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一級フラグ建築士

榊西の学園祭も無事終わり、あっという間に尊達と約束していた日となった。

どこに行くか事前にみんなで相談した結果、今回は尊と豊島さんの地元近くにある遊園地に。

俺が朱音を迎えに行き、遊園地の入場ゲート前で待ち合わせをしていた尊達と合流し、購入していたwebチケットで園内へ。

遊園地は日曜日ともあってか、家族連れや友人同士で訪れている人々で賑わっていた。


――尊と豊島さんを二人きりにしたいんだけど、なかなか難しいな。


俺はちらりと目の前に視線を向ければ、朱音と豊島さんの後ろ姿が飛び込んでくる。二人はパンフレットを眺めながら楽しそうにおしゃべりをしていた。


今日の朱音はレースとリボンが合わさったホワイトのトップスとギンガムチェックパンツという恰好をしていた。その上には、飾りのないニット素材の秋らしいワインレッドのロングカーディガンを羽織り、肩からは斜め掛けのバッグを掛けている。

朱音らしくてとても可愛い。


一方の豊島さんは、紺と白のボーダー柄のVネックトップスにブラックのショートパンツとレギンス。足元はスニーカーで歩きやすそうだ。

バッグはリュックという全体的に実に動きやすそうなコーディネートだって思う。


豊島さんが友達とわいわい楽しむタイプなため、二人で遊ぶ事が滅多にない尊のためにも、なんとかゆっくりと話をさせてあげたい。

だが、豊島さんが朱音の隣をキープ。

あまり敷地が大きくもない遊園地のため、四人で横並びをするのは迷惑になりそうなので、二対二に分かれ移動することになったからだ。

そのため、俺の隣には尊がいる。


――やっぱりアトラクションで自然に尊と豊島さんをペアにした方がいいか。豊島さんも俺が朱音のことが好きだと知っているから気を遣ってくれそうだし。


「匠は乗りたいものとかある?」

朱音達を見ていたら尊から声をかけられたため、隣へと意識と顔を向ければ、爽やかな笑顔を浮かべた彼と目が合った。

尊は彼自身と同じように服装も清潔感溢れる恰好をしている。


ストライプのシャツとニットの重ね着に下はブラックデニム。その上には落ち着いたダークブラウンのコートという姿。

ラフな格好をしているのに絵になるのは、流石は尊。


「観覧車には乗りたいって思っているんだ。定番と言えば定番かもしれないけど」

「観覧車か……」

俺の台詞を聞いた尊が、苦い表情を浮かべている。


「あれ? 高所恐怖症じゃなかったよな、尊」

「高所恐怖症ではないけど、観覧車がちょっと苦手なんだ。子供の頃、乗っていた時に風が強くて止まったことがあってさ」

「そうか。じゃあ、今日は乗るのは止めよう」

遊園地は楽しむために来ているので、嫌なものにわざわざ乗る必要なんてない。

そんな修行をする場所ではないのだから。


「大丈夫。気にしないでくれ」

尊が一瞬だけ前方を歩いている豊島さんの方へと顔を向けたので、なんとなく察することが出来た。

豊島さんが観覧車に乗るのが好きなんだということに。


「気持ちはわかるが、無理はするなよ?」

「止まらなければ大丈夫。今日は風が強くないようだし」

尊が空を見上げながら呟くと同時に、「あーっ!」という豊島さんの叫び声が聞こえてきたので、俺達は弾かれたように顔を彼女の方へと向ける。


すると、彼女はメリーゴーランド前でチビッ子に囲まれている柴犬がデフォルメされた着ぐるみに目が釘付けになっている状態だった。


「あれはゆるキャラか?」

「遊園地のオリジナルキャラクターで柴犬のしーちゃんだな。一応、この遊園地の管理をしているという設定だよ。グッズも販売されているはず」

「いつの間にあんなキャラがいたの!? かわいい! 犬って可愛いよねー」

「豊島さん、もしかして犬が好きなの?」

「そうなの! でも、本当は家でも家族に迎えたいんだけど、うちは洋菓子店でみんな忙しくて……露木さんは? 動物好きそうな気がするけど」

「私も好き。うちもペットはいないんだけど、匠君の家にいるシロちゃんに時々遊んで貰っているの。シロちゃんすごく可愛いんだ。ふわふわで真っ白で温かくて」

そう言って、はにかんだ朱音が可愛い。きっと、頭の中でシロを思い描いているのだろう。良かったな、シロ。


「ふわふわ……五王さん、写真とかありますかっ!?」

くわっと目を開いた豊島さんに両肩を掴まれ、俺はちょっと怯んでしまう。

まさか、そこに食らいつくなんて思いもしなかったから。


――俺じゃなくて、ぜひ尊の方にっ!!


