第2話 とある研究員の入学式
「ああ、レイヤか。明日の飛行機でそっちに帰るからな。ライヤにも伝えておくんだぞ。・・・ああ、わかってるよ。グランディー塔の形をしたチョコレートを買ってくるから、それまで良い子にしてるんだぞ。・・・ママはちょっと買い物に出かけてるから、戻ってきたら連絡するよ。それじゃあな。」
ツー・・・ツー・・・ツー・・・
「えっ!?」
目の前に見えるのは見慣れた天井。
「また、、、あの夢か。」
実際に声を出したわけではない。そう心の中で独り言を呟いた。
瞳を閉じる。
高鳴る鼓動が、かすかな耳鳴りと混ざり合っている。
左右に寝返りを打ち、背中を反らしたところでようやく起きあがろうとしていた。
「クソ、頭が痛ェ、、、」
黒髪をポリポリとかきながら、あくびをひとつして、そしてまた、少しだけ横になった、、、
、、、、
、、、
、、
、
入学式当日、天気は晴れ。
S地区のほとんどの大学では、入学式が行われていた。
ネオ・アース大学では、人見知りのライヤがあまりの人数の多さに挙動不審な姿を披露している最中だった。
ちなみにここ、ネオ・アース大学は、この星で最難関クラスといわれる大学。
さらに、ライヤはなんと、17歳の時から高校生兼ジパス研究所の研究員として働いており、もちろん大学入学後も研究員にとして働くというのだから、なんというか、頭脳は主人公として認めてあげていただきたい。
そんな挙動不審な主人公を保護者席から笑いをこらえて見守るシルビアの姿もあった。
実はそんな挙動不審な主人公に、もう一人の女性がじっと見ていたことは、ライヤもシルビアも気づいていなかったであろう。
女性の名前はローザ。見るからにして怪しい。どう怪しいか。読者のみなさんは入学式に猫耳を付けてくる人をどう思うか。あろうことに、まさにそれがローザの一つ目の特徴。二つ目は、サングラス。入学式にサングラス。そして、極めつけは、、、胸が大きい。
瞬きひとつせず、相変わらずライヤを見つめるローザ。
「一同、ご起立願います!」
その声にふと我に返ったローザは、不思議な顔をしながら、瞳を右上に、そして、左上に動かして何かを思い出そうとしていた。
式を終え、記念に写真撮影をしている若者たち。
ライヤもまたそのうちの一人。
「・・・少し恥ずかしい、、、」
「撮らなかったら撮らなかったで、後悔するよ?入学式は二度とやってこないんだからね。」
シルビアは、ライヤのお姉さんのように彼の襟元を両手で優しく直していた。
しかし、ライヤの方が身長が高いところがまた滑稽だ。
すると、二人からおよそ25mほど離れた場所から大きな声が聞こえた。
「あっ!!!」
二人はその声に反応することもなく、そのまま撮影準備に取り掛かろうとしていた。
25mほど離れた場所にいたその声の持ち主は、二人に指をさしながら近づいてきた。相変わらず猫耳をつけながら、、、
「キミ・・・!!!」
猫耳の女性が二人に声をかけた。
「えっ?」
「キミ、なんでここにいるの!?」
「えっ?なんでと言われましても・・・」
困っている様子のライヤを守るようにシルビアが言った。
「すみません、えっと、あなたはライヤのお友達でしょうか?」
「ライヤ?ああ、キミの名前のことか!いえ、友達ではありません!」
シルビアは思った。猫耳、サングラス女がライヤの友達ではなくて心底良かったと。それと同時に、じゃあこの子は何者なんだ?もしかして、新手のナンパ?猫耳付けて入学式に参加するような子だ。十分あり得る。
シルビアは少し混乱した。猫耳女は続けてこう言い放った。
「キミ、W地区にいたよね!?なんでS地区にいるの!?」
そう、ここネオ・アース大学はS地区に位置する。
猫耳女が口にしたW地区とは、労働者たちが集う地域。一度その地区にいた者は、警備隊や政府関係者以外は異動ができない。
簡単に説明しておこう。
まず、ネオ・アースには大きく四つの地区に分けられている。
S地区…ネオ・アースの最高峰。ありとあらゆる環境が備わっている。
E地区…地球から来た人たちはまずここに来る。地球とほぼ同じ環境が備わっている。
W地区…2184年に新たな地区として、地球の無職者を無くすために作られた。衣食住の環境は問題ない。しかし、そこの住人には働く以外の自由な時間が無いに等しい。
P地区…2184年に新たな地区として、地球の極悪犯罪者対象に作られた地区。別名、監獄地区。
人権という言葉はもはや意味をなしていない。それが、ネオ・アースの実態であり、地球の実態でもあった。
「ねぇ!?なんでS地区に、、、」
「すみません、もうやめてください。人違いです。大切な入学式を台無しにしないでください。」
「えっ、だって、、、ウチ、二年前に、、、」
「二年前になんですか?二年前にこの子はジパス研究所の研究員として働いてますけど?疑わしいなら当時通っていたE地区の高校にでも問い合わせてください。学籍が残っていることでしょう。」
「いや、だって本当に、、」
「なんでしょうか?あの、申し訳ないけどね、この子には彼女もいるの!」
カーッと顔を赤くしているライヤがいた。
「いい?そういう変なナンパはやめて、別の人を探した方がいいですよ。わかるよ、彼氏作って楽しい楽しい大学生活を送りたい気持ち!」
ライヤは思った。きっと今、すごく顔が赤くなっていることだろう。この真っ赤な顔で、写真、、、うぅっ、、、
「ウチは絶対に見た!」
そう言い放ち、立ち去ろうとした時、
「ウチの名前はローザ。ライヤくん、また会いましょう。」
そう言って、その場を離れた。
ライヤは相変わらず顔を赤く染めていた。
そんなライヤの横で、腰を抜かしている28歳の室長シルビア。
それは、新手のナンパに驚いているわけではない。
「ローザ・・・猫耳ローザ!?」
そう、彼女は研究者たちの中では有名な人物。猫耳ローザ。他にはこう固苦しく呼ぶ者もいる、、、
絶対記憶能力者のローザ




