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いつでもどこでも朱音のことを考えている

次話は3月11日に予約してます。

 あと十数分で朝のSHRが始まる時間となっているため、教室内はクラスメイト達の賑やかな声で溢れかえっていた。


 いつも通りの私の日常。一昨日に修学旅行から戻って来たばかりのため、昨日はみんな疲れ切っていた表情をしていて授業どころの話ではなかったけれども……


「楽しかったねー、修学旅行」

「うん」

 私は豊島さんの席の前で、手に持っている写真を眺めていた。

 彼女の机は修学旅行中に撮影した写真で埋め尽くされており、私と同じように一緒に回ったグループの子達が集まっている。

 みんな旅行中の話に花を咲かせているため楽しそうだ。


 この写真は豊島さんがデジカメで撮影してくれた写真。

 プリントアウトして持ってきてくれたのをみんなで見ている。

 スマホで撮影したものは、その都度SNSアプリのグループで共有していたけど、デジカメのやつはまだ見ていなかったから。


「今日から榊北が沖縄だってさ。各校修学旅行ラッシュだよな」

「榊北は沖縄なの? いいなぁ……シーサー」

「友達が水族館行くっていっていたよ。あそこクジラいるんだっけ? クジラ見たい」

「そういえば、六条院も修学旅行ってあるの?」

 佐藤さんが尋ねてきたので、私は視線を隣にいる彼女へと向け頷く。


「匠君達は今日からだよ。六条院は行先を提携している学校がある国から自由に選べるんだって。匠君はドイツにしたみたい」

「ドイツ!? すげぇな、六条院っ!」

「きっと宿泊先も良いホテルなんだろうなぁ。なんなら、城とかさ」

 みんなが興奮気味にしゃべっているのを聞いていると、私のスカートのポケットが震動した。

 どうやらポケットに入れておいたスマホにメッセージか電話がきているようだ。


 この時間に電話は来ないため、アプリのメッセージだろうと放置していたけどなかなか収まらず。

 ――電話?


 私は慌ててスマホを取り出しディスプレイを確認すれば、想像もしてなかった相手からだったので目を大きく見開く。

 電話の主は、さっき話題になっていた匠君。


 この時間に彼から電話がかかってくるなんて始めてだ。

 しかも、彼は修学旅行当日。今頃は空港にいるはず。


「電話?」

「うん、匠君から……ちょっとごめん、席外れるね」

 みんなに断りを入れて廊下に向かおうとすれば、「うちのクラスは相変わらず賑やかだな。外まで聞こえるぞー」と言いながら、黒檀色の髪を短めに切りそろえた20代後半くらいのスーツ姿の男性が教室に入って来た。

 日直が取りに行くのを忘れたのだろうか? 手には日誌を持っている。


「先生、なんで今日こんなに早いの?」

「チャイムなってないよー」

 SHR開始の鐘はまだ鳴ってない。

 だが、先生が早めに来てしまったためみんな自分の席へと戻っていく。


「たまたまだ」

「あっ、わかった! また学年主任に仕事押し付けられそうになったんでしょ? 私、先月職員室で見たもん」

「あー、そういえば先月も早かった日あった。先生、嫌なら断ったらいいんじゃないですか」

「無理無理。あっちはベテラン」

 先生はそう言いながら教壇へと立つ。


 ――匠君の電話に出られそうにないから、SHRが終わり次第メッセージ送ろう。


 私は通話が出来ないため、指をスワイプして着信を切ろうとすれば、「待って!」と豊島さん達から一斉に制止の声をかけられてしまう。


「露木さん、五王さんからの電話なんだよね?」

「うん」

「先生―!」

 豊島さんが手を上げて先生を呼べば、先生はこちらに顔を向けた。


「なんだ、豊島」

「まだSHRまで時間あるので、少し電話してもいいですか? 露木さんに五王さんから電話が来ているので」

 みんな学祭で匠君を知っているので五王という名に教室内にざわめきが走った。

 そして、「まだチャイムなってないから!」「六条院は今日から修学旅行なんですよ!?」「電話させて下さい」など、クラスメイト達が私と匠君の電話の心配をしてくれている。


