろされた木刀を左手で掴み。右手で横からぶちおった。だが、次の瞬間行信の襟元が閉まり浮遊感を味わう。木刀がおられることを予想してすぐに投げに切り替えてきた。下はアスファルト。下手すれば致命傷だ。受け身を取ることは容易だが。
(我慢しよう)
そのまま地面にたたきつけられて悲鳴が上がる。ただし上がったのはどう聞こえても女の声だったが。
「いたあ。いたたたたたた。ちょっといたいいたいってば」
「うるせぇ。こっちは地面にたたきつけられてるんだ。こっちのほうが十分痛いわ」
地面にたたきつけられることを犠牲にして。その腕を極めた。
「あっ、ギブギブ。折れる。折れるってば」
「人の骨の折る加減は熟知してるからなぁ。お前よりも」
「ってかなにこの腕の決め方。返し方がわからないんだけど」
「教科書一辺倒の正当ばっかり歩いているからだ。骨を断って肉を断つ」
「暴力反対。女性手をあげるか」
「どの口が言うか」
骨が折れるぎりぎりまで締め上げる。
「まったく、お前はどこまで強くなるつもりだ。あぁ、いた」
腕の関節を伸ばしながらストレッチをする。
「うーん。天?」
行信が頭上を指さした瞬間木刀の残った柄の部分で後頭部を殴った。
「真面目に聞いてるつもりなんだけど。お前の実力は高校生を軽く凌駕してる。プロにだって。いや、プロにさえお前レベルの奴は少ないんじゃないか」
「どうだろうな。イメージではだれにも負けないつもりだが。あくまでイメージだからな」
「じゃあ、十分じゃないか。いつまでもいつまでも馬鹿の一つ覚えを。お前は確かに格闘技は天才的だ。そして、才能を伸ばすのも悪いとは思わない。だけど何に使うんだ?してることは腕試しと喧嘩だけ。もう十分に止まりどころだろう。なにか目指したいものをゆっくり考えるべきだろう」
目指したいものを考えるべき。確かに、ずっと強くなることだけを考えてきた。強くなるためにほかの時間をほとんど捨てた。その結果強くはなった。だが。
「目指したいものなんてもう決まっている。俺は最強になる」
その言葉を聞いた瞬間、満の顔が一瞬ゆがんだ。
「お前は変わらないな。本当に憎たらしいほどに」
心底いやそうに吐き捨てるように言う。彼女は俺の言葉を唯一理解できる人間だ。
「変わらねぇよ。まだ一歩も動けちゃいねぇんだ。なら、俺は動くときに備えるだけだ」
「いつまで縛られている。私はあいつが憎い。お前をそんな風に変えたあいつが」
変わったと聞いて思わず笑いだしそうになる。
「俺は少しも変っちゃいねぇよ。俺はあいつのためだけに生き続ける。あいつが強くなれと言ったら。とりあえず最強になるしかないじゃん。あいつが必要なレベルってそこまでならないとダメみたいな気がするし」
幼い日に交わした満とは違うもう一人の幼馴染の約束。
「私はあんな奴友達だと思ってない。あんな・・あんな・・ばけもの」
満は苦しそうに胸を抑える。
(なんか、静かだな)
神社には見ごろな桜が数本あり。春のこの季節になるとうっとおしい花見の人で煩い。だから、また帰ったら慶大の掃除ぐらいやらされると思っていたのだが。きれいに片付いて。人一人いない。いや、一人だけいた。
(夢を見ているのか)
境内で最も大きい桜の木の下で一人の少女が寄り添っている。
舞散る桜が夕日に映える。この神社で一年に最も好きな景色だ。しかし、それよりも彼女の赤みがかかった紙は良く映えていた。
「あっ」
彼女はこちらに気づき一歩一歩ゆっくり近づいている。体重のブレのないきれいな足取り。まるで時が止まったかのように動けなかった。
「もしも~し、もしかして忘れちゃいましたか?」
彼女は下から顔を覗き込んでくる。
「現実感がないだけだ。まだ、お前の面影を残した人って可能性を疑っている」
「あっ、酷いですね。私みたいなかわいい子がほかにいると思いますか?」
彼女は笑顔を崩さずに自信満々に言ってくる。変わってないと思う。いつも笑顔を崩さずに何事にも自信満々で。いや、自信を持つだけの能力を持ち。
「なら、これなら目を覚めますかね」
ゆっくりと行信の首に手を回す。行信の心臓の鼓動が早くなっていく。昔から彼女の近くにいるときはよくこの心臓は早くなっていた。ただし、恐怖によってだが。
「いきなり病院送りは勘弁だ。清美」
その腕を止める。正確にはその手に隠し持っていた針をだが。おそらく刺されたが最後意識を失う程度の毒を仕込んでいるだろう。
「目覚めましたか?」
そう、彼女はクスッと笑う。神崎清美。俺の幼馴染で八年前何も言わずに消えてしまった奴。
「馬鹿。もともと冷めてるよ。まったく、感動の再開にこんなもん持ち出しやがって」
「酷いですね。私馬鹿なんて生まれてこの方行信さんにしか言われたことがないです」
「しょっちゅう。満と言い合ってただろう」
「行信さん。再会してすぐにほかの女のひと名前出すのはいかがなものかと。さしますよ本気で」
笑顔で言っているが間違いなく本気だ。清美はほとんど笑顔を崩すことなく。そして、平気で毒を盛る。小さい頃から数え切れないほど刺されている。
「かわらないなぁ。お前は?」
「酷いですね。これでも充分変わったつもりですよ。行信さん好みに」
相変わらずこの子は俺が大好きだみたいに言ってくる。俺もこの子のこと清美のことは大好きだ。例え何年たっても。突然目の前かあ姿を消されたとしても。
「とりあえず。お帰りでいいのか?」
「はい。ただいまです。行信さん」
いつもより満面な笑顔を信じたいと願う一方でお絵はこの子の幼馴染だった。やっぱりこいつは嘘をついている。そう気づいてしまった。
とりあえず、一話まで更新です。なんとか記憶のサルベージと改良を重ねて更新します。魔王と勇者の世界征服も更新していくので期待して・・・ない。そうですよね。日々精進を重ねていきます