「写真があったら見たいです」

「シ、シロのならスマホに動画と画像が……」

「見せて下さい。ふわふわでもふもふの犬」

俺はポケットからスマホを取り出し操作してディスプレイに画像を映し出すと、豊島さんへと渡す。すると、彼女が目を輝かせながら唇を開く。


「大型犬! しかも、すごいふわっふわっ。綿あめみたいですね。触りたい! 今度一緒に遊ばせて貰ってもいいですか?」

「構わないんだけど、うちのシロはちょっと人見知りが激しくて……」

「さ、さっ、佐伯さんの家にもいますよね!? ロロンとノノちゃん。大きくなりましたか?」

豊島さんの反応を見て朱音も戸惑っているらしく、震える声で尊へと話を振り出す。朱音、ナイスアシストだ。

それがきっかけとなり、豊島さんは尊へとやっと顔を向ける。


「あれ? 佐伯の家ってノノの他にも犬いるの? ノノとは何度か遊ばせて貰ったけど……」

「うん。ほら」

そう言って尊がスマホを俺達の方へと見せてくれた。


映し出されているのは、露天風呂に浸かっているノノと、尊に抱っこされて足先だけつけて貰っているロロンの姿。

風呂はペット用のようで、ゴールデンレトリバーのノノがちょうどよい深さなので大型犬用なのだろう。

周りには建物が一切なく、木々に囲まれ自然豊かな雰囲気で空気も美味しそうだ。



「かわいい!」

「モコモコした小さいシベリアンハスキーだ。かわいい~」

良かった。豊島さんが食いついてくれてと、俺はほっと安堵の息を零す。


――あれ? ここってもしかして。


心に余裕が出来たのか、やっと落ち着いて写真を見ることが出来たため、俺はとある事に気づく。

そこが俺もシロと時々訪れるペット同伴可の旅館だということに。


「ここって山沿いにあるペットと一緒に泊まれる旅館か? 人間用の露天風呂がある」

「そうだよ。もしかして、匠も行くの?」

「あぁ、うちもたまに。シロが風呂も好きなんだ」

そう言ってスマホを弄ると、最近訪れた時の動画をみんなに見せた。

犬用露天風呂に浸かりながら、頭に手ぬぐいを乗せ、まったりとしているシロの姿。

お風呂効果なのか、常日頃からのほほんとしている癒し系の表情がいつもよりも緩くなっている。


「シロちゃんかわい。いいなぁ。シロちゃんと温泉……」

「今度一緒に温泉行こう!」

俺は朱音の呟きを聞き逃すことなく拾った。

ここぞというチャンスは全て次へと繋げていくため、とっても大切。


「いいの……?」

「勿論だ。料理も美味しいし、すごくゆっくり出来て良い所なんだよ」

あぁ、どうしよう。緩んでいく顔が押さえられない。

朱音と一緒に温泉で宿泊なんて!


……まぁ、保護者として五王家の人間は誰か一人は確実に一緒だが。

なんならみんなで行こうよ! と五王家全員来そうな気がする。それどころか、聞きつけた春ノ宮家が登場する未来すら視えてしまう。


「よかったね、露木さん!」

「うん」

「いいなー。私も遊びたい。あっ、そうだ! 佐伯、今度ロロンに会わせてもらってもいい? ノノとも久し振りに走り回って遊びたい」

「いつでも来てくれ。歓迎するよ」

弾んでいる尊の声を聞き、次の約束が出来て良かったなぁと思った時だった。

館内放送の音楽が流れたのは。


「本日は当園にお越し頂きありがとうございます。期間限定のアトラクション・巨大迷路にてスタンプラリーを行なっていますので、是非皆様の挑戦をお待ちしております。なお、スタンプを全て集めると当園のキャラクターしーちゃんのクリアファイルをプレゼントいたします」