 匠君、うちのクラスでも人気だなぁ……


「露木の彼氏か? 五王って珍しい苗字だな。あの五王みたいだ」

「先生、その五王」

「本当か!? 露木の彼氏すごいじゃないか!」

「彼氏ではなく、大切なお友達なんです」

 私の言葉になぜか教室内が静寂に包まれてしまう。


「あー、教室内の反応でなんとなく察した。まだSHR開始の鐘がなってないから、電話しても構わないぞ。ただ、他の先生が来てしまうから鐘が鳴る前に教室に戻れよ」

「はい」

 私は軽く会釈すると、廊下へと出た。


 チャイムが鳴ってないため、廊下でおしゃべりしている人の姿もちらほら窺える。

 暖房によって温められた教室内とは違って、ひんやりとした空気が纏わりつきちょっと寒い。

 廊下に等間隔で設置されている窓からは、太陽の光が入り温かそうだ。

 そのため、私はそちらに移動することに。


「もしもし、匠君?」

 私はスマホを操作し電話に出た。


『ごめん、朱音! 忙しい時間帯に。いま、大丈夫か?』

 電話に出れば、少し焦った匠君の声が耳朶に届く。


「うん、まだSHR始まってないから。どうしたの?」

『いや……その……日本を立つ前に朱音の声が聞きたくて。気が付いたら電話していたんだ』

「私の……?」

「そう、朱音の声。朱音と離れてしまうのが、すごく寂しいし不安なんだ。ほら、俺が留守中に美智達と遊ぶだろ? せっかく俺が波に乗ったと思ったのに、三日天下になりそうだなぁとか色々浮かんでしまって。五王家の好感度がやたら高すぎるから」

 匠君の台詞は所々意味がよくわからなかった。


 三日天下になりそうって、なんのことなのだろうか? 匠君なら三日どころかずっと天下取れそうだけど……


 五王家の人々は大好き。なので、好感度は高いのか? と尋ねられたから、すごく高いとはっきり答えられる。

 美智さんと棗さんとも、明後日遊ぶ予定になっているし。


『俺のこと忘れないで欲しい』

「忘れるわけないよ」

 もしかして、出国するにあたって不安になってしまったのだろうか。

 ホームシックにかかってしまったとか……?

 匠君は海外に慣れてそうだけど、やっぱり寂しいのかも。


『俺はいつでもどこでも朱音のことを考えている。修学旅行中でも』

 その言葉に、私は鼓動が強く跳ねてしまった。

 匠君と話をしていると、時々こうなってしまう。


 匠君はドキドキする台詞を口にするので、私の感情が波打ってしまうのだ。

 落ち着こうと思っても、なかなか静まってくれない。


『朱音。美智達と五王家で遊ぶかわからないけど、もし遊んだ時にはシロとも遊んでやって欲しい。朝も一緒に車に乗り込んでさ……』

 シロちゃんの名を聞き、騒めいていたものがすっと収まっていく。


 ――シロちゃん、匠君のことが大好きだから離れる時はすごく寂しがっていたんだろうなぁ。


 私がシロちゃんと一緒に遊ばせて貰っていても、匠君のことが大好きだって伝わってくる。信頼関係が強いんだと思う。

 シロちゃんは匠君といつも一緒に寝ているようで、匠君の傍だと安心して眠っているし。


「うん、シロちゃんと遊ばせて貰うね」

 と言い終われば、「匠、そろそろ時間ですよ」という第三者の声がスマホ越しに聞こえてきた。

 どうやら、匠君は行かなければならないようだ。


『ごめん、朱音。俺から電話したのに』

「ううん。気を付けてね」

『何かあったら遠慮せず五王家に連絡して。あと、お土産沢山買ってくるから! じゃあ、行って来る』

「うん、いってらっしゃい」

『……』

 私の言葉に匠君が無言になってしまったので首を傾げてしまう。

 特別変なことは口にしてなかったと思うんだけれども……


『朱音、もう一度言って貰ってもいいか?』

「え、うん。いってらっしゃい」

 どうやら、匠君は聞き取れなかっただけみたいだ。


「いいな、いってらっしゃいって。毎日言われたい。じゃあ、戻って来た時に連絡するよ。メッセージは送れるけど、電話は時差があるから控えるな」

「うん。じゃあ、また匠君が戻って来た時に」

 私は匠君との通話を終え窓の外を眺めれば、広がる青空に飛行機雲が真っ白いラインを作り上げていた。








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