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念願の手作りお弁当

別荘へと戻った私達は、手洗いうがいを済ませて早速お昼にすることにした。

せっかくの自然豊かな場所に来ているのだから、美しい外の景色を眺めながら食事をしようと話になり、リビングで食事を摂ることに。


リビングには堀こたつや棚などの家具類があるというのに、シロちゃんが駆けまわれそうなくらいに広々としている。

そのため、私と匠君、シロちゃんの三人では少し寂しいって感じてしまうくらいだ。


匠君にここへ誘われた時、別荘と聞いて真っ先に想像してしまったのは暖炉。

私のイメージ通りに室内の一番奥には暖炉もあった。

ゆらゆらと動く温かなオレンジ色の火が室内を暖めてくれ、薪の爆ぜる音が時折聞こえてきていた。


――外、きれいだなぁ。


私はこたつに入りながら、正面にある大きなガラス張りの窓を眺めている。

窓から見える風景は、周辺に植えられている木々が朱や深緑の葉を付け、綺麗なグラデーションを描いているものだった。

一つの絵画のように美しい。


「朱音」

名を呼ばれた私は、左手へと顔を向ける。すると、そこには私と同じようにこたつに座っている匠君の姿が。

いつもは対面して座ることが多いけど、今日は外の景色が見やすいようにと彼が気を使ってくれたのだ。


「その、そろそろお弁当の中身を見てもいいか?」

匠君は視線でテーブル上を指す。


そこには桜の花が描かれたお重のような正方形の大きなお弁当箱、それから二つの丸いお弁当箱がのせられていた。

全部私が作ってきたお弁当だ。ちょっと張り切り過ぎてしまったので、二人分にしてはちょっと多い気がする。


「うん! 開けるね」

私がお弁当の蓋を開ければ匠君から歓声が上がったので、気恥ずかしくなってしまう。


だって、お弁当は五王家で食べているような立派なものではなく、サンドイッチ、卵焼き、唐揚げなどの行楽お弁当の定番ともいえるメニューが詰められていたからだ。


「すごく美味しそうだ」

「ありがとう。フルーツもあるよ」

私が丸いお弁当箱へと手を伸ばせば、ひんやりとした感触が手に伝う。

カットフルーツや野菜などは、冷蔵庫に入れておいたので冷たくなっていた。


「念願の手作り弁当っ!!」

目を輝かせ弾んだ声を上げた匠君に対し、私達の傍でお昼を食べていたシロちゃんは楽しそうに吠えだす。

シロちゃんのご飯を用意してから私達の食事の準備だったので、シロちゃんは一足先にお昼中だ。


「朱音、写真撮ってもいい?」

「うん、大丈夫だけど普通のお弁当だよ」

「朱音が俺のために初めて作ってくれた記念。前に尊が朱音のお弁当を食べたのがずっと羨ましかったんだ」

匠君が顔を緩ませながら写真を撮影しているのを見て、私は本当にお弁当を楽しみにしてくれていたんだなぁって思った。

今日の予定を決めるために二人で話をしていた時も、彼はお弁当のことを言っていたし。


「では、さっそく……いただきます!」

「いただきます」

私達は箸を取ると、お弁当へと手を伸ばす。


――味とかどうかな? 匠君に合うといいんだけど。


卵焼きを皿へと乗せながら、私はじっと唐揚げを食べている匠君を見詰めた。

佐伯さんの時もそうだったけど、家族以外の誰かに食べて貰うのは緊張する。

以前、佐伯さんに作った時は目の前で食べて貰うということがなかったけど、今は直接顔を見合わせているから余計反応が気になるのかも。

あまりにもじっと見すぎていたのか、匠君と視線が交わってしまう。


「おいしいよ! 朱音、ありがとう」

彼の言葉と笑顔で、私はほっと安堵の息を零す。


――良かった。


「朱音、料理上手だな。俺、毎日食べたいよ。今日は寒いから中でだけど、温かくなったら外でお弁当も良いよな」

「うん」

太陽の温かさを感じながらの食事も素敵だ。


「もうすぐ修学旅行だけど、匠君達は海外だっけ……? 匠君、海外行くの慣れてそうだね」

「よく行くよ。父さんの仕事関係だったり、叔母さんがアメリカで暮らしているからさ。六条院では修学旅行というより、交流会も含まれているんだ。六条院の姉妹校というか、付き合いのある学校に立ち寄ったりするから。朱音は奈良・京都だったよな?」