「しーちゃんのクリアファイル……」

豊島さんは館内放送を聞き、呟いた。


「ねぇ、最初は迷路に行かない? 期間限定みたいだし」

満面の笑みを浮かべた豊島さんに、朱音も尊も微笑んでいる。


「うん、私は大丈夫。佐伯さんと匠君は?」

「俺は構わないよ」

「俺も」

というわけで俺達は迷路へと向かうことに。



パンフレットを頼りに道を進み辿り着いた迷路前。

ヒマワリなどの迷路は見たことがあるけど、プラスチックの青や緑のカラフルな板を組み合わせて作られた大きな迷路は始めて見る。

入り口の隣に出口があり、最終的にはぐるぐる回ってここに出るらしい。


迷路の注意事項などが記された看板の下部には受付が設置されてあり、スタンプラリーの用紙と景品の交換所があったので、俺達はそちらへと足を進めていく。

どうやらギブアップ用の通路もあるらしいので、小さな子供連れでも参加できるようだ。


遊園地に来ている人々は、迷路よりも他のアトラクションを優先すると思っていたが、意外と人が集まっていて受付には列が出来ている。


「迷路なんて久しぶりだ。小さい頃になにかのイベントで体験して以来だなぁ」

「尊はやったことあるのか、俺は初めて……ん?」

尊と話をしていると、視線を感じたので前へと顔を向ければ、じっと朱音が俺の方を見ていたため、ドキッと鼓動が一度跳ねる。

朱音の澄んだ瞳に俺が映し出されていると思うと、気恥ずかしさとか色々な感情により緊張が身体を包む。


「ど、どっ、どうしたんだ!?」

「匠君と似ている格好をしている人がいて……もしかしてそういう服がいま流行しているの?」

「えっ?」

朱音が周辺を見回したので、俺も追うように瞳を動かせば確認できた。

三・四人程だろうか? 俺と同じように、パーカーと黒のジャケット、それから深いグレー交じりのパンツスタイル。


――珍しいコーディネートではないが、色も被るのは珍しい気がする。


「あっ! それたぶん、ドラマの影響だよ」

「ドラマ?」

豊島さんはスマホをいじると、俺達へと見せてくれた。


映し出されているのは、学園ドラマのホームページ。

俺は見たことがないけど、美智は見ているようで「ヒーローよりも当て馬の方が素敵なのに……むくわれて欲しいわ」と言っていたのを聞いたことがある。

どうやら俺はその当て馬が先週放送していた時の格好をしていたらしい。


「本当だ。これ、匠の格好と似ているな」

「当て馬の方が良いんだよねー。ヒロインが落ち込んでいる時に慰めてくれたり、ライバルにメンタル攻撃されている時に守ってサポートしてくれるの」

「豊島さん見ているの?」

「うん。おもしろいから露木さんも良かったら見て! ヒーローチャラい上に優柔不断で、ヒロインと元カノの間をふらふらしているからイラッと来る時もあるけどさ。元カノもいらっとするんだよね。他に彼氏がいるなら来るなよ! って思うけど、基本的にはすごくおもしろくてオススメだよ。当て馬の作るお菓子が美味しそうで見ていたんだけど、毎週楽しみにしているんだ」

「お菓子目当てで見たって豊島らしいな」

そう言った尊の表情が、ドラマや漫画のヒーローのように優しくて爽やかだった。










「結構難しいな。空間認識力と記憶力を必要とするというか……」

スタンプラリーの紙を貰っていざ迷路の中へ。

結構簡単だと思っていたが、実際やってみれば想像と全く違った。

頭を使って色々と考えながら先へと進まなければならないし、スタンプも探さなければならないのだ。


「そうですよね。さっきも一度辿った道を通ってしまいましたし。あっ、でも一望できる場所もあるみたいですよ。あそこまで向かうのが大変かもしれませんけど」

俺の傍にいた豊島さんが指をさした場所へと視線を向ければ、櫓のようなものが組まれ迷路を一望できるようになっていた。

数人が櫓の上に立ち、見回しているのが確認できる。


「いいな、あれ。四方を確認できる」

「じゃあ、一先ず櫓を目指しましょうか」

「そうしよう。朱音と尊もそれでいい……え。朱音、尊っ!?」

ついさっきまで朱音達がいた方へと顔を向ければ二人の姿がなく、俺の体から血が抜けてしまったかのようにさーっと冷たくなっていく。


――まさか、はぐれてしまったのか。


朱音から、一瞬でも目を離すべきではなかった。

迷路を攻略するのに集中してしまったせいで……


「二人とも攻略に気を取られ、間違えて他の人の後に着いて行ったのかな……? 五王さんと似たような恰好をしている人もいたから」

「なんで俺はこの恰好をしてしまったんだ」

「大丈夫ですよ、きっと。佐伯も一緒の可能性もありますから。ちょっと連絡してみますね」

豊島さんがスマホを取り出しアプリでメッセージを送れば、やや間が空いたが返信があった。


「朱音達はっ!?」

「二人一緒のようです。やっぱり人違いをしてしまったようですよ。迷路に夢中になっていたそうです。だから、視界の端にいた人を五王さんと間違えてたらしくて。佐伯がいるから安心して下さい。櫓で合流しましょう」

「ここで一級フラグ建築士のスキルが出てしまったのか……」

暫く忘れていた尊の属性。

彼がフラグ建築士だということを思い出したと同時に、今度からドラマを考慮して服を選ぼうと思った。







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