「うん。修学旅行先が海外の学校も多いけど、うちは毎年奈良・京都なの」

「朱音に聞きたいんだけど、修学旅行って班決めとかあるよな? その……グループに男はいるのか?」

「いないよ」

「そうか! 良かった」

何が良かったのかな? と私は首を傾げる。


私は豊島さん達と一緒のグループなので女子のみ。

けど、自由行動は男子のグループと行動を共にする予定だ。


一緒にお昼を食べたりする松波さんが学祭で同じく衣装係をした原口君の事を好きになったそう。

でも、学祭が終わって同じクラスということ以外接点が皆無に。


原口君も松波さんのことが好きなようで、彼の友達達が修学旅行の自由行動1日だけでもいいから二つのグループで一緒に回って接点を! と私達のグループに持ち込み一緒に回る事になった。


原口君は、最終日までに告白したいって言っていたっけ……


「修学旅行で告白する子も多いのかな?」

何気なく口にすれば、匠君が目をひん剝いて「こ、告白っ!?」と裏返った声を上げてしまう。


「待って。誰が告白するのっ!? 朱音が!?」

原口君と言ってもいいのだろうか。

そもそも匠君は原口君を知らないし、告白する予定だと他の人に言っても良いのかわからない。そのため、私は原口君の事は伏せることに。


「修学旅行ってそういうのが多いのかなって思ったの。私ではないよ」

「焦った……朱音が告白するのかと思ったよ。良かった。本当に良かった……」

匠君は私が見ても充分理解出来るように体から力を抜く。


「でもさ、告白ってすごく勇気がいるよね」

「本当に勇気がいる。相手が自分のことをどう思っているかわからないし不安だし、距離感とか図りながらタイミングを見つつと思っている」

「あっ! 告白といえば、この間友達にジンクスのある喫茶店を教えて貰ったの。今度、匠君と一緒に行ってねって言われたんだ」

「ジンクス?」

「うん。老舗の喫茶店みたい。『楡の木』っていうところなの。ちょっと待っていてね」

私は鞄からスマホを取り出すと、操作していく。

お店の件は匠君に伝えるために、ブックマークしていたのですぐに表示出来た。


「ここなの」

私がスマホを差し出せば、匠君が受け取った。

そしてディスプレイを目で追っていく。


「ジンクスのあるここで告白すれば、告白成功率アップするかも? って、なんでだろう」

「昔、ここで告白した男性が成功したことが由来みたい。それ以来、告白して成功する人が多いんだって。座席の指定とかもあって、お店の一番右奥」

「告白して成功した場所は学校とか他にも多そうだけど、なぜこの店だけジンクスとして根付いたのだろう」

「最初に告白したのが、とある御曹司だったからじゃないかな」

「御曹司?」

「うん。もう少し下の箇所に書いてあるの」

匠君は私の言葉を聞き、ディスプレイをフリックしてページをスクロールする。


「あった。とある御曹司が告白して成功。数年後、その女性と結婚したことに由来するそうって書いてあるな。誰だ、その御曹司」

「誰だろうね……? 匠君のお祖父さんかお父さんなら知っているかも。結構昔からあるお店だから」

「今度聞いてみるよ。以外と身近にいたりして。なぁ、シロ」

と、匠君がシロちゃんへと顔を向ければ、体を伏せてすやすやと眠っていた。

お腹がいっぱいになって睡魔が襲ってきたのかもしれない。

寝ていてもすごく可愛い。


「寝たのか……シロ、今日は朱音と遊んで貰って機嫌が良かったみたいだ。最近、俺が修学旅行の準備をしていると邪魔してさ。家を空けるのを察するんだろうな。体は大きくても子犬の時と変わらず甘えん坊なままだから」

「シロちゃんも寂しいんだよね。匠君が大好きだから」

「修学旅行までシロといっぱい遊ぶつもり。朱音も良かったらいっぱい遊んでやって。シロ、朱音と遊べるのが嬉しいみたいだから」

「うん。私もシロちゃんと遊べて嬉しい。今日は夜も一緒にいられるし」

夜は五王家のみんながちょっと早めに私の誕生日をお祝いしてくれるそうだ。

明日も休みなので、美智さんが「お泊りで!」と私の両親に事前に連絡して許可を貰ってくれたので一緒にいる時間が沢山ある。

五王家の人々には家族のように良くして貰っていて嬉しい。


今までは誕生日というのは特別な日ではなく、いつもと変わらない日常だった。

でも、今年は匠君や五王家の人達にお祝いして貰えて幸せ。


――来年はどんな誕生日を迎えられるのだろうか。


「朱音。来年は当日お祝いしような。朱音受験だし学校もあるから遠出は出来ないかもしれないけどさ」

「うん、ありがとう」

匠君達と出会う前は未来のことを楽しみに思うことなんてなかったけど、彼らのお蔭で自分の未来が少しだけ良いものに感じられるようになっていた。